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きみはスライム 4
しおりを挟むヌシの部屋から転移で戻り、ずっと宿屋にこもっている。
スライムはずっと眠っているのか、楕円形に丸まったまま。
それがぐったりして見えるのは、ぽよぽよと跳ねていないからか、元気な声がないからか。
……もはや手遅れだったんだろうか。
……仮にもう一度目覚めたとして、それはちゃんとスライムだろうか。
こいつに限ってないとは思うが、……万一ヌシとなってしまったら、そうして人を害するなら、俺はこいつを殺さなきゃならない。
できるかできないかわからないが、……まったく出来るとも思えないが……それでも俺がやるしかない。
―――そんなふうに、思っていたのに。
食事を食べて部屋に戻ると、スライムがぽよぽよと跳ねていた。
ちょっと不思議そうに、でも少し楽しそうに、確認するように跳ねている。
―――この、ばか
近寄ってきつく抱きしめて、唇をきつく噛み締めた。
目の奥が焼けそうに熱くなって、喉の奥がひくひくと震える。
声を出すこともできないままに、ぎゅうぎゅうとスライムを抱きしめる。
スライムがするりと変化して、前のように人間になった。
身長が肩くらいまで伸びていて、それでもそのまま抱きしめ続ける。
こいつの姿がどうであっても、大事なことに変わりはない。
この喜びに、変わりはない。
―――すきだ
俺の方こそ、好きなんだ。
馬鹿みてーだけど、好きなんだ。
ばかで、素直で、かしこくて。まっすぐすぎるこのスライムが。
かわいくって、仕方ねーんだ。
とうとう涙がこぼれだして、スライムの肌にぱたぱたと落ちた。
途端に消える水滴に、なぜだかひどく安心する。
スライムがスライムであることが、胸の中をあたたかくする。
「無事で、よかった」
「えへへ、ご主人さまもー」
―――この、馬鹿。
あんな時にすきだっつって。
こんな風に嬉しげに笑って、きらきらした目で見上げてきて。
どれだけ俺を泣かす気なんだ。
ムカついたからキスをして、やわい唇に歯を立てた。
きょとりとまあるくなった瞳が、不思議そうに俺を見る。
こいつらしい反応に、むずむずと嬉しさがこみ上げてくる。
これなあに、って聞かれたら。
いったいどうやって答えようか?
これはキスだと教えてから、好きだと思ったらするんだと教えて。
たぶんそれじゃわからねーから、「好きのしるし」だって噛み砕いて。
ああ、あと、それから。
―――俺とだけだって、伝えねーとな
小さく笑ってスライムを見れば、スライムもまた、ふにゃりと笑った。
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