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11なんでこんなことに 【リーノ】

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ガツガツと飯をかき込んで腹を満たして、そんな疑問をひとつひとつ聞いていったら、ゼノの返事は驚くようなものだった。
なんと、ゼノさん、勇者なんだって。
勇者に付いている騎士団の下請けの下請けの下請けの雑用係なんかじゃなくて、勇者本人なんだって。
将軍も宰相も魔王様もバッサリ殺って、魔王になることにしたんだって。

あはは、俺、勇者本人に勇者の動向聞いてたや。
……うん。いや。ぜんっぜん笑えないけど。
初対面から何年も経ってるのに、気づかない俺も俺だけど。

そんな勇者たるゼノさんは、人間にとっては英雄だ。
魔王様さえあっさりと倒しちゃったわけだし、国に帰れば金銀財宝思いのまま。
それを差し引いてもこの美貌、美女でも美男でも選り取りみどりに違いない。
なのになぜか魔国に残って、実力至上主義に則って、魔王になることにしたらしいんだけど――。

なんで魔王になったのか聞いたら、そもそも魔王様を滅ぼしたこと自体が、俺を手に入れたいと思ったかららしい。

誰にも邪魔されずに俺と暮らしたいけど、人間の国じゃ絶対無理。
魔国でも鬱陶しいことになるかもしれない。
だったら、全員倒して魔王になって、文句も付けられない立場になればいいんじゃない? って思ったんだとか。

初対面のときはもう少し話していたいと思っただけだったけど、その想いが数年で強くなって、二回目に会ったときにはそう決めてたとか。
上級魔族はつがいにしかしっぽを見せないっていうのも昔の俺が話してて、いつかつがいになってしっぽを見たいと思ってたとか。
なんていうか、うん。
わけがわからない。

――魔王様、すみません。下請けの下請けの下請けの下請けの失敗が、ありえないことを招いたようです?

でも、まさか、あんなチビッ子が勇者になるとか、俺と暮らすために魔王様を倒すとか思わないじゃないですか。
ぶっきらぼうだけど色々と助けてくれる親切な少年が裏でこんなこと企んでるなんて、想像するわけないじゃないですか。
たぶん俺は悪くない。
はず。

……そうだよな? な?


「……無理やりつがったことは、申し訳ないと思っている。でも、リーノが心底嫌なわけじゃないなら、少しでも俺に可能性があるなら、どうか隣にいることを許してほしい」
「えーっと、あのさ……その……もしかして、ゼノ、俺のこと好きなの?」

おそるおそる聞きながらゼノを見つめると、目をまんまるくして俺を見ていた。

うわあ、しまった、はずしたかも。
自意識過剰だったかも。
ゼノの言葉の端々からそんな感じの雰囲気が出てたから、もしかしてって思ったんだけど――こんなに強くてカッコよくて元勇者で現魔王様のすごいやつが、平凡な俺を好きなわけないよな!

……うう、ちょう恥ずかしい。
穴があったら入りこんで、そのまま物言わぬ石になりたい。

「……言ってなかったか?」
「へ?」
「もちろん、好きだ。馬鹿なところも、抜けてるところも、魔族のくせに優しいところも、笑うと見える小さな牙も、尖った耳もふわふわの髪も、飴玉みたいで甘そうな瞳も、先っぽがハート型のかわいいしっぽも――」
「うわぁ! ストップ! しっぽはナシ!」

あわててゼノの口を塞ぐと、その手をちろりと舐められた。
こ、この……! こいつ、なんてことを……!!
さっきまでしょんぼりしてたくせに、いつの間に復活してたんだ!? 
しかも、なんで俺の手を掴んだまま、熱のこもった目で見てくるんだよ!! 

くそう、見んなよ!
どうせ顔が真っ赤になってるって言いたいんだろ!
わかってる。わかってるから、そんなうっとりとした目で見るな!!

「うぶなところも、全部好きだ。俺はリーノのすべてがほしい」
「……うぅ」
「リーノに好きになってもらえるように、努力する。だから、つがうことを許してはもらえないだろうか」
「わかった! もうわかったから!」

ああ、もう! なんて恥ずかしいやつ! もう限界! 降参! とやけになって叫んだら、そのままベッドに押し倒された。

頭上には嬉しそうに笑うゼノ。
青みがかった銀の髪が、月明かりを反射してきらりと光る。
氷みたいな色の瞳は、熱をはらんで妖しく揺れる。

憎らしいくらいの整った容貌に思わず見とれて、すぐにハッと身を固くした。

「……うん? いや、待って? なんで俺、いきなり押し倒されてんの?」
「好きになってもらえるように、努力すると言っただろう?」
「言ってたけど……え、ちょ、なんで触んの? そういうのは気持ちが追いつくまで待つもんじゃねぇの!? なんか色々間違ってねぇ!?」
「リーノはどうも、身体から攻略したほうが早そうだから。……でも、しっぽは大事に取っておく」

やけにいい笑顔を見せたゼノが、服の下に手を這わす。
腰をするりと指でたどり、背中をそっと撫で下ろし……しっぽのすれすれのところで手を止める。

……確かにしっぽには触れてない。
触れてない、けど、尾骨の上をこすこすとこすられ、ひぃんと情けない声が漏れる。

――ううぅ、なんでこんなことに。

びくびくと身体を震わせながら、せめてもの抵抗にシーツをぎゅっと握りしめた。
いくら相手がゼノだからって、簡単に流されるわけにはいかない。
もう流されかけてる気もするけど、そんな事実に気づいてはいけない。
流されなくたって、つがいであることには変わりないんだけど……さすがにちょっと、心の準備というものがな!?
恋愛もえっちなこともド素人だから、もうちょい手加減してくれねぇかな!?

――なーんて、こんな抵抗も、きっと長くはもたないんだろうな。

ゼノは人間で、俺は魔族で。
本当は出会うはずもない相手で。
仲良く話すなんてもってのほかで。
……なのにずっと会いたくて、何度も会いに行ったんだから。
どんなに忙しくても出張があったら喜んで引き受けて、ゼノの姿を探してたんだから。

会えなくなってしまってからは、ぎゅっと結晶を握りしめて、ゼノのことを想っていたから。


やられっぱなしが悔しくて、ゼノの唇をぺろりと舐めた。
キスは恥ずかしいから無理だけど、舐めるくらいなら俺にもできる。
そりゃあゼノほど上手くはできないけど、俺だって一応男だし。
喘がされてばっかっていうのも、なんか情けない気がするし……ちょっとくらいやり返したって、悪くないと思うんだよな。

目を見開いて固まったゼノに、どうだというようにへらりと笑う。
馬鹿で弱っちい俺だけど、いつまでもやられっぱなしじゃないんだぞって――にんまり笑って言おうとしたら、ゼノがぎらつく目で俺を見た。

剣だこのある手が両手を掴んで、乱暴に押さえつけてくる。
全身で俺にのしかかって、喰らい尽くすように口付けてくる。
ぎらぎらと輝く薄青の瞳が、間近で俺を射抜いている。

冷たそうな色なのに、はらんでいるのは欲と熱。
今にも焼け焦げてしまいそうな熱量に、気圧されてごくりとつばを飲み込む。

――えっと……もしかして俺、ちょっと調子に乗りすぎた……??



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