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8知らない感覚 【リーノ】

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こてんと首を傾げて見上げたら、ゼノが優しく微笑んでいた。
初めて出会ってから何年経ったんだっけ……もうすっかり大人の男って感じだ。
誰もが見とれるだろう美貌は、魔族でもそうそう見かけないくらいの麗しさ。
これで雑用係なんだから、もったいないなと思ってしまう。

ぼーっとゼノの顔を眺めていたら、大きな手がそうっと髪に差し込まれて、視界にゆっくり影が落ちた。
……ええと、なんか近くない?
俺の気のせいだったりする?
人間たちの間では、これが普通の距離感だったり?
だとしたら押しのけるのも失礼だしな、なんて回らない頭で考えてたら、唇に柔らかいものが触れた。

――え?

びっくりしすぎて固まっていると、また角度を変えて口づけられる。
やわやわと唇がやさしく食まれて、味わうように舐められて――それだけで背筋がぶるりと震えて、目にうっすらと涙が溜まった。

「……嫌だったか?」
「ぇ……?」
「飴玉がとろけてる」

ふっと微笑んだゼノにぺろりと目元を舐められて、かあっと顔に血がのぼる。

あ、飴玉って、俺の目のこと? 
なにこれ? 
なにこれ?
なんだこれ? 
いったい何が起きてんだ?

さ、さっきのって、キスなんじゃ? 
もしかして俺、ゼノとキスしてしまったんじゃ――?

「リーノの嫌がることはしないから」

しないから、何!? 
続きは何!? って聞きたいのに、はくはくと喘ぐことしかできない。
俺を見つめる瞳には熱がこもっていて、落ちてくる唇はひどく熱い。
目尻から頬へ、頬から口元へ。
少しずつ唇に近づいたそれが、もう一度俺の唇をとらえる。
さっきは優しかったのに今度はわずかに荒っぽく、噛みつくように口づけられる。

熱を逃がしたくてはくりと唇を開いたら、そこから舌が入ってきた。
驚いて身を固くすると、大きな手がそっと首筋をなぞる。
首の後ろから腰のあたりまでゆっくりと背筋を撫で下ろされて、甘い疼きが広がっていく。

魔族は快感に弱いって聞いたことあるけど、キスだけでこんなにたまらなくなるものなんだろうか。
こんなにも、何も考えられなくなっちゃうものなんだろうか。
初めてだからわからない。

絡めた舌先からゼノの魔力が伝わってきて、身体がどんどん熱くなっていく。
ゼノは人間の方が体温が高いって言ってたのに、今では俺の方が熱いくらいだ。
むずかるように身をひねっても、勝手に熱が溜まっていく。

「ゼノ……ゼノ……、どうしよう」
「リーノ?」
「おれ、おれ、……っ、なんか、変だ」

唇を触れ合わせたまま泣き言を漏らすと、ゼノが小さく笑みをこぼした。
そのわずかな吐息が唇をかすめ、ふるりと身体が震えてしまう。
知らない感覚が恐ろしくて、ぎゅうっとゼノにすがり付く。

なんか変。
本当にそうとしか言いようがない。

それなりに自分で慰めたりはするけど、触れてもいないのにがちがちになることなんてなかった。
腰に力が入らなくなることもなかったし、それに触れたくて、触れてほしくてたまらなくなることもなかった。
こんな……こんなの、どうしたらいいかわからない。

「大丈夫、魔力の相性がいいせいだよ」
「あい、しょう……?」
「ああ。ずっと結晶をつけててくれたから、ちゃんと俺の魔力に馴染んでる」

くいっと首飾りが引っ張られて、それにつられて視線を落とした。
真ん中に虹を抱えたアイスブルーの結晶が、長い指でつままれている。

この結晶のおかげで、俺がゼノの魔力に馴染んでいて……? 
だからこんなに、おかしくなっちゃったってこと?

唇が少し離れただけなのに、身体がさみしさを訴えてくる。
服越しの体温がもどかしくて、ねだるようにゼノにくっつく。
一番熱をもった性器をこすりつけたくて仕方なくて、勝手に揺れそうになる自分の身体を、ゼノの服をしわしわにしてやり過ごす。

こんなの、絶対おかしいのに。
普通じゃないってわかってるのに。
熱に浮かされた頭では、もうゼノに縋りつくことしかできない。

「……でも、少し効きすぎたかな。かわいいけど、抑えが効かなくなりそうだ」

額にちゅっとキスされて、そのまま軽々と抱き上げられた。
向かった先は大きなベッド。
優しく俺を横たえたゼノが、乱暴に上着を脱ぎ捨てる。
いていた長剣を壁に立てかけ、腰のベルトを引き抜いて、身につけていたものを外していく。
はだけられた襟元から、たくましい身体がのぞいている。

それを見ているだけでも身体が熱くなりそうで、背中を向けて目を逸らした。
キスで高められた身体の熱は、ゼノと離れてもひどくなるばかりで、ボタンを外して肌をさらす。
服の合間からひやりとした空気が入りこんで、熱をやわらげてくれる感じがする。

熱を逃がしたくて息を吐いたとき、ゼノが俺の名前を呼んだ。
ほんのすこしやわらいだ熱は、それだけですぐに燃えあがってしまった。


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