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第二章.愛おしさに諦めない
4.屋根の上の取り締まり
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「……まだ居るか?」
「多分居ます」
朝早く起きて支度をしていると仕切りの向こうからガイウス特務中尉が尋ねてくる……昨日とは違う人たちだと、なんとなく思うけれど断定はできない、居るのは居るわね。
「ここでは表の身分である警察武官として行く、そのため猟犬は使えない……が、一応持っておけ」
「……それは構いませんが、表の身分でですか?」
これは確か偽装のためだった気がするのだけれど……本当にそう名乗って動いても良いのかしら? だとしたら、色々と便利そうだけれど。
「表の身分とは言ったが偽の身分とは言ってはいない……お前の士官学校時代の成績を見て、警察武官の幹部候補生に足ると判断された」
「それでは……」
「上手く使い分けろ」
「了解致しました」
なるほど、私は狩人であると共に警察武官の幹部候補生でもある訳なのね……ということはつまり、そういった権限を実際に行使することを許されている訳だから上手く使い分けろと……中々に大変ね? ということはガイウス中尉は本当に警察武官でもある訳なのね。
「準備は出来たか?」
「はい」
「では不埒者を捕らえるぞ」
警察武官としての制服に身を包み、ガイウス中尉の後をついて車内を歩き、廊下の行き当たりの扉を二枚ほど開いて連結部へと出る……扉のすぐ横にある梯子を登って屋根に登ると雪が振り積もり、汽車の揺れと相まって足場の悪いことが確認できる。
「手を頭の後ろで組みなさい」
「……こんなところまで、おまわりさんは大変だねぇ?」
ライフルを肩から下げ、本当に居た不審者に向けて拳銃を向けて警告するが相手は腕を組まずにゆっくりとこちらを振り向く……その人物は褐色の肌に黒髪、そして金の瞳とガナン人の特徴を持っていた。
「見たところガナン人のようだが……外出許可は貰っているのか? そもそも『ガナリア区』の者なのか? そして無賃乗車だと理解しているのか?」
「……」
「答えろ」
ガイウス中尉が警告に一発目を発砲する、それは彼の頬を浅く傷付け、屋根に当たる事で弾かれる。……それでも彼はまったく動じずにこちらを鼻で笑うだけ、舐めているのかしら?
「そっちの綺麗な姉ちゃんの質問じゃないとやだなぁ?」
「貴様……」
何が可笑しいのか私をジロジロと眺めては忍び笑いを零す……寝癖でもついていたかしら? だとしたら一大事ね……クレルと再開した時に、彼から赤面しながら「綺麗」だって言って欲しくてお洒落とか勉強してるのに。……って、今はそんな時ではないわね。
「……それじゃ私からもう一度言うわね? 貴方はガナン人のようだけど、許可申請はちゃんとしているの? そして無賃乗車だという自覚はある?」
「監視が付くのが嫌だから申請はしていないし、お金もないからわざと無賃乗車してるよ?」
「「……」」
後ろから吹き付ける風に靡く髪を押さえつけながら私が問いかけると、意外な事にちゃんと答えてくれた……けれども自覚がありながら申請もせず、無賃乗車をしていると堂々と宣言しながらクスクスと笑うその態度に……ガイウス中尉が眉間に皺を寄せる。
「……申請のないガナン人は魔法使いと同じ扱いだと知らんのか?」
「知ってるよ? 俺魔法使いだし──」
自ら魔法使いだと白状した途端ガイウス中尉が容赦なく発砲する……それを魔法使いの彼は笑いながら躱し、魔法で以て応戦する。
「はぁ~、そろそろ下車かぁ……『我が願いの対価は鉄屋根一つ 望むは雨風から人を守る壁!!』」
「アリシアは援護しろ!」
「了解致しました!」
魔法で汽車の屋根を即席の壁としこちらの銃撃を防ぐ、拳銃を下げてライフルに切り替えて発砲し続けるも魔法で造られた強固な鉄の壁を抜けそうにない。……そもそも魔法使い相手に猟犬を使わないなんて、普通に考えて無茶よね。
「『我が願いの対価は壁一つ 望むは敵打つ礫!』」
「「っ?!」」
ライフルで制圧射撃をして牽制し、ガイウス中尉が『猟犬』を解放する隙を作ろうとしていると、向こう側から魔法を行使される。今までこちらの銃弾を防いでいた壁を対価として発動されたそれは一気に鉄の散弾と化し、こちらへと横殴りの雨の様に殺到する……ほぼ一方通行しか足場のない屋根の上では逃げ場など限られており、必然的にガイウス特務中尉と二人で連結部に飛び降りる。
「やってくれるわね?!」
間一髪に頭上を数多の鉄の散弾が通り抜け冷や汗を流したあと、すぐ様梯子に足を掛けて奴のいたところへ向けて装弾した拳銃を発砲するけれど──
「──逃げられました」
「仕方ない、まさか魔法使いが堂々と無賃乗車するなど予想できん」
そこにはもはや彼の姿はなく、大きな穴と数多の弾痕を付けられた痛々しい汽車の屋根だけしかその痕跡を示すものは無かった。……ガイウス中尉の言う通り、見つかれば即殺される事の多い魔法使いが公共の交通機関に乗り込んでいるなど……有り得ないわ。
「今回の捕縛、もしくは殺害の対象ではなかったようだ……今は捨ておくしかあるまい」
「……了解致しました」
最初から最後までこちらを……特になぜか私を小馬鹿にした感じがムカつくし、そんな奴にまんまと逃げられたのは悔しいけれど……心の準備もろくに出来てないままに、殺人を犯さなくて良かったとも考えている私がいる。
「係に事情を説明した後は目的地まで待機だ」
「はい」
とりあえず、領都に到着するまでに……殺人に対する覚悟を決めておかなければならない、わね。
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「多分居ます」
朝早く起きて支度をしていると仕切りの向こうからガイウス特務中尉が尋ねてくる……昨日とは違う人たちだと、なんとなく思うけれど断定はできない、居るのは居るわね。
「ここでは表の身分である警察武官として行く、そのため猟犬は使えない……が、一応持っておけ」
「……それは構いませんが、表の身分でですか?」
これは確か偽装のためだった気がするのだけれど……本当にそう名乗って動いても良いのかしら? だとしたら、色々と便利そうだけれど。
「表の身分とは言ったが偽の身分とは言ってはいない……お前の士官学校時代の成績を見て、警察武官の幹部候補生に足ると判断された」
「それでは……」
「上手く使い分けろ」
「了解致しました」
なるほど、私は狩人であると共に警察武官の幹部候補生でもある訳なのね……ということはつまり、そういった権限を実際に行使することを許されている訳だから上手く使い分けろと……中々に大変ね? ということはガイウス中尉は本当に警察武官でもある訳なのね。
「準備は出来たか?」
「はい」
「では不埒者を捕らえるぞ」
警察武官としての制服に身を包み、ガイウス中尉の後をついて車内を歩き、廊下の行き当たりの扉を二枚ほど開いて連結部へと出る……扉のすぐ横にある梯子を登って屋根に登ると雪が振り積もり、汽車の揺れと相まって足場の悪いことが確認できる。
「手を頭の後ろで組みなさい」
「……こんなところまで、おまわりさんは大変だねぇ?」
ライフルを肩から下げ、本当に居た不審者に向けて拳銃を向けて警告するが相手は腕を組まずにゆっくりとこちらを振り向く……その人物は褐色の肌に黒髪、そして金の瞳とガナン人の特徴を持っていた。
「見たところガナン人のようだが……外出許可は貰っているのか? そもそも『ガナリア区』の者なのか? そして無賃乗車だと理解しているのか?」
「……」
「答えろ」
ガイウス中尉が警告に一発目を発砲する、それは彼の頬を浅く傷付け、屋根に当たる事で弾かれる。……それでも彼はまったく動じずにこちらを鼻で笑うだけ、舐めているのかしら?
「そっちの綺麗な姉ちゃんの質問じゃないとやだなぁ?」
「貴様……」
何が可笑しいのか私をジロジロと眺めては忍び笑いを零す……寝癖でもついていたかしら? だとしたら一大事ね……クレルと再開した時に、彼から赤面しながら「綺麗」だって言って欲しくてお洒落とか勉強してるのに。……って、今はそんな時ではないわね。
「……それじゃ私からもう一度言うわね? 貴方はガナン人のようだけど、許可申請はちゃんとしているの? そして無賃乗車だという自覚はある?」
「監視が付くのが嫌だから申請はしていないし、お金もないからわざと無賃乗車してるよ?」
「「……」」
後ろから吹き付ける風に靡く髪を押さえつけながら私が問いかけると、意外な事にちゃんと答えてくれた……けれども自覚がありながら申請もせず、無賃乗車をしていると堂々と宣言しながらクスクスと笑うその態度に……ガイウス中尉が眉間に皺を寄せる。
「……申請のないガナン人は魔法使いと同じ扱いだと知らんのか?」
「知ってるよ? 俺魔法使いだし──」
自ら魔法使いだと白状した途端ガイウス中尉が容赦なく発砲する……それを魔法使いの彼は笑いながら躱し、魔法で以て応戦する。
「はぁ~、そろそろ下車かぁ……『我が願いの対価は鉄屋根一つ 望むは雨風から人を守る壁!!』」
「アリシアは援護しろ!」
「了解致しました!」
魔法で汽車の屋根を即席の壁としこちらの銃撃を防ぐ、拳銃を下げてライフルに切り替えて発砲し続けるも魔法で造られた強固な鉄の壁を抜けそうにない。……そもそも魔法使い相手に猟犬を使わないなんて、普通に考えて無茶よね。
「『我が願いの対価は壁一つ 望むは敵打つ礫!』」
「「っ?!」」
ライフルで制圧射撃をして牽制し、ガイウス中尉が『猟犬』を解放する隙を作ろうとしていると、向こう側から魔法を行使される。今までこちらの銃弾を防いでいた壁を対価として発動されたそれは一気に鉄の散弾と化し、こちらへと横殴りの雨の様に殺到する……ほぼ一方通行しか足場のない屋根の上では逃げ場など限られており、必然的にガイウス特務中尉と二人で連結部に飛び降りる。
「やってくれるわね?!」
間一髪に頭上を数多の鉄の散弾が通り抜け冷や汗を流したあと、すぐ様梯子に足を掛けて奴のいたところへ向けて装弾した拳銃を発砲するけれど──
「──逃げられました」
「仕方ない、まさか魔法使いが堂々と無賃乗車するなど予想できん」
そこにはもはや彼の姿はなく、大きな穴と数多の弾痕を付けられた痛々しい汽車の屋根だけしかその痕跡を示すものは無かった。……ガイウス中尉の言う通り、見つかれば即殺される事の多い魔法使いが公共の交通機関に乗り込んでいるなど……有り得ないわ。
「今回の捕縛、もしくは殺害の対象ではなかったようだ……今は捨ておくしかあるまい」
「……了解致しました」
最初から最後までこちらを……特になぜか私を小馬鹿にした感じがムカつくし、そんな奴にまんまと逃げられたのは悔しいけれど……心の準備もろくに出来てないままに、殺人を犯さなくて良かったとも考えている私がいる。
「係に事情を説明した後は目的地まで待機だ」
「はい」
とりあえず、領都に到着するまでに……殺人に対する覚悟を決めておかなければならない、わね。
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