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父子
父子③
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*****
「理森。今度の観月祭には、お前も参加しなさい」
シゲさんから観月祭の話を聞いた後で、祖父さんからも祭の話をされた。
「来週の土曜だよな」
「ああ。いずれはお前がやらなければいけないことだ。よく見ておくように」
「……俺で、いいんだよな?」
藍原の存在を思い浮かべて低く呟いた俺の言葉に、
「ん……何がだ?」
祖父さんが怪訝そうに眉をひそめた。
「後継者は、俺でいいんだよな?」
俺は探るような目で、祖父さんの顔を見つめた。
「当たり前だ。……照森が何か言ったのか?」
「父さんは何も……。でも、藍原ってヤツが直接俺に接触してきたよ」
「…………」
「楠ノ瀬が攫われたんだ」
「何だと……!?」
祖父さんは皺に埋もれた目を驚いたように見開いた。
「大丈夫、何もされてない。祖父さんは……藍原朔夜のこと、知ってるんだよな?」
「…………あぁ」
祖父さんは俺から目を逸らしてがっくりと肩を落とした。
「黙っていて、すまなかった」
「祖父さん……」
祖父さんが力のない声で言った。祖父さんの背中がひと周り小さくなった気がして、俺は悲しくなった。
「高遠の跡継ぎはお前だ。儂が決めた。何より……神がお前を選んだ」
「神……」
あの『声』を思い出した。俺の名前を執拗に呼び続ける、あの抗い難い『声』を――。
「今度の祭り……今回は儂が舞うが、次からはお前に頼むかもしれん。それも高遠の当主の大事なお役目だ」
「……それは、俺にしかできないんだよな?」
――あいつには、できないんだよな?
「ああ、そうだ」
祖父さんが大きく頷いてみせた。
徳堂に怪我をさせてしまったあの日以来……俺は『神憑り』をしていない。
――怖いのだ。
『神の力』とやらの一端を見せつけられた俺は、その力の前に竦んでしまった。
神の誘惑を自分一人で払い除ける自信がない。
青い目だって、自分一人の力では戻せなかった。
――俺は、楠ノ瀬がいないと無理だ。
――だけど……あいつなら、どうだろう?
「祖父さん、ちょっと質問なんだけど、」
「なんだ?」
「『神憑り』って、俺じゃなくても出来るものなのか? 高遠の血を引く人間なら……」
「……前にも言ったが、神は誰にでも『憑かれる』わけじゃない。選ばれた者だけだ」
「それは、俺だけなのかな……」
「何を言ってる?」
――ずっと、藍原の言っていたことが気になっていた。
『……もし僕が「開眼」したら……』
あいつはそう言ったんだ。
もし、神様が俺ではなく、藍原を選んだとしたら……?
「……理森、……理森! お前、何を考えている……?」
祖父さんに名前を呼ばれるまで、俺はとりとめもない思案に暮れていた。
「理森。今度の観月祭には、お前も参加しなさい」
シゲさんから観月祭の話を聞いた後で、祖父さんからも祭の話をされた。
「来週の土曜だよな」
「ああ。いずれはお前がやらなければいけないことだ。よく見ておくように」
「……俺で、いいんだよな?」
藍原の存在を思い浮かべて低く呟いた俺の言葉に、
「ん……何がだ?」
祖父さんが怪訝そうに眉をひそめた。
「後継者は、俺でいいんだよな?」
俺は探るような目で、祖父さんの顔を見つめた。
「当たり前だ。……照森が何か言ったのか?」
「父さんは何も……。でも、藍原ってヤツが直接俺に接触してきたよ」
「…………」
「楠ノ瀬が攫われたんだ」
「何だと……!?」
祖父さんは皺に埋もれた目を驚いたように見開いた。
「大丈夫、何もされてない。祖父さんは……藍原朔夜のこと、知ってるんだよな?」
「…………あぁ」
祖父さんは俺から目を逸らしてがっくりと肩を落とした。
「黙っていて、すまなかった」
「祖父さん……」
祖父さんが力のない声で言った。祖父さんの背中がひと周り小さくなった気がして、俺は悲しくなった。
「高遠の跡継ぎはお前だ。儂が決めた。何より……神がお前を選んだ」
「神……」
あの『声』を思い出した。俺の名前を執拗に呼び続ける、あの抗い難い『声』を――。
「今度の祭り……今回は儂が舞うが、次からはお前に頼むかもしれん。それも高遠の当主の大事なお役目だ」
「……それは、俺にしかできないんだよな?」
――あいつには、できないんだよな?
「ああ、そうだ」
祖父さんが大きく頷いてみせた。
徳堂に怪我をさせてしまったあの日以来……俺は『神憑り』をしていない。
――怖いのだ。
『神の力』とやらの一端を見せつけられた俺は、その力の前に竦んでしまった。
神の誘惑を自分一人で払い除ける自信がない。
青い目だって、自分一人の力では戻せなかった。
――俺は、楠ノ瀬がいないと無理だ。
――だけど……あいつなら、どうだろう?
「祖父さん、ちょっと質問なんだけど、」
「なんだ?」
「『神憑り』って、俺じゃなくても出来るものなのか? 高遠の血を引く人間なら……」
「……前にも言ったが、神は誰にでも『憑かれる』わけじゃない。選ばれた者だけだ」
「それは、俺だけなのかな……」
「何を言ってる?」
――ずっと、藍原の言っていたことが気になっていた。
『……もし僕が「開眼」したら……』
あいつはそう言ったんだ。
もし、神様が俺ではなく、藍原を選んだとしたら……?
「……理森、……理森! お前、何を考えている……?」
祖父さんに名前を呼ばれるまで、俺はとりとめもない思案に暮れていた。
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