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番外編

3 硬派な男は翻弄される*

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相原は、自分の色っぽさをわかっているのだろうか。
いや、絶対に、わかっていない。
わかっていないから、こんなことができるんだろう。

『だから今日は、俺の番な』と言ってにっと笑った相原は、シャツを羽織っただけの淫らな姿で、俺の肩を軽く突いた。
それに抵抗もせず横たわり、呆然と相原の姿を見上げる。
耳も頬も、首筋も鎖骨も赤く染めて。瞳を羞恥にうるませて。
全身で恥ずかしいと訴えながら、相原が指先で自分の肌をなぞる。
つんと尖る乳首をつまみ、もどかしそうに腰を揺らし、先走りに濡れた形のいい性器を、俺のものにこすりつけてくる。

さっき相原の咥内に放ったばかりなのに、こんな姿を見せられてはひとたまりもない。
まばたきもできないほど魅入られて、相原の肌に手を伸ばす。
薄くなめらかな下腹に、しなやかな脇腹。肋骨のふちにキスを落とすと華奢な身体が跳ねることを、相原の身体がどれほど敏感にできているかを知っている。

けれど俺が伸ばした手は、相原の手で搦めとられた。
不服そうに口を尖らせ、じっとりとした目を向けてくる相原は、『俺の番だって言っただろ』とでも言いたいのだろうか。
そんな顔をしても可愛いばかりで、咎めるような視線ですら、扇情的で困ってしまう。
欲望が腰に重く溜まり、雄が一層硬さを増す。

「あい、はら……」
「……あんま見んなって、言ったじゃん」

確かに、言っていた。
初めて口淫をしてくれようとする相原から目が逸らせなくて、穴が空きそうなほど見つめているときに『そんな、見んなよ』と、恥ずかしそうに。
だけどそう咎められても、そそり立つ赤黒い欲望と、それに舌を這わせる相原との対比に、少しも目が離せなかった。
唾液に濡れて光る性器と、花のような相原のかんばせ。羞恥に上気した頬に、唾液と先走りに濡れた唇。
いつも綺麗に弧を描くそれを、俺の欲望が汚している。
そう思えばもう、たまらなかった。
荒れ狂う欲望をなんとか押さえこみながら、この上なく淫靡な光景を網膜に焼き付けることしかできなかった。

――どうして、見ずにいられるだろう。

膝立ちになった相原が、ローションを手で温めている。
ぬちぬちといやらしい音を響かせて、長い指にねばつく液体をまとわせて、慎重な手つきで雄に触れる。
その表情は、真剣そのもの。
睫毛を伏せてじっと雄を見つめながら、両手でローションを擦りつけてくる。

「……さっきあんなに出したのに、バッキバキじゃん」
「当たり前だろう」
「あー、絶倫だもんな」
「違う。相原が、煽るからだ」
「あお……っ!? 煽って、ない! 全然! まったく!」
「……いい加減、生殺しなんだが」

相原が自分の色気に無自覚なことはわかっているが、せめてもう少し、理解してほしいものだと思う。
いつだって、相原に触れると抑えが効かない。
欲望のままに相原を貪り、身体の隅々まで唇を這わせ、幾度もその身を貫いてしまう。
相原の痴態に煽られて、細い身体の奥の奥まで蹂躙し、コンドームが破けそうなほど精を吐き出す。

そうして欲に溺れてしまうたびに、相原にどれほど負担を掛けているか、どれだけ無体を強いているかと、いつも反省してばかりなのに――これほどまでに煽られては、どうにも堪えられそうもない。
かあっと全身を赤くする姿すら扇情的であればこそ、どうしても触れたいと思ってしまう。

「触れても、いいか」
「だっ……だめ! だ!」
「なぜ」
「いーから! ……もうちょい、待てって」

恥ずかしげに視線を逸らしつつ、相原が右手で雄を握る。
それをしっかりと支えたままじりじりと位置を調整し、ゆっくりと腰を下ろしていく。
そうして狙う先はもちろん、慎ましやかに窄まる後孔だ。
まず会陰に雄の先端が触れ、びくりとその身を跳ねさせてから、尻のあわいに沿ってそれを動かす。
そろそろと探るようなその手つきがなんとも言えずもどかしく、腹筋に力が入ってしまう。

このまま、この淫らな姿を見ていたい。
焦れたように腰を揺らし、吐息を堪えて唇を噛む相原のナカを、このまま貫いてしまいたい。
欲望の証を深く穿ち、快楽にうろたえる相原の姿を、網膜に焼き付けてしまいたい。
――相原の負担を考えると、到底叶えることはできないが。

「……相原、駄目だ。まだ馴らしてないだろう。コンドームも、」
「っ、ン……ちゃんと、準備した、……から」
「…………準、備……?」
「篠田ぁ」

雄の先端だけを後孔に引っかけて、相原が弱りきった声を出す。
上体をぐっと折り曲げて、空いてる方の手を俺の手に絡めて――本当に、相原は、煽るのが上手い。
いつもはぐずぐずになるまで解しているから比較的すんなり入るのだが、きっとまだほぐし足りていないのだろう。
相原がどうやって自分でほぐしたのかはわからないが――その姿を想像するだけで、脳が灼ききれそうな興奮を覚えるが、なんにせよ、ようやく相原に触れられるのは嬉しい。

欲望のままに貫きたいのを懸命にこらえて相原をぎゅっと抱え込む。
ローションをなみなみと手指にまとわせ、小さな尻を割り広げると、相原が首筋に鼻先を寄せてくる。

――相原が、甘えるときにする仕草だ。

いつもあっけらかんと笑っている相原が、羞恥が限界を超えたときにする仕草。
熱を持つ頬を肩に押し付けるのは、おそらく赤く染まる顔を隠すためだろう。さらさらの髪の隙間から、真っ赤に色づく耳がのぞいている。
首筋もうなじも朱に染まり、相原の羞恥を伝えてくる。

それでいてもどかしげに腰を揺らし、会陰を雄に擦りつけてくるのだからたまらない。
相原はいったい俺をどうしたいのか。
淫らな姿に煽られるままに、窄まりにそっと指を這わせた。

「……ッ、あ……しの……っ」
「柔らかいな」
「ば、か……っ、ンなこと、言うな……ぁ、ッ!」
「ナカもすごく熱い」

この分なら、ほんの少しほぐすだけでいいだろう。
入り口の襞にローションをまぶし、内壁にもそれを塗り込めていく。柔らかく湿った粘膜が、指をきゅうきゅうと締めつけてくる。
幾度も繋がれば繋がるほどに、どんどん敏感になっていく粘膜。指の動きに応えるように柔くきつく締めつけてくるそれが、ぬちゅりと卑猥な音を立てる。
その音にすら恥じらって顔を伏せるのに、相原はひどく感じやすい。
前立腺を擦りあげるとびくびくと身体を跳ねさせて、陶然と快楽に浸っている。

「ンぁ……ぁ……しの、だぁ……」
「ああ。コンドームは、どこだ?」
「いい、から……っ、ちゃんと洗ったから……」
「っ、だが」

ねだるように締まったナカに、思わずごくりと喉を鳴らす。
……ここに雄をぶち込んだなら、それは確かに気持ちがいいだろう。
薄く素っ気ない隔たりもなく直に繋がりあったなら。
この熱く甘えるような締めつけを、雄で直接味わったなら…………それは、どんなに。

――だが、駄目だ。

相原と繋がる前に、いろいろと調べた。
性病の心配は互いにないとわかっているが、直腸内に精液を受け入れると、腹を下すことがあるとか。コンドームの潤滑もなく繋がると、ナカを傷つける可能性があるとか、そういったことをだ。
……そんなリスクがあるとわかっていて、直に繋がることはできない。
相原を傷つけたくはない。

「……っ、なぁ、篠田は、ヤだ?」
「なに……?」
「俺と、ナマで、したくない……?」

瞳を羞恥に潤ませて、相原が俺の目を覗き込んでくる。形のいい眉を不安に曇らせ、俺のシャツに縋りつきながら、俺の心を見透かしてくる。
ごくりと唾を飲み込む音がした。
やけに大きく響いたそれは、俺の欲望の表れだ。
心底惚れた相手に縋られ、不安そうに誘われて、どうして断ることができるだろう。
自分も望んでいたら、なおさら。

「…………したいに、決まっているだろう」
「へへ、そっか」

顔をしかめながら出した答えに、相原はひどく無防備に笑った。
ふにゃりと口元を綻ばせ、伸び上がるようにして口付けてくる。その傍らで雄を支え、ほぐれた後孔へと導いていく。
嬉しそうなその笑顔と、ぬちゃりと湿った粘膜の感触に、俺は理性を手放した。


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