禁じられた逢瀬

スケキヨ

文字の大きさ
上 下
63 / 100
父子

父子①

しおりを挟む
「どんな奴だった!?」

 運転手さんが車を回してくるのを待つ間、あやちゃんが楠ノ瀬くすのせに犯人のことを問いただした。

「どんなって……普通の男の人だよ。私たちと同じくらいの年頃の」

 楠ノ瀬は記憶を辿るように上を見やりながら、ぽつぽつと語った。

「ちょっとタレ目で小動物っぽい感じじゃなかったか?」

「小動物……?」

 俺の藍原あいはら評に、楠ノ瀬は首を大きく傾げて考え込んだ。

「言われてみれば、そんな感じ……かも?」

 楠ノ瀬は答えてから、ふっ、と緊張が解けたように薄く笑った。

「あいつの顔、見たんだよな?」

 俺が聞くと、

「うん。最初は縛られてただけで、目隠しとガムテープはされてなかったから」

 楠ノ瀬は囚われていた時の状況について説明した。

「あのガシャーンって音は? 清乃きよのがやったの?」

 あやちゃんの質問に、楠ノ瀬がこくり、と頷く。

「あれは私がなんとか暴れて、近くの棚から落としたんだけど……ちゃんと二人に届いてよかった。場所も気付いてくれて」

 楠ノ瀬が俺を見つめて、ほっとしたような笑みを浮かべた。

「……っていうか、気付いたの、私だから。高遠たかとおくんじゃなくて」

 あやちゃんが不服そうに唇を尖らせてぼそっと呟く。

「そうだった! あやちゃんのおかげで助かったよ」

 俺が大袈裟に礼を言うと、

「はいはい。わざとらしいフォローはいいから」

 軽くいなして、再び楠ノ瀬へと向き直った。

「それで? 私たちが準備室に着いた時にはもう犯人いなかったけど……」

「あの人もシンバルの音に驚いて……高遠くんたちに場所がバレた、って慌て出したの。それで私に『余計なことするな』って言って、目隠しとガムテープを貼り付けて、そのまま出て行ったみたい」

 その時のことを思い出したのか、楠ノ瀬は自分で自分を抱きしめて、ぶるっと体を震わせた。

「その後すぐに、ガチャガチャって音がして、誰かが入ってきた気配がしたんだけど……たぶん、それが梢江こずえ先生だったみたいで、ガムテープと目隠しを外してくれたんだ」

「先生がタイミングよく来てくれて、よかったよな。まぁそれが逆に面倒でもあったけど……。ありがとな、大事おおごとにしないでくれて」

 俺は機転を利かせて事態を収めてくれた楠ノ瀬に感謝した。

「え、ううん」

 少し照れたように、楠ノ瀬が髪を揺らして首を振った。

 ――また、助けてもらったな。

 楠ノ瀬にも、あやちゃんにも。
 俺はいつも助けてもらってばかりだ。

「あの男……あんたのお兄さんなの?」
 
 俺に鋭い視線を向けながら、あやちゃんが率直に尋ねてくる。

「……わからない。少なくとも俺は今まで一度も聞いたことがなかったから。ただ、俺の父親に愛人がいるのは確かで……だから、あいつの言うことは本当かも、しれない」

 俺はあやちゃんの視線を避けるように下を向いて、力なく口にした。
 彼女たちの目にはきっと、頼りないヤツだと思われているんだろうな……。

「気になったんだけど、」

 控えめに発した楠瀬の言葉を聞き漏らさないように、俺もあやちゃんも彼女の方を向いた。あやちゃんの刺すような視線が自分から外れたことに安堵する。

「あの藍原って人、うちの生徒じゃないよね? 同じ学年だって言ってたけど、見たことないし。どうやって音楽準備室の鍵を手に入れたんだろう……?」

「鍵?」

「うん……あの人が出て行く時、鍵をかける音がしたような気がして。目隠しされてたから、私の気のせいかもしれないけど」

 たしかに校内に忍び込むだけなら、うちの生徒のフリでもすれば何とかなりそうだけど。
 各教室の鍵は職員室に保管されていて、先生の許可がないと勝手に持ち出すなんて出来なかったはずだ。

 そもそも音楽準備室は四階の端っこにある。
 この学校の生徒であっても、俺みたいに音楽の授業を取っていなければ、ほとんど立ち入ることもない。どこにあるかも忘れていたぐらいだ。

「この学校内で、誰かあいつに協力している人がいる……ってこと?」

 あやちゃんが眉をひそめて呟いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...