14 / 40
慰める気はない 後 〚早苗〛
しおりを挟む安らかな寝息が聞こえてきたのは、案外早かった。
それが嗚咽でなかったことに少し安堵しながら、少し長めの黒髪を梳く。
保健室の葵の独白は、今でも鮮明に思い出せる。
双子なのに似ていない、落ち着いて聞けたのはそこまでだった。
兄弟との扱いの差は、はっきり言って虐待レベルだ。
家族でなくて、召使のような扱い。
そして、ニセモノの言葉。
「他の男とキスとか、生意気。」という言葉に、ヤツの執着の根の深さを知る。
兄弟のくせに、そういう目で葵を見ているんだろう。
そうでなければ他の男という言葉にはならないはずだ。
そして今日の、「そういうこと」
志摩の様子からして事実ではないハズだけど、大方それを匂わせる何かを見せられたんだろう。
ヤツの執着が恋情、あるいは欲望を含んだものだとは確信している。
それでいて、志摩との様子を見るに―――葵を可愛がりたいのではなく、傷つけたいのだろう。
本当に、性質(たち)が悪い。
顔がどうこうより、性格がまったく似ていない。
さて、これでヤツはどう出るか。
いつまで経っても葵が戻らなければ、どうする?
あるいは、男の家に泊まったと知ったら?
―――早いうちに、危険の芽は潰そう。
✢
葵の携帯が震え始めたのは、23時をまわった頃だった。
そろそろかと思っていたから、出しておいた携帯を見る。
やはり、茜の文字。ヤツだ。
それだけ確認して、番号を控えてから電源を落とした。
こちらから電話をするのは、30分後。
繋がらなくなった携帯に、焦ればいい。
30分後。
葵の携帯から折り返せば1コールも鳴らずに電話に出た。
葵!?と呼ぶ声は、驚くほど葵に似ている。
似ているとこもある。当然だ。双子の弟だ。
そう思えばおかしくなって、少し笑ってしまった。
「―――お前、誰だよ。」
警戒心を顕にした声。
傲慢な物言いは、葵とはやはり似ていない。
顔立ちより何より、性格の違いが二人を似ていないように見せるのではないだろうか。
「誰だと思う?」
「早苗か。葵はどこだ。」
即答とは、まいったね。
話したことはないのに、声だけで特定されるくらいにはマークされていたらしい。
まぁ、掌中の珠を狙うカラスを警戒するのは、当然か。
「あたり。光栄だね、声だけでわかってもらえるなんて。―――葵なら、今俺の横で寝てるよ。」
「っ、……てっめぇ!!!俺の葵をかえせ!!!!」
俺の葵。
その言葉にぶちりとどこかが切れる音がする。
あはは、と嗤った声は、凍るような冷たいものになった。
「おもしろい冗談だね。誰が、誰のものだって?……大切なものを傷つけることしか出来ないガキが、いい気になるなよ。」
「なっ…………!!!」
「葵は、俺がもらう。日曜日の夜には返してあげるから。それまで指を咥えて待ってなよ?」
じゃあね♪とわざと明るい声を出して電話を切る。
すぐにまた掛かってくるかと思ったけど、それもない。
―――そーゆーとこが、甘いんだよ。
ひとつ嘲笑して、あたたかなベッドに舞い戻った。
✢
腕の中でまるまる体温が愛しくて、無防備な寝顔が可愛くてしばらくずっと眺めていたけど、いつの間にか寝ていたらしい。
朝が来て、もぞりと葵が身じろぎして目が覚めた。
そのままじっと見つめていると、稚く目をこすった葵が俺を見て大きく目を見開く。
「おはよ。………よく眠れた?」
微笑みかければ、何度も瞬いたあと少し頬を赤らめて目を伏せる。
色が白いから赤くなるのがわかりやすいな、と思って頬をそっと撫でれば、もっと顔が赤くなった。
「葵。かお、赤いよ。」
緩みきった顔のままそういえば、葵が「う、うるさい!」と言って布団に潜った。
ちらりと覗く耳まで真っ赤だ。
うん、感触は悪くない。
このまま、安心なんてさせない。
心をかき乱して、狼狽えさせて。
俺のことしか考えられないようにして。
これからニセモノは大きく動くだろうし、志摩だってどう出るかわからない。
だけど俺は、俺のスタンスで、葵を待とう。
悩んで、困って、動揺した葵が、俺を選ぶまで。
俺にこそ、奪われたいと思うまで。
12
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【R18】平凡な男子が女好きのモテ男に告白したら…
ぽぽ
BL
"気持ち悪いから近づかないでください"
好きな相手からそんなことを言われた
あんなに嫌われていたはずなのに…
平凡大学生の千秋先輩が非凡なイケメン大学生臣と恋する話
美形×平凡の2人の日常です。
※R18場面がある場合は※つけます
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる