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第三章.寂寥のお絵かき

10.似顔絵

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「むむっ中々に難しいわね……」

「まだぁ?」

 レティシャが感情を爆発させ号泣してからさらに三日が経過ている……既に期日まで一週間を切っており、そろそろ自分達の仲間が死んだ事に対して狩人たちの目を誤魔化す事も難しく、これ以上は奴らの罠が完成するばかりで何かあった時に凌ぎきれない可能性が高い。

「ちょっと待ってなさい、この天才である私があなたを目一杯可愛く描いてあげるから!」

「ほんとぉ~?」

 だが今も仲良くお互いに似顔絵を描きあっている彼女たちに『そろそろミーナを殺せ』などとは口が裂けても言えない……言いたくはない。さすがにこの状況ではカルマンもあまり言及はしたくはないようだ。

「この私が描くのよ? 当たり前じゃない!」

「そお? 期待してるわね?」

 しかしこちらのそんな雰囲気を感じ取ってはいるのか、リーシャは時折不安気にこちらを覗き見ては何かを言いかけ目を逸らし、レティシャは威嚇するように偶にこちらを睨み付けてくる……これは相当に不味い。

「リーシャは……あなた意外と上手いのね」

「あ、あり……がと、う……?」

「……もっと胸を張りなさいよね!」

「は、い……」

 ミーナの似顔絵を描きながらもこちらをチラチラと見てくる彼女たち……こちらが言及しなくとも物理的な期日が近付いている事もあり、やはり焦燥感があるのだろう。特にレティシャはミーナの境遇に同情し共感してしまっている……彼女には殺害は難しいかも知れない。

「私もうすぐ二人の似顔絵できるわよ?」

「は、早いわね? さすが私の友達といったところかしら?」

「すご、い……で……す、ね……」

 どうしたものか、やはり意図的に距離を置いている俺とカルマンの二人で殺害するしかないのかも知れんが……やはりミーナが完全な魔物になってしまったり、狩人の罠が発動した時のために戦力は多い方が良いのだが……僕だって歳下の彼女に同情するし、仲良くなれたのに殺すなんて無理だもんね、仕方ないよね……。

「というかもう出来たわ」

「どれどれ、見せて頂戴?」

 ミーナがこちら側へとキャンパスを裏返して見せてくれたリーシャとレティシャの似顔絵は相変わらず色が赤系統のみではあったが二人とも中々見せない笑顔であり、とても美しく綺麗だった……やはりミーナの絵の才能は素晴らしいものなのだろう。

「やっぱりあなたたちは泣いていたり、怒っていたり、オドオドするよりも笑顔の方が可愛いわ」

「あ、当たり前じゃない! 私は絶世の美女だもの!」

「ぅ……そ、そう……で……すか、ね……?」

 ……不味い、俺も彼女たちの微笑ましく仲睦まじいこの光景を眺めていて本当にミーナを殺害できるのか自信が段々と持てなくなってきている。早めに事を済ました方が良い理由が増えてしまった。

「……クレル、ちょっといいか」

「……なんだ」

 彼女たちを眺めながら頭を悩ませていると外から帰ってきたカルマンが神妙な面持ちでこちらに声を掛けてくる……事態が大きく動いたか。

「仮面は付けていないが狩人と思わしき人物がこの近辺を彷徨いている」

「……数は?」

「少なくとも四人は居そうだ」

「そうか……」

 やはり狩人が来たか……派遣されて来たということは罠が大体張り終えた後と見て良いだろう、非常にこの先ミーナを殺害してから帰還するのが難しくなった。

「どうする? 俺はさっさと殺して逃げた方が良いと思うが?」

「……どうせ罠は完成しているんだ、もう少し待とうじゃないか」

 もう少し……もう少しだけ彼女たちに時間を与えたい。このどうしようもない現実から一時目を逸らし、魔法使いとしてのやるせない義務から解放されて、普通の女の子として仲良く遊ぶ時間を彼女たちに。

「……別に構わないが、金は貰うぞ」

「……それよりも似顔絵を見たらどうだ?」

 まぁどうせそう来るだろうなとは思っていたさ……コイツだけだなブレないのは。金さえ貰えればそれで良いのだろう……とりあえず意識を逸らすために自然な流れで話題を変える。

「ふむ……やはり絵を描いた方が良いな」

「だろ?」

「無駄に生かす事で俺らの命が危険に曝されるんだ、相応の対価は貰わないとな」

「……」

 ……そうだな、俺やリーシャとレティシャはミーナに同情してしまっているために彼女が長く生き、これまでの人生の穴を埋めるように長く友達で居てやる事で彼女の笑顔という対価を貰ってはいるが……この良くも悪くも魔法使いらしいカルマンにはそんなものに価値は無いのだろう。

「……にしても笑顔のアイツら可愛いな」

「ふっ……そうだな」

「今笑ったな……?」

 二人とも普段はあまり笑わないからな、リーシャは常にビクビクオドオドしており相手の顔色を窺いながら隠れるし、レティシャは弱い自分を隠すために常に見栄を張りながら高圧的になるか号泣するかだしな……カルマンが思わず感嘆の言葉を漏らすのも仕方がないと言える。

「その笑顔が対価じゃ……ダメか?」

「……」

 ミーナの描いた絵を物色していたカルマンに改めて問い掛けてみる……先ほど彼は『可愛い』と、彼女たちの笑顔に『価値』を見出したのだ。それを無視する事は出来ないだろう。

「……今回だけだ、次からは手数料が発生する」

「ふっ……了解した」

 ムスッとした表情のカルマンが隣に乱暴に座り込む……そのまま言葉なく、珍しく少し口の端が持ち上がっている彼と一緒に彼女たちの様子を見守るのだった。

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