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序章.美しき想い出
12.羊さん
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「『我が願いの対価は──僕の大事で大切な友達であり……唯一無二の兄であるディンゴ!!!』」
ディンゴのクソ馬鹿野郎! 一度も『お兄ちゃん』って呼べなかったじゃないか! 僕がどれだけ……母さんが死んでからどれだけ寂しかったと思ってるんだよ!
「『望むは我が道を阻む壁を砕き、立ちはだかる不幸を払い除け、敵を討つ力!!』」
「貴様ァ! クソっ! デク人形が邪魔をするんじゃない!! やりやがった! やりやがった! アイツ親友を生贄にしやがった!! 許せねぇよ!!」
右腕に左手を添えて照準を合わせる。大丈夫、僕には不器用な兄がついてる。
「『日陰には光を 流転には直線を 愚かな兄が流す哀れみの涙で 生命を燃やし 愚鈍な子羊を統べ 導き護る 次の日も穏やかに暮らせるための 全てを清算する術をここに!!』」
『……ォ"カ"ァ"サ"ン"ン"?"?"』
「今さら気付いても遅いんだよ! ノロマァ! クソっ! 間に合え!!」
魔物がこっちを振り向き、手足で這いずってくる。それを受ける狩人はこちらへと機械の様な剣を組み換え砲身として銃口をこちらに向けてくる。
『マ"ッ"マ"!"!"』
「死ね──」
「『──羊飼いの杖』」
軽いベルの音が辺りに響き渡る。周囲を緋く、柔らかな光が包み込み、肌をピリピリと刺激してくる。
『マ"ァ"マ"ァ"ァ"ア"!"!"!"』
「がっ?! なんだこのっ?!!」
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
緋い光が鎖のリードとなって魔物と狩人の二人の首を繋ぎ、縛り上げる。地面からは僕を中心として巨大な羊が五匹も這い出てくる。
「な、なんだこの魔法は……?!」
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
その羊は絶えず涙を流し続け、歯を剥き出しにして、身体中の至る所から骨が突き出て血を吹き降らす。
『マ"ッ"マ"──』
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!』
『──オ"カ"ァ"サ"ァ"ン"?"!"!"』
その羊達は魔物を頭から齧り始める。むしゃむさゃと……無垢な瞳で魔物の脳漿をブチ撒けて、頬を食いちぎり、瞳の蛆虫を舐め取る。
「なんだよ……なんなんだよ?! 俺はこれが初陣だぞ?!!」
粗方食べ終わったところで羊達は狩人の方へと一斉に振り返る。その口にはまだ魔物だった……赤ん坊の腕を咥えているものも居る。
「嘘だろ……おい、やめてくれよ! ボーゼス特務大尉助けてくれ!! お願いしまぎゅっ──?!」
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!』
五匹の羊がそれぞれ五体に齧り付き、咀嚼する。魔物よりも小さかった分あっさりとそれは終わる。
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
「も、戻れ……!」
羊たちに緋い鎖のリードを巻き付け、地面に開いた大穴へと誘導する。
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
「言うことを聞け! 戻るんだ!」
『めぇええええええええええええ──ムェッ!』
緋い鎖のリードで引っ張って命令すると、驚く程にすんなりと穴へと戻っていく……後に残るのは大穴と羊達が勢い余って齧ってしまった跡と、魔物と狩人の戦闘の痕跡が残る、領主の屋敷があった場所だけだ。
「ディンゴ……」
ディンゴのお陰で勝てた、彼が……お兄ちゃんが協力してくれなければ未熟な魔法使いである僕は皆んなを巻き込んで死んでいただろう。
「そうだ! アリシアは?!」
アリシアは胸を撃ち抜かれて重症だったはずだ、早く手当しないと本当に死んでしまう!!
「げほっ?! ぐっ……僕もお腹に穴空いてたんだった……」
急いで、無理してでも走ってアリシアの元へと駆け抜ける。
「げほっ、ごほっ! あ、アリシア?! 大丈夫?!」
「ぁっ……うっ……」
「アリシア?!」
は、早く治療を……とりあえず止血をしなきゃいけない!
「『我が願いの対価はこの身に流るる血、望むは他者を癒す力!』」
「ク、レル……」
「嘘でしょ……」
どうして……どうして治すどころか止血すらできないのさ?! ディンゴを失ったのに、アリシアまでなんて嫌だよ?!
「お願いだよ……治ってよ、これ以上の対価なんて持ってないよ」
「ク、レル……」
「っ?! アリシアどうしたの?!」
アリシアが語りかけていたのに気付かないなんで動転しすぎだ、ディンゴに叱られてしまう。……冷静にならないとなにも打開できない。
「アリシア無理はしないで」
「あなたにね、ごほっ……伝えたい事があるの……」
「……やめてよ」
アリシアまでそういう事をしないで……お願いだからさ、ほら! 胸を撃ち抜かれてるんだから、喋るのも辛いでしょ?
「私、ね? あなたの事が……」
「お願いだよ……」
無理したらさらに出血するから……今の僕じゃ止血すらできないんだよ? この騒ぎでさすがにボーゼスさんが来ると思うからさ、それまで生きて──
「──あなたの事が好き、だったわ」
「──」
「まだ子どもなの、に……おかしいでしょ?」
「……全然おかしくないよ」
僕も……僕も多分、初めて見た時から一目惚れだったと思う。だからさ……諦めないでよ。
「お父様、たちの誰も……げほっ、可愛いなんて言ってく、れないのよ?」
「わかったからさ、もう──」
「──だから、あなたには生き……て……欲し…………」
「……アリシア?」
……あぁ、嘘だろ? ディンゴまで犠牲にして得た対価がこれか?! 神はまだ支払いが足りないと言うのか?!
「いいさ、払ってやるよ!」
───────彼女を救うために。
ディンゴのクソ馬鹿野郎! 一度も『お兄ちゃん』って呼べなかったじゃないか! 僕がどれだけ……母さんが死んでからどれだけ寂しかったと思ってるんだよ!
「『望むは我が道を阻む壁を砕き、立ちはだかる不幸を払い除け、敵を討つ力!!』」
「貴様ァ! クソっ! デク人形が邪魔をするんじゃない!! やりやがった! やりやがった! アイツ親友を生贄にしやがった!! 許せねぇよ!!」
右腕に左手を添えて照準を合わせる。大丈夫、僕には不器用な兄がついてる。
「『日陰には光を 流転には直線を 愚かな兄が流す哀れみの涙で 生命を燃やし 愚鈍な子羊を統べ 導き護る 次の日も穏やかに暮らせるための 全てを清算する術をここに!!』」
『……ォ"カ"ァ"サ"ン"ン"?"?"』
「今さら気付いても遅いんだよ! ノロマァ! クソっ! 間に合え!!」
魔物がこっちを振り向き、手足で這いずってくる。それを受ける狩人はこちらへと機械の様な剣を組み換え砲身として銃口をこちらに向けてくる。
『マ"ッ"マ"!"!"』
「死ね──」
「『──羊飼いの杖』」
軽いベルの音が辺りに響き渡る。周囲を緋く、柔らかな光が包み込み、肌をピリピリと刺激してくる。
『マ"ァ"マ"ァ"ァ"ア"!"!"!"』
「がっ?! なんだこのっ?!!」
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
緋い光が鎖のリードとなって魔物と狩人の二人の首を繋ぎ、縛り上げる。地面からは僕を中心として巨大な羊が五匹も這い出てくる。
「な、なんだこの魔法は……?!」
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
その羊は絶えず涙を流し続け、歯を剥き出しにして、身体中の至る所から骨が突き出て血を吹き降らす。
『マ"ッ"マ"──』
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!』
『──オ"カ"ァ"サ"ァ"ン"?"!"!"』
その羊達は魔物を頭から齧り始める。むしゃむさゃと……無垢な瞳で魔物の脳漿をブチ撒けて、頬を食いちぎり、瞳の蛆虫を舐め取る。
「なんだよ……なんなんだよ?! 俺はこれが初陣だぞ?!!」
粗方食べ終わったところで羊達は狩人の方へと一斉に振り返る。その口にはまだ魔物だった……赤ん坊の腕を咥えているものも居る。
「嘘だろ……おい、やめてくれよ! ボーゼス特務大尉助けてくれ!! お願いしまぎゅっ──?!」
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!』
五匹の羊がそれぞれ五体に齧り付き、咀嚼する。魔物よりも小さかった分あっさりとそれは終わる。
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
「も、戻れ……!」
羊たちに緋い鎖のリードを巻き付け、地面に開いた大穴へと誘導する。
『めぇええええええええええええええええええええええええええええ』
「言うことを聞け! 戻るんだ!」
『めぇええええええええええええ──ムェッ!』
緋い鎖のリードで引っ張って命令すると、驚く程にすんなりと穴へと戻っていく……後に残るのは大穴と羊達が勢い余って齧ってしまった跡と、魔物と狩人の戦闘の痕跡が残る、領主の屋敷があった場所だけだ。
「ディンゴ……」
ディンゴのお陰で勝てた、彼が……お兄ちゃんが協力してくれなければ未熟な魔法使いである僕は皆んなを巻き込んで死んでいただろう。
「そうだ! アリシアは?!」
アリシアは胸を撃ち抜かれて重症だったはずだ、早く手当しないと本当に死んでしまう!!
「げほっ?! ぐっ……僕もお腹に穴空いてたんだった……」
急いで、無理してでも走ってアリシアの元へと駆け抜ける。
「げほっ、ごほっ! あ、アリシア?! 大丈夫?!」
「ぁっ……うっ……」
「アリシア?!」
は、早く治療を……とりあえず止血をしなきゃいけない!
「『我が願いの対価はこの身に流るる血、望むは他者を癒す力!』」
「ク、レル……」
「嘘でしょ……」
どうして……どうして治すどころか止血すらできないのさ?! ディンゴを失ったのに、アリシアまでなんて嫌だよ?!
「お願いだよ……治ってよ、これ以上の対価なんて持ってないよ」
「ク、レル……」
「っ?! アリシアどうしたの?!」
アリシアが語りかけていたのに気付かないなんで動転しすぎだ、ディンゴに叱られてしまう。……冷静にならないとなにも打開できない。
「アリシア無理はしないで」
「あなたにね、ごほっ……伝えたい事があるの……」
「……やめてよ」
アリシアまでそういう事をしないで……お願いだからさ、ほら! 胸を撃ち抜かれてるんだから、喋るのも辛いでしょ?
「私、ね? あなたの事が……」
「お願いだよ……」
無理したらさらに出血するから……今の僕じゃ止血すらできないんだよ? この騒ぎでさすがにボーゼスさんが来ると思うからさ、それまで生きて──
「──あなたの事が好き、だったわ」
「──」
「まだ子どもなの、に……おかしいでしょ?」
「……全然おかしくないよ」
僕も……僕も多分、初めて見た時から一目惚れだったと思う。だからさ……諦めないでよ。
「お父様、たちの誰も……げほっ、可愛いなんて言ってく、れないのよ?」
「わかったからさ、もう──」
「──だから、あなたには生き……て……欲し…………」
「……アリシア?」
……あぁ、嘘だろ? ディンゴまで犠牲にして得た対価がこれか?! 神はまだ支払いが足りないと言うのか?!
「いいさ、払ってやるよ!」
───────彼女を救うために。
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