26 / 52
本編
抱擁 1 〚キサ〛
しおりを挟む『ハァイ、イブ。キミの愛しのカナリアは預かったよ。返してほしければ、俺たちの城へ来るといいさ!ガラスの靴を忘れずにね!』
「はぁ!?おい、ちょっ、」
ブツリとそのまま通話は切れた。
折り返しても、電源が入っていないかというアナウンス。
いったいなんなんだ。いい大人のくせして、やることは子供か。
カナの方に連絡を入れれば、こちらもすげない機械音声。―――くそ。
俺たちの城というのは、例のボロアパートだろう。
ガラスの靴というのは、先日もらったアレのことか。
とりあえず、行ってみるしかない。ダグもルディも、悪ノリが過ぎることがままあるし。
カナの身に何かあるわけではないだろうが、……いや、耳に穴くらいなら開けられるかもしれない。
とにかく、一刻も早く。
必要なものだけポケットに突っ込んで走り出した。
✢
「―――なにやってんだ、いったい。」
ボロアパートは更地になっていた。
売り地と書かれた看板の横、ぽつりと残された塀の一部に3人が座っている。
駆け寄って、カナを抱きしめて、異常がないことを確認してから呆れたような声が漏れた。
へらりと笑ったルディと、仏頂面のままいたずらっぽく目を細めたダグが、口笛を吹いて囃してくる。
……いつか紹介しようとは思っていたが、こういう形は想定外だ。
「イブ、顔が怖いよ。心配しなくても何もしてないってば。むしろ助けた?ねー、ダグ。」
「ああ。お前の愛しのカナリアを泣かせてはいない。」
愛しのカナリアって。と胡乱な目つきになったら、カナが腕の中でもがいた。
ああしまった、締めすぎていた。
離してやると俯いたまま顔を上げない。
でも、ひよひよとしたピンクの髪から覗く小さな耳が、真っ赤だ。
するりと撫でたら、カナが小さく身を震わせた。
「はいストーップ。回収ー!例のモノを出しな、イブ!さもないとダグが相手だ!」
別に出すのもやぶさかではないし、元からカナに渡そうと思っていた。
……けれどカナを奪われるのは、抱きしめられるのは、たとえルディでも腹立たしい。
思わず鼻に皺を寄せたら、ダグが少し肩を竦めて笑った。
素直に聞かないと余計めんどくさいぞ、そんな風に諭されたのは5年も前だ。
………仕方ない。
「カナ」
腕を広げて呼んだら、カナが走ってきた。
抱きとめて、閉じ込めて、ふわふわの髪越しにルディを見やる。
さっきので妬いたダグに抱き込まれながらにやにやと笑っている。
きっと元からカナを捕まえておくつもりなんてなかったんだろう。武道オタクから素人がするりと逃げられるはずない。
「ルディ、ダグ、また。……これはありがたく、使わせてもらう。」
例のモノを軽く見せて、またポケットにしまう。
にっと笑ったダグが半ばルディを引き摺るようにして空き地を出ていき、後ろ手にぷらりと手を振った。
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜
エル
BL
(2024.6.19 完結)
両親と離れ一人孤独だった慶太。
容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。
高校で出会った彼等は惹かれあう。
「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」
甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。
そんな恋物語。
浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。
*1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
【完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる