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9むり。げんかい。* 【リーノ】

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「ぁ、ぁ、ゼ、ノ……っ」

静かな部屋に、うわずってひっくり返った声が響く。
乱れて弾む息遣いと、ぴちゃりと聞こえるささやかな水音。
それらが恥ずかしくて仕方ないのに、どうにか逃げようと身をよじるのに、身体が言うことを聞いてくれない。

――もうどれくらい、こうしてるだろう。
――なんでゼノと、こんなことしてるんだろう。

ゼノが触れるたびどろどろにとろけていく頭では、ちゃんと考えることすらできない。
ゼノの愛撫に翻弄されて、情けなく甘えた声をあげて、ゼノの服をしわしわにして――まだ肝心なところには触れられていないのに、下着はすでにぐちゃぐちゃだった。

ソファーでのキスは、ゼノにとってはたわむれみたいなものだったんだろう。
ベッドに俺を連れ込んで、支度を終えてのしかかってきたゼノが、もう一度唇を重ねてきて。
口の中すべてを貪られ、舌を擦りつけるように絡められて、大量の魔力を注ぎ込まれた。

そのときからもう、ただひたすらに啼いてばかりだ。

ゼノの熱い手が俺の肌を這いまわり、弱いところを探していく。
喉のすじをゆっくりとたどり、鎖骨のくぼみに爪を立て、胸の飾りをくにりと潰す。
あるかないかわからないような小さなそれが、どうやらゼノは気に入ったらしい。
つまんだり、引っかいたり、キスをしてじゅっと吸い上げてみたり。
軽く歯を立てたままちろちろと舐めて、ざらりとした舌で潰してみたり。

そのたびにびくびくと背を反らす俺を、ゼノはじっと見つめていた。
冷たいブルーの瞳に底知れない熱を宿しながら、捕食者の目で俺を見ていた。

「ちっさい羽。ここも弱いから隠してるの?」
「ちがっ、ぁ……! 噛んじゃ……ッあ……」

かしりと羽に歯を立てられて、ぶんぶんと首を振って背を反らす。
蝙蝠みたいな小さい羽だ。
形はそんなに悪くないけど、見せびらかすほどカッコよくない。
だからいつも出してないだけで――そこがこんなに弱いなんて、ゼノに触れられるまで知らなかった。

根元に軽く歯を立てたゼノが、骨をたどるようにちろちろと舐める。
そのたびに羽が跳ねてしまって、ぱさぱさと軽い音が鳴る。
背を撫でられながら羽をいじられ、シーツに縋って嬌声をこぼす。

――いつの間に、裏返されたんだっけ……。

さっきまでは仰向けで、さんざん唇を貪られていた。
唇が少し腫れぼったく感じるくらいにキスされて、乳首がツンと主張するようになるまでいじくられて……今は触れられてもいないのに、シーツにこすれるだけでじんじんする。
俺も知らなかった弱いところを、ひとつずつゼノが探り当てていく。

もうだめ。むり。げんかい。

そう泣き言を吐きそうになったとき、ゼノの片手がズボンを探った。
張り詰めた前をするりと撫でて、不埒な指が金具に伸びる。
巧みに服を脱がせたように、今度はズボンも脱がせようとしている。

それに気がついたその瞬間、大きな手を握りしめていた。

「ぁ……あ、だめ。下は、脱がせちゃ」
「なぜ? こんなに張り詰めて、苦しいだろう?」

苦しい。苦しい。
早くこの熱から解放されたい。
でも、ここまで流されてしまったけど、これ以上はもうだめだ。
ずっと性器が張り詰めたままで、ズボンの前はかなりきつい。
すぐにでも触ってほしくてしかたない。

――でも、それを許すわけにはいかない。

快楽と本能に従う下級魔族たちとは違って、上級魔族には厳格なしきたりがある。
弱点であるしっぽを見せるのも、肌を重ねて契りを交わすのも、生涯の伴侶となるつがいだけ。
もし誰かにしっぽを見られてしまったなら、その相手と生涯を誓わなければならない。
これ以上進んだら、しっぽを見られてしまったら、悪ふざけということにはできない。

「だって、しっぽ……つがいにしか、」

半泣きでどうにか言葉を絞り出したら、ゼノの動きがぴたりと止まった。
おそるおそる身体をひねって見上げると、ゼノが静かに俺を見下ろしている。
整いすぎた顔から表情を消して、見たこともない怖い顔で、ひたりと俺を見据えている。

「へぇ、つがい。リーノ、つがいなんていたんだ?」
「い、いないっ! いない、けど、しっぽは……」

急に低い声を出したゼノが怖くて、あわててぶんぶんと首を振った。

つがいなんていないし、ついでに言うとモテもしない。
見た目も魔力も平々凡々、強いか弱いかで言ったら弱い。
上級魔族の学校じゃあ、落第ギリギリの落ちこぼれ。
さらに言うとエリートでもお金持ちでもない俺には、つがい探しはきっと無理だ。

でも、だからと言って、しっぽを見られてしまうのは困る。
身体は熱いままだけど、触ってほしくて仕方ないけど、このままつがっちゃうのはダメだ。
ゼノは人間だからそんなしきたりは知らないのに、俺なんかのつがいになっちゃったら可哀想だ。

ゼノはこんなにも格好良いんだから、きっといい人だっているはずだし。
今こうして肌を触れ合わせてるのも、たぶん冗談か気の迷いだと思うし。
それなのに一生を縛られちゃうなんて、ゼノは困ってしまうだろう。

「リーノは、俺がつがいだと嫌?」
「へっ?」
「俺はリーノの全部がほしい。しっぽを見たらつがいになれるなら、いますぐ押さえつけてしっぽを暴いてやりたいと思ってる。……リーノは、そんな俺がつがいだと、嫌?」
「っ!?」

言葉とともにしっぽをそろりと撫でられて、声も出せずに息を詰めた。
ズボン越しでも、その快感は尋常じゃない。
ぴゅくりと先走りがあふれだし、視界が一瞬真っ白になる。

魔族の一番の弱点で、生まれたときからずっと隠しているところ。
大気にもほとんど触れることのないその場所を、ゼノがやんわりとたどっている。
刺激を知らない敏感なところが、ゼノの手の中でびくびくと震える。

――だめ、だめ、触っちゃ、

そこは触っちゃダメなところだ。
見せるのも触らせるのもつがいにだけ。
自分でさえ洗うときくらいしか触らないし、触っちゃいけない。
それくらいに弱くて、敏感で、繊細なところで――ズボン越しにゆっくりとなぞられるだけで、目の前にちかちかと星が散る。
勝手に涙が滲んできて、がくがくと膝が震えてしまう。

快感が強すぎて、声を出すことすらできない。
それでもなんとかゼノを止めたくてぶんぶんと首を振っていたら、ゼノがひどく冷たく笑った。

「……そんなに、嫌か。でもごめんね」

ビッと布の裂ける音が響き、しっぽが外気に晒される。
それと同時に付け根をきゅっと掴まれて、先へ向かってきつく扱きあげられる。
身体のどこより敏感で、他人はおろか自分でも触れたことのない大切なところが、ゼノの熱い手で嬲られている。

「ひ、ぁ、ぁあああああッ!!」
「髪と同じ黒、肌よりなめらかで、どこよりも敏感。先っぽのハートもすごくかわいい」
「っあ、ぁ、だめっ、だめッ……!」
「リーノ。……これで、俺のつがいだ」
「~~~~~~ッ!!」

しっぽの先にちゅっと口付けられ、頭の中が真っ白に弾けた。
深い絶頂の波に呑まれて、全身ががくがくと震えてしまう。
経験したことのない気持ちよさに、ゼノにすがりついて啼く。

……キスすら初めてだったのに、なんでこんなことになったんだっけ?
どうして、ゼノにしっぽをいじられているんだっけ……?
いま、ゼノはどんな顔をしてるんだろう?

いくつもの疑問が浮かんでは遠のいていったけど、追いかける元気は微塵も残っていなかった。


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