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第五章.美しくありたい
12.一時撤退
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「大人の男女の逢瀬を邪魔するとは、無粋な娘だな?」
「くっ……!」
非力な私でも上手く意識を刈り取れるか心配でしたが……魔法で造った鉄棒で後頭部を殴れば、クレル君はそのまま倒れてしまいます。そんな彼を後ろから脇の下に腕を通すようにして抱き留めます……が、重いです!
「マー、ク……君、手伝っ……てぇ……!」
もう……無理ですっ! 分かってはいましたが、クレル君の身体は鍛え上げられていて筋肉が重いですっ……どんどん後ろに倒れてくる彼を支えきれなくて、足が地面を滑り、腰が反り返ってしまいます……こ、このままではクレル君に潰されてしまいますっ!
「『我が願いの対価は華三輪 望むは無敵の筋力』……リーシャさんは魔女に注意してて下さい」
「はぁ……はぁ……あ、あり……が、とう……ござい、ま……す……」
マーク君がクレル君を背負ってくれて助かりました……やっぱり男の人って筋肉がガッシリしてて重いですね。……これは私の運動不足とか非力は関係ないと思いますっ! ……多分。
「なんだい、骨のある娘かと思ったのに……情けないねぇ?」
「うる、さ……いで……す……」
その、とても……とても破廉恥な、見てる私まで恥ずかしくなって顔が熱くなるような格好をしてらっしゃる魔女さんには言われたくありません。
「その男が欲しいの……くれない?」
「ダ、メ……です!」
「あ、そう……じゃあ力づくで奪おうかしら?」
「『我が願いの対価は憤怒の鉄人形 望むは私を逃がす殿 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため 起きよ』」
産み出した可愛い可愛いお人形さんに私を抱えて貰い、マーク君と並走しながらどうするかを考えます……周囲の木々が魔女さんの腕の振りに連動して枝や根を伸ばし始めるのを見るに、彼女こそがこの森の核であり……魔物なのでしょう。
「そこの坊や、貴方も一緒にこっちに来ないかい?」
「うおっ?! なんだ、これ……!!」
「っ! 『我が願いの対価は悲哀の鉄人形 望むは私を逃がす殿 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため 起きよ』」
どんな力なのかまったく検討も付きませんが……恐らく、彼女は異性を誘惑するのでしょう。クレル君だけでなくマーク君まで意識を持っていかれては堪らないのですぐさま追加の鉄人形で彼ら二人を抱えて走って貰います。……マーク君には悪いですが少し眠ってて貰いましょう。
「がっ?!」
「……乱暴で、それでいて邪魔な娘だ『あそこだあそこ 陽光たる彼は目の前に 枝を伸ばせ 根を張れ 葉を生い茂らせて 享受しろ』」
「『我が願いの対価は歓喜の銀ナイフ 望むは道切り拓く剣 貴方は切って整える 命を斬り捨て 生命を剪定し 道を開く事こそ存在理由 その身を乾かす暇はない』」
魔女さんが森の木々に命令する事で一斉に伸びてきた枝や根を、魔法で造りだした十三本の騎士剣で伐採していきます。……もしもの時の為にマーク君から帰る時の順序は逐一教えて貰っています、私はお人形さんに任せるだけで彼女に集中しましょう。
「ほう? アンタ、『鉄の魔女』かい?」
「……そ、うで……す……貴女、と相性……は最、悪で……す、よ」
「ククク、確かにアンタとは分が悪そうだ……でも良いのかい? 鉄は──」
このまま諦めてくれれば私も助かるのですが……伸びてくる枝を切り払い、根を切断し、葉をたたき落としてクレル君やマーク君を守る。
「──生命を刈り取るほどに錆びていくものだよ」
「……」
「ほうら、今も十二本目が錆びて朽ちていってしまったよ? 追加がそろそろ必要じゃないかい?」
「…………『我が願いの対価は憤る銀ナイフ 望むは道切り拓く剣 貴方は切って整える 命を斬り捨て 生命を剪定し 道を開く事こそ存在理由 その身を乾かす暇はない』」
彼女言う通りですね……相性はこちらに分があれど、物量という点では向こうが圧倒的です。……それに、無事に孤児院まで逃げ切れても所詮は森の中……大丈夫だとは言い切れません。
「ほぅら、短時間に製鉄し過ぎて目から赤錆の涙が流れてるじゃないか」
「うる、さ……い……で、す……『我が願いの対価は激怒の銀弾 望むは城塞打ち崩す砲弾 威圧する砲音 城壁を貫き 臆病な兵士を磨り潰す 貴方は無情な砲弾』」
さらに騎士剣を十三本追加し、右目から流れてくるザラザラとした赤錆の涙を拭いながら彼女へ向けて音速の弾丸を撃ち出します……が、一斉に周囲の木々がまるで生きているかのように地面から起き上がり、彼女を守るための盾となります。……ほとんど貫きましたが、彼女に届くまでには至りませんでしたね。
「ふふふ、あぁそうか……アンタ身体が鉄に侵食されてるから上手く動かせないんだろ?」
「……」
「その若さでそこまで……いったいどんな幼少期を過ごしたのかねぇ?」
「本、当……にうる、さい……で、すよ……」
お人形さんに担がれ、猛スピードで撤退しますが……少しばかり一人ではキツイですね。……視界の横を流れるように通り過ぎる木々を見ながら、魔女さんが操れる木々の範囲はそんなに広くないのかと考えてみますが……楽観視はいけません。……さらに騎士剣を十三本追加します。
「この森で私から逃げられる訳ないじゃないか、大人しくその男を寄越しな」
「い、やで……す! 『我が願いの対価は煌めくインゴット 望むは彼女と私を隔てる壁 怖いよ怖いの 彼女が怖いの 私を護って 閉じ込める檻でも構わないわ 私から遠ざけて護って』」
「……生意気な娘だね」
大地を突き破る木の根に乗ったまま追い掛けてける魔女さんに向かって投げたインゴットを始点として、液体のように溶けて波打つ鉄が槍衾のように彼女に殺到しながら壁を創り出していく。……このまま逃げ切れるとは思いませんけど、時間稼ぎくらいは。……さらに騎士剣を十三本追加します、
「──ごふっ?!」
「ほぅら、短時間の内に魔法を行使し過ぎたようだね……揺り戻しが来てるじゃないか」
自分の口から溢れ出る血を拭いながら魔女さんを睨みますが……彼女の言う通りですね、これ以上の魔法の行使は〝偉大なる大地〟に『欲張り過ぎ』だと怒られ、〝欲深き大地〟からは『そんなに欲しいのか』と足元を見られ、さらなる『対価』を要求されるでしょう。……それに、人体にとって異物でしかない鉄を取り込み過ぎですね。
「……そろそろ、アンタ自身が危ないよ?」
魔女さんの言う通りですね、本当に危ないです……お人形さんに任せて、私自身は運動はしていないと言うのに、心臓が激しく鼓動して苦しいです。
「それ、で……も、相棒……だ、から──」
「──リーシャすまん、もう大丈夫だ」
「あぅ……クレ、ル君……?」
さらなる『供物』を取り出したところで、いつの間にか私を担ぐ人形に移動していたクレル君が私の頭に手を置きます。……目が覚めて、そこまで頭に異常が無かったようで安心すると共に罪悪感が薄れますが……また魅了されないでしょうか?
「……も、う大丈……夫です、か?」
「あぁ、すまんな……『我が願いの対価は不遜なる羊毛八束 そちらへ行ってはいけない 獣がいるよ そろそろ帰る時間だ──』」
無詠唱で私の中の異物……鉄を取り出しながら相反する『生命』を流し込み、魔法の行使し過ぎによる揺り戻しを中和するクレル君を見て、本当に『大樹』のセブルス様のお弟子さんだと再認識します……しかも『転移』という大魔法の準備を同時進行しながら。
「……行ってしまうのかい?」
「『──羊飼いの帰宅鐘』……すまんな、俺にはもう相棒が居る」
「そうかい」
そのまま白く染まる視界の中で、クレル君の服をギュッと掴みながら肩の力を抜きます……今回はなんとか凌げたようですね。
▼▼▼▼▼▼▼
「くっ……!」
非力な私でも上手く意識を刈り取れるか心配でしたが……魔法で造った鉄棒で後頭部を殴れば、クレル君はそのまま倒れてしまいます。そんな彼を後ろから脇の下に腕を通すようにして抱き留めます……が、重いです!
「マー、ク……君、手伝っ……てぇ……!」
もう……無理ですっ! 分かってはいましたが、クレル君の身体は鍛え上げられていて筋肉が重いですっ……どんどん後ろに倒れてくる彼を支えきれなくて、足が地面を滑り、腰が反り返ってしまいます……こ、このままではクレル君に潰されてしまいますっ!
「『我が願いの対価は華三輪 望むは無敵の筋力』……リーシャさんは魔女に注意してて下さい」
「はぁ……はぁ……あ、あり……が、とう……ござい、ま……す……」
マーク君がクレル君を背負ってくれて助かりました……やっぱり男の人って筋肉がガッシリしてて重いですね。……これは私の運動不足とか非力は関係ないと思いますっ! ……多分。
「なんだい、骨のある娘かと思ったのに……情けないねぇ?」
「うる、さ……いで……す……」
その、とても……とても破廉恥な、見てる私まで恥ずかしくなって顔が熱くなるような格好をしてらっしゃる魔女さんには言われたくありません。
「その男が欲しいの……くれない?」
「ダ、メ……です!」
「あ、そう……じゃあ力づくで奪おうかしら?」
「『我が願いの対価は憤怒の鉄人形 望むは私を逃がす殿 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため 起きよ』」
産み出した可愛い可愛いお人形さんに私を抱えて貰い、マーク君と並走しながらどうするかを考えます……周囲の木々が魔女さんの腕の振りに連動して枝や根を伸ばし始めるのを見るに、彼女こそがこの森の核であり……魔物なのでしょう。
「そこの坊や、貴方も一緒にこっちに来ないかい?」
「うおっ?! なんだ、これ……!!」
「っ! 『我が願いの対価は悲哀の鉄人形 望むは私を逃がす殿 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため 起きよ』」
どんな力なのかまったく検討も付きませんが……恐らく、彼女は異性を誘惑するのでしょう。クレル君だけでなくマーク君まで意識を持っていかれては堪らないのですぐさま追加の鉄人形で彼ら二人を抱えて走って貰います。……マーク君には悪いですが少し眠ってて貰いましょう。
「がっ?!」
「……乱暴で、それでいて邪魔な娘だ『あそこだあそこ 陽光たる彼は目の前に 枝を伸ばせ 根を張れ 葉を生い茂らせて 享受しろ』」
「『我が願いの対価は歓喜の銀ナイフ 望むは道切り拓く剣 貴方は切って整える 命を斬り捨て 生命を剪定し 道を開く事こそ存在理由 その身を乾かす暇はない』」
魔女さんが森の木々に命令する事で一斉に伸びてきた枝や根を、魔法で造りだした十三本の騎士剣で伐採していきます。……もしもの時の為にマーク君から帰る時の順序は逐一教えて貰っています、私はお人形さんに任せるだけで彼女に集中しましょう。
「ほう? アンタ、『鉄の魔女』かい?」
「……そ、うで……す……貴女、と相性……は最、悪で……す、よ」
「ククク、確かにアンタとは分が悪そうだ……でも良いのかい? 鉄は──」
このまま諦めてくれれば私も助かるのですが……伸びてくる枝を切り払い、根を切断し、葉をたたき落としてクレル君やマーク君を守る。
「──生命を刈り取るほどに錆びていくものだよ」
「……」
「ほうら、今も十二本目が錆びて朽ちていってしまったよ? 追加がそろそろ必要じゃないかい?」
「…………『我が願いの対価は憤る銀ナイフ 望むは道切り拓く剣 貴方は切って整える 命を斬り捨て 生命を剪定し 道を開く事こそ存在理由 その身を乾かす暇はない』」
彼女言う通りですね……相性はこちらに分があれど、物量という点では向こうが圧倒的です。……それに、無事に孤児院まで逃げ切れても所詮は森の中……大丈夫だとは言い切れません。
「ほぅら、短時間に製鉄し過ぎて目から赤錆の涙が流れてるじゃないか」
「うる、さ……い……で、す……『我が願いの対価は激怒の銀弾 望むは城塞打ち崩す砲弾 威圧する砲音 城壁を貫き 臆病な兵士を磨り潰す 貴方は無情な砲弾』」
さらに騎士剣を十三本追加し、右目から流れてくるザラザラとした赤錆の涙を拭いながら彼女へ向けて音速の弾丸を撃ち出します……が、一斉に周囲の木々がまるで生きているかのように地面から起き上がり、彼女を守るための盾となります。……ほとんど貫きましたが、彼女に届くまでには至りませんでしたね。
「ふふふ、あぁそうか……アンタ身体が鉄に侵食されてるから上手く動かせないんだろ?」
「……」
「その若さでそこまで……いったいどんな幼少期を過ごしたのかねぇ?」
「本、当……にうる、さい……で、すよ……」
お人形さんに担がれ、猛スピードで撤退しますが……少しばかり一人ではキツイですね。……視界の横を流れるように通り過ぎる木々を見ながら、魔女さんが操れる木々の範囲はそんなに広くないのかと考えてみますが……楽観視はいけません。……さらに騎士剣を十三本追加します。
「この森で私から逃げられる訳ないじゃないか、大人しくその男を寄越しな」
「い、やで……す! 『我が願いの対価は煌めくインゴット 望むは彼女と私を隔てる壁 怖いよ怖いの 彼女が怖いの 私を護って 閉じ込める檻でも構わないわ 私から遠ざけて護って』」
「……生意気な娘だね」
大地を突き破る木の根に乗ったまま追い掛けてける魔女さんに向かって投げたインゴットを始点として、液体のように溶けて波打つ鉄が槍衾のように彼女に殺到しながら壁を創り出していく。……このまま逃げ切れるとは思いませんけど、時間稼ぎくらいは。……さらに騎士剣を十三本追加します、
「──ごふっ?!」
「ほぅら、短時間の内に魔法を行使し過ぎたようだね……揺り戻しが来てるじゃないか」
自分の口から溢れ出る血を拭いながら魔女さんを睨みますが……彼女の言う通りですね、これ以上の魔法の行使は〝偉大なる大地〟に『欲張り過ぎ』だと怒られ、〝欲深き大地〟からは『そんなに欲しいのか』と足元を見られ、さらなる『対価』を要求されるでしょう。……それに、人体にとって異物でしかない鉄を取り込み過ぎですね。
「……そろそろ、アンタ自身が危ないよ?」
魔女さんの言う通りですね、本当に危ないです……お人形さんに任せて、私自身は運動はしていないと言うのに、心臓が激しく鼓動して苦しいです。
「それ、で……も、相棒……だ、から──」
「──リーシャすまん、もう大丈夫だ」
「あぅ……クレ、ル君……?」
さらなる『供物』を取り出したところで、いつの間にか私を担ぐ人形に移動していたクレル君が私の頭に手を置きます。……目が覚めて、そこまで頭に異常が無かったようで安心すると共に罪悪感が薄れますが……また魅了されないでしょうか?
「……も、う大丈……夫です、か?」
「あぁ、すまんな……『我が願いの対価は不遜なる羊毛八束 そちらへ行ってはいけない 獣がいるよ そろそろ帰る時間だ──』」
無詠唱で私の中の異物……鉄を取り出しながら相反する『生命』を流し込み、魔法の行使し過ぎによる揺り戻しを中和するクレル君を見て、本当に『大樹』のセブルス様のお弟子さんだと再認識します……しかも『転移』という大魔法の準備を同時進行しながら。
「……行ってしまうのかい?」
「『──羊飼いの帰宅鐘』……すまんな、俺にはもう相棒が居る」
「そうかい」
そのまま白く染まる視界の中で、クレル君の服をギュッと掴みながら肩の力を抜きます……今回はなんとか凌げたようですね。
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