サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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序章.美しき想い出

5.狩人 ボーゼス・マクフォドル

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「帝都より派遣されて来た、特別対魔機関バルバトス所属狩人、ボーゼス・マクフォドル特務大尉であります。……これからよろしくお願する」

「おお、貴殿が! 待ちわびましたぞ!」

 不味いわ……とうとう帝都から魔物を倒してくれる人が来てくれたけど、機士じゃなくて狩人だなんて……クレルが危ないわ。

「……しかしながら女性の方でも狩人になれるのですな?」

「……何か問題が?」

「いえいえ、滅相もございません! ほら、アリシアも挨拶しなさい」

「初めまして、ヴァルドゥ・スカーレットが一人娘、アリシア・スカーレットでございます」

 お父様が必死に謙るくらいだから、やはり相当に偉いのだろう……こっちはどうにかしてクレルを隠し通せるのか必死だっていうのに、さらに気を遣わないといけないだなんて。

「……ちなみにあなた様の実績をお伺いしても……? いや、何も実力を疑っているわけではございませんとも!」

 お父様、それでは疑っていると言っているようなものですよ……確かに女性の方の機士や狩人は珍しいですけれど、あんまりにも失礼です。

「……討伐数は七、殺害数は十一です」

「「──」」

 …………とんでもない方が派遣されて来たようですね。見たところまだ二十代後半ほどだとは思いますがその若さで魔物を七体、魔法使いを十一人も倒してきただなんて……こんな弱小領地になぜこんな大物が……?

「……はは、それは……また、なんとも誇らしい数字ですな」

 お父様もあんまりな内容に動揺しておられますね、目の前の方が簡単にこちらを殲滅できるとやっと理解したのでしょう。

「……それにしてもてっきり『機士』が派遣されてくるものと思っておりましたぞ」

 確かに不思議よね、そもそも狩人は正体がバレては不味いのではなかったのかしら?

「なに、簡単な事です……こちらに魔法使い……魔女が出たとの話でしたからね、そして私は既に有名になりすぎたので正体を隠す必要もなく、むしろ『狩人』が来たと宣伝するためであるからです」

「はは、なる……ほど?」

 なるほど、つまりはお父様が領民の不満を逸らすために魔女狩りをでっち上げたのと、もし仮に本当に魔法使いが原因であるならば、ボーゼス特務大尉のような有名な狩人を派遣することで牽制とする……もしくはそちらに目を集め、隠れて同行した別の狩人が仕留めるというわけね。……本当にもう一人来ているのかはわからないけれど。

「さて、では念の為に捕らえたという魔女を見せていただきましょう」

「こ、こちらに」

 地下牢への道を歩きながら彼女を観察する……ここまで実績も能力もある人からクレルを隠し通せるとは到底思えない……なにか策を考えないと。

「……アリシア嬢、なにか?」

「い、いえ! なんでもありません!」

「そうですか」

 あ、危ないわ……歴戦の狩人だもの、自分に向けられた視線くらい気付くわよね。

「この女が魔女です」

 色々と気を付けないといけないことを考えている内についたみたいね。

「私は魔女じゃないわ! 主人と一緒に帰して!」

「被害者の特徴はなんでしたか?」

「総じて母親か妊婦であり、鋭い刃物で切りつけられたような外傷……酷いときは原型すら留めてないまでに解体されております」

 特に不可解な点は子宮は必ず持ち去られているという事ね……すごく気味が悪いわ。

「そしてこの魔女は結婚してから数年経っても子どもが産まれず、嫉妬による犯行と見られています」

「違うわ! 私は嫉妬なんてしていない!」

「……確かに嫉妬から魔物が産まれる事もあるが、それだと元になった人間は誰だ? 他人の願望で魔物になるのは魔法使いだけだぞ?」

「それは……」

 ……凄いわ、牢の中の彼女の訴えなどまるで無いかのように父様も狩人の女性も会話を続けている。

「そもそもレナリア人が魔女などありえん」

「……そうなのですか?」

 まぁ弱小領地だもの、知らないのも無理はないわよね……私もクレルから教えてもらわなければこの人が本当に魔女かも知れないって怖がってたかも知れない。

「魔力に意図的に干渉し、魔法を行使できるのはガナン人だけだ」

「……ではこの女性は解放しますか?」

「っ?! 私と主人を解放して!」

 良かったわ……私では無理だったけど、無実である彼女は助かるみたい──

「──いや、処分する」

「あっ……」

 ──そう言って牢の中の彼女は銃で頭を撃ち抜かれて死亡する。……なぜ、殺したの?

「……なぜ殺したので?」

「彼女はこの魔物の影響がある土地で、不用意に負の強い感情を短期間で溜め込み過ぎた……魔物予備軍は処分する」

「……」

 でもだからってそんな……殺すことない、せめて違う土地に移住させれば……。

「スカーレット男爵、そなたの失策だ。私が派遣されるまで安易な手で不満を逸らそうとするからだ」

「……申し訳、ございません」

「彼女の旦那のところにも案内しろ」

「こちらでございます……」

 あぁ、この時間が早く終わればいいのに……。私には何もしてあげられないけれど、できることならば二人が天で健やかに暮らせますように……。

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