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第一章.憤る山

10.潜伏その2

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「……それ、はなに……をし、ている……の……?」

 外の吹雪も落ち着き、服も乾いたところでお互いに赤面しながら後ろ向きに服を着て少し経った頃……俺が小鬼共を倒すための準備をしているとそれを見たリーシャが顔を青くしながら詳細を訪ねてくる。

「持ってきた供物に自身の血を混ぜ込んでいる」

「……」

 リーシャの質問に答えつつ、作業を続ける……持ってきた供物に自身の血を混ぜる事で、魔法を行使する際の対価としての価値を上げるのが目的である……あの小鬼共は強くはないが数が多く、悪知恵が働き、攻撃手段も豊富だからな。

「……リーシャは無理にしなくていいぞ?」

「……(ビクッ」

 自分もした方が良いと考えたのだろう、顔をさらに青くし、手を震わせながら荷物のナイフを一瞥する……そもそも彼女の供物のほとんどは鉄だ、表面に塗る事はできても混ぜる事はできないだろう……そのためリーシャにやめておいた方がいいと伝えると肩を震わせる。

「……それよりもあの数の小鬼共をどうするかだ」

「……(コクッ」

 さすがにあそこまでの数は想定外だったからな……手持ちの供物を強化しても尽きてしまえば俺たち魔法使いは無力に等しい……いや、正確にはまだ対価は払えるが望ましくはない。

「あの数が相手だ、供物が尽きれば……」

「……あと、は……自、分の……身体し……か、ありま……せん……」

「そうだ」

 腐っても魔物だ、そこらの石を対価としたところでたかが知れている……投石で頭をぶち抜き、倒してはしても殺せはしなかったからな、まともなダメージを与えられる価値ある対価など……もう自身の身体しかない。

「所詮俺が今している供物の強化も、数が圧倒的に足りないから焼け石に水だ」

「……」

「だが、無駄ではない」

「……?」

 俺の一言に彼女は首を傾げる……まぁ、ここまで絶望的とも言える状況、追い詰められているんだ……それをたった今自身で説明したばかりなのに、こんなことを言えば疑問にも思うだろう。

「最初遭遇した時、遠くからこちらを眺めるだけで動かない者がいた」

「……そうい、えば……居まし……たね……」

 一人だけ他の小鬼とは違って赤ん坊がそのまま大きくなったのではなく、老人がそのまま十歳程度まで小さくなった者が居た……そいつは何をするでもなく、ただただこちらを遠くからその墨を溶かした水のような瞳でジッと観察するだけで消えてしまった。

「そしてそいつはあの広場にも居た」

「……」

 俺たち二人が広場で囲われ追われる時、そいつは小鬼共の最奥でまたもやジッとこちらを見ていた……そしてそいつが口を小さく動かした事で小鬼共はこちらに襲いかかった。

「おそらく奴がこの魔物災害の核だろう」

「……群れ、が……一つ、の魔物……だ、と……?」

「……そうだ」

 小鬼一人からそれぞれ魔力残滓が出るし、奴らにはそれぞれ個性があったために共感者からのドッペルゲンガーも疑ったがそれでは数が合わない……山間の村々の総人口を足しても八十、いっても百人程度だろう。しかし村人全員が共感者になった訳でもないし、喩え全員が魔物になったとしてもなお足りない。

「……おそらく群れが一つの魔物として存在している、奴の特殊性はそれだ」

「……ではど、う……やって、倒……せば……?」

「頭を潰されれば死ぬのは人間も同じ、その老いた鬼が核である可能性に賭ける」

 というよりその手しかない……群体としての魔物など特殊過ぎて事例が無さすぎるため情報もない。わかるのは一様にして核となる者か物を壊せば良いという事だけ、今回の場合はその老いた鬼が核である可能性に賭けるしかない。

「そのための供物の強化だ、リソースの面ではこちらが圧倒的に不利……次に全力を注ぎ奴を討つ」

「……どの、みち……これ……以上の、進展は……望め……ませ、んから、ね……」

「あぁ、何も足りないのは供物だけではないからな」

 あまり時間をかけ過ぎると持ってきた食糧まで尽きてしまう……この恵みに乏しい山でそれは餓死を意味する。この追い詰められた状況で、いつどこから小鬼に襲われると知れないのに調査が捗るとは思えない……それに襲われ、迎撃するのにさらに供物を消費する悪循環……。

「……ならばこちらからアタリをつけて、一気に勝負を仕掛ける」

「……(コクッ」

 この最悪な流れを断ち切ると共に、あの忌々しい小鬼共にこちらから奇襲を仕掛け、核と見られる鬼を討つ……それがこちら側の勝利条件だ。

「明日にも勝負を仕掛ける、準備はいいか?」

「もち、ろん……!」

 やる気充分といった具合に両拳を握り締め、リーシャは返事をする……彼女もあの小鬼共に思うところがあるのだろう、その目は戦意に溢れている。……覚悟しろよ? 明日は───────

───────百鬼退治だ。

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