40 / 140
第二章.愛おしさに諦めない
4.屋根の上の取り締まり
しおりを挟む
「……まだ居るか?」
「多分居ます」
朝早く起きて支度をしていると仕切りの向こうからガイウス特務中尉が尋ねてくる……昨日とは違う人たちだと、なんとなく思うけれど断定はできない、居るのは居るわね。
「ここでは表の身分である警察武官として行く、そのため猟犬は使えない……が、一応持っておけ」
「……それは構いませんが、表の身分でですか?」
これは確か偽装のためだった気がするのだけれど……本当にそう名乗って動いても良いのかしら? だとしたら、色々と便利そうだけれど。
「表の身分とは言ったが偽の身分とは言ってはいない……お前の士官学校時代の成績を見て、警察武官の幹部候補生に足ると判断された」
「それでは……」
「上手く使い分けろ」
「了解致しました」
なるほど、私は狩人であると共に警察武官の幹部候補生でもある訳なのね……ということはつまり、そういった権限を実際に行使することを許されている訳だから上手く使い分けろと……中々に大変ね? ということはガイウス中尉は本当に警察武官でもある訳なのね。
「準備は出来たか?」
「はい」
「では不埒者を捕らえるぞ」
警察武官としての制服に身を包み、ガイウス中尉の後をついて車内を歩き、廊下の行き当たりの扉を二枚ほど開いて連結部へと出る……扉のすぐ横にある梯子を登って屋根に登ると雪が振り積もり、汽車の揺れと相まって足場の悪いことが確認できる。
「手を頭の後ろで組みなさい」
「……こんなところまで、おまわりさんは大変だねぇ?」
ライフルを肩から下げ、本当に居た不審者に向けて拳銃を向けて警告するが相手は腕を組まずにゆっくりとこちらを振り向く……その人物は褐色の肌に黒髪、そして金の瞳とガナン人の特徴を持っていた。
「見たところガナン人のようだが……外出許可は貰っているのか? そもそも『ガナリア区』の者なのか? そして無賃乗車だと理解しているのか?」
「……」
「答えろ」
ガイウス中尉が警告に一発目を発砲する、それは彼の頬を浅く傷付け、屋根に当たる事で弾かれる。……それでも彼はまったく動じずにこちらを鼻で笑うだけ、舐めているのかしら?
「そっちの綺麗な姉ちゃんの質問じゃないとやだなぁ?」
「貴様……」
何が可笑しいのか私をジロジロと眺めては忍び笑いを零す……寝癖でもついていたかしら? だとしたら一大事ね……クレルと再開した時に、彼から赤面しながら「綺麗」だって言って欲しくてお洒落とか勉強してるのに。……って、今はそんな時ではないわね。
「……それじゃ私からもう一度言うわね? 貴方はガナン人のようだけど、許可申請はちゃんとしているの? そして無賃乗車だという自覚はある?」
「監視が付くのが嫌だから申請はしていないし、お金もないからわざと無賃乗車してるよ?」
「「……」」
後ろから吹き付ける風に靡く髪を押さえつけながら私が問いかけると、意外な事にちゃんと答えてくれた……けれども自覚がありながら申請もせず、無賃乗車をしていると堂々と宣言しながらクスクスと笑うその態度に……ガイウス中尉が眉間に皺を寄せる。
「……申請のないガナン人は魔法使いと同じ扱いだと知らんのか?」
「知ってるよ? 俺魔法使いだし──」
自ら魔法使いだと白状した途端ガイウス中尉が容赦なく発砲する……それを魔法使いの彼は笑いながら躱し、魔法で以て応戦する。
「はぁ~、そろそろ下車かぁ……『我が願いの対価は鉄屋根一つ 望むは雨風から人を守る壁!!』」
「アリシアは援護しろ!」
「了解致しました!」
魔法で汽車の屋根を即席の壁としこちらの銃撃を防ぐ、拳銃を下げてライフルに切り替えて発砲し続けるも魔法で造られた強固な鉄の壁を抜けそうにない。……そもそも魔法使い相手に猟犬を使わないなんて、普通に考えて無茶よね。
「『我が願いの対価は壁一つ 望むは敵打つ礫!』」
「「っ?!」」
ライフルで制圧射撃をして牽制し、ガイウス中尉が『猟犬』を解放する隙を作ろうとしていると、向こう側から魔法を行使される。今までこちらの銃弾を防いでいた壁を対価として発動されたそれは一気に鉄の散弾と化し、こちらへと横殴りの雨の様に殺到する……ほぼ一方通行しか足場のない屋根の上では逃げ場など限られており、必然的にガイウス特務中尉と二人で連結部に飛び降りる。
「やってくれるわね?!」
間一髪に頭上を数多の鉄の散弾が通り抜け冷や汗を流したあと、すぐ様梯子に足を掛けて奴のいたところへ向けて装弾した拳銃を発砲するけれど──
「──逃げられました」
「仕方ない、まさか魔法使いが堂々と無賃乗車するなど予想できん」
そこにはもはや彼の姿はなく、大きな穴と数多の弾痕を付けられた痛々しい汽車の屋根だけしかその痕跡を示すものは無かった。……ガイウス中尉の言う通り、見つかれば即殺される事の多い魔法使いが公共の交通機関に乗り込んでいるなど……有り得ないわ。
「今回の捕縛、もしくは殺害の対象ではなかったようだ……今は捨ておくしかあるまい」
「……了解致しました」
最初から最後までこちらを……特になぜか私を小馬鹿にした感じがムカつくし、そんな奴にまんまと逃げられたのは悔しいけれど……心の準備もろくに出来てないままに、殺人を犯さなくて良かったとも考えている私がいる。
「係に事情を説明した後は目的地まで待機だ」
「はい」
とりあえず、領都に到着するまでに……殺人に対する覚悟を決めておかなければならない、わね。
▼▼▼▼▼▼▼
「多分居ます」
朝早く起きて支度をしていると仕切りの向こうからガイウス特務中尉が尋ねてくる……昨日とは違う人たちだと、なんとなく思うけれど断定はできない、居るのは居るわね。
「ここでは表の身分である警察武官として行く、そのため猟犬は使えない……が、一応持っておけ」
「……それは構いませんが、表の身分でですか?」
これは確か偽装のためだった気がするのだけれど……本当にそう名乗って動いても良いのかしら? だとしたら、色々と便利そうだけれど。
「表の身分とは言ったが偽の身分とは言ってはいない……お前の士官学校時代の成績を見て、警察武官の幹部候補生に足ると判断された」
「それでは……」
「上手く使い分けろ」
「了解致しました」
なるほど、私は狩人であると共に警察武官の幹部候補生でもある訳なのね……ということはつまり、そういった権限を実際に行使することを許されている訳だから上手く使い分けろと……中々に大変ね? ということはガイウス中尉は本当に警察武官でもある訳なのね。
「準備は出来たか?」
「はい」
「では不埒者を捕らえるぞ」
警察武官としての制服に身を包み、ガイウス中尉の後をついて車内を歩き、廊下の行き当たりの扉を二枚ほど開いて連結部へと出る……扉のすぐ横にある梯子を登って屋根に登ると雪が振り積もり、汽車の揺れと相まって足場の悪いことが確認できる。
「手を頭の後ろで組みなさい」
「……こんなところまで、おまわりさんは大変だねぇ?」
ライフルを肩から下げ、本当に居た不審者に向けて拳銃を向けて警告するが相手は腕を組まずにゆっくりとこちらを振り向く……その人物は褐色の肌に黒髪、そして金の瞳とガナン人の特徴を持っていた。
「見たところガナン人のようだが……外出許可は貰っているのか? そもそも『ガナリア区』の者なのか? そして無賃乗車だと理解しているのか?」
「……」
「答えろ」
ガイウス中尉が警告に一発目を発砲する、それは彼の頬を浅く傷付け、屋根に当たる事で弾かれる。……それでも彼はまったく動じずにこちらを鼻で笑うだけ、舐めているのかしら?
「そっちの綺麗な姉ちゃんの質問じゃないとやだなぁ?」
「貴様……」
何が可笑しいのか私をジロジロと眺めては忍び笑いを零す……寝癖でもついていたかしら? だとしたら一大事ね……クレルと再開した時に、彼から赤面しながら「綺麗」だって言って欲しくてお洒落とか勉強してるのに。……って、今はそんな時ではないわね。
「……それじゃ私からもう一度言うわね? 貴方はガナン人のようだけど、許可申請はちゃんとしているの? そして無賃乗車だという自覚はある?」
「監視が付くのが嫌だから申請はしていないし、お金もないからわざと無賃乗車してるよ?」
「「……」」
後ろから吹き付ける風に靡く髪を押さえつけながら私が問いかけると、意外な事にちゃんと答えてくれた……けれども自覚がありながら申請もせず、無賃乗車をしていると堂々と宣言しながらクスクスと笑うその態度に……ガイウス中尉が眉間に皺を寄せる。
「……申請のないガナン人は魔法使いと同じ扱いだと知らんのか?」
「知ってるよ? 俺魔法使いだし──」
自ら魔法使いだと白状した途端ガイウス中尉が容赦なく発砲する……それを魔法使いの彼は笑いながら躱し、魔法で以て応戦する。
「はぁ~、そろそろ下車かぁ……『我が願いの対価は鉄屋根一つ 望むは雨風から人を守る壁!!』」
「アリシアは援護しろ!」
「了解致しました!」
魔法で汽車の屋根を即席の壁としこちらの銃撃を防ぐ、拳銃を下げてライフルに切り替えて発砲し続けるも魔法で造られた強固な鉄の壁を抜けそうにない。……そもそも魔法使い相手に猟犬を使わないなんて、普通に考えて無茶よね。
「『我が願いの対価は壁一つ 望むは敵打つ礫!』」
「「っ?!」」
ライフルで制圧射撃をして牽制し、ガイウス中尉が『猟犬』を解放する隙を作ろうとしていると、向こう側から魔法を行使される。今までこちらの銃弾を防いでいた壁を対価として発動されたそれは一気に鉄の散弾と化し、こちらへと横殴りの雨の様に殺到する……ほぼ一方通行しか足場のない屋根の上では逃げ場など限られており、必然的にガイウス特務中尉と二人で連結部に飛び降りる。
「やってくれるわね?!」
間一髪に頭上を数多の鉄の散弾が通り抜け冷や汗を流したあと、すぐ様梯子に足を掛けて奴のいたところへ向けて装弾した拳銃を発砲するけれど──
「──逃げられました」
「仕方ない、まさか魔法使いが堂々と無賃乗車するなど予想できん」
そこにはもはや彼の姿はなく、大きな穴と数多の弾痕を付けられた痛々しい汽車の屋根だけしかその痕跡を示すものは無かった。……ガイウス中尉の言う通り、見つかれば即殺される事の多い魔法使いが公共の交通機関に乗り込んでいるなど……有り得ないわ。
「今回の捕縛、もしくは殺害の対象ではなかったようだ……今は捨ておくしかあるまい」
「……了解致しました」
最初から最後までこちらを……特になぜか私を小馬鹿にした感じがムカつくし、そんな奴にまんまと逃げられたのは悔しいけれど……心の準備もろくに出来てないままに、殺人を犯さなくて良かったとも考えている私がいる。
「係に事情を説明した後は目的地まで待機だ」
「はい」
とりあえず、領都に到着するまでに……殺人に対する覚悟を決めておかなければならない、わね。
▼▼▼▼▼▼▼
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる