禁じられた逢瀬

スケキヨ

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共犯者

共犯者①

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「なっ…………!?」

 藍原あいはら朔夜さくやの思いもよらない要求に、俺は言葉を失った。

 傍で俺たちのやり取りを聞いていたあやちゃんも、戸惑ったように大きな目をぱちくりと瞬かせている。

 ――高遠たかとお家を、譲る……?

「跡取り」なんて重圧でしかないと思っていた自分には想像もつかなかった。

 こいつの目的が、だったなんて……。

 しかしそれは俺の一存で何とかなるもんじゃない。というより、俺の力なんてまだ何もないに等しいのだ。「開眼かいがん」したとはいえ、その情報はまだ内輪の人間にしか伝えていないのだから。

 第一、高遠の後継者を決めるのは……。

「……それは、俺の意志でどうこうできるものじゃない」

 俺が祖父じいさんの厳しい表情かおと碧い目を思い浮かべながらそう言うと、

『アッハッハッハ、そりゃそうだよねー』

 わざとらしいくらい、カラッと弾けた笑い声が返ってきた。

『だよねー。わかってるんだけどねぇ、』

 藍原は誰にともなくそう言うと、

『……だけど君のお祖父さんは、僕のことを高遠の人間とは認めてくれないだろうからさ……』

 今までの調子とは違う固い声でぼそっと呟いた。憂いを帯びたその声音が俺の心をざわつかせる。ふざけた態度の下に隠している藍原の本音が、少しだけ、透けて見えた気がして……。

「お前、」

 俺が彼に向かって口を開いたところで――



 ガッシャーン…………!!



 ふいに金属が叩きつけられるような、けたたましい音がスマホのスピーカーから鳴り響いた。耳障りな不協和音が宵闇の静寂を切り裂く。

「なんだ、今の音は……!?」

 思わずスマホに耳をそばだてる。やかましい金属音に隠れるように、チリン、という鉄の鈴のような涼やかで控えめな音が聞こえた気がした。

『……何やってんだ……勝手に動くな……!』

 スマホの向こうから、途切れがちに藍原の怒声が聞こえる。

 これは楠ノ瀬に向けて言っているのか!?
 今の音は楠ノ瀬がやったのか……?

「さっきの音、もしかして……」

 何事かを考え込むように顎に手を添えて下を向いていたあやちゃんが、はっとしたように顔を上げると、そのまま勢いよくきびすを返して走り出した。

 長い髪とチェックのスカートが夜風に吹かれて揺れている。

「あやちゃんっ……どこ行くんだ!?」

 返事はない。
 あやちゃんは俺の呼びかけにも気付かない様子で、一目散に校舎の方へと駆けていく。

「ちょっ……待って…………!」

 彼女を見失わないように、俺も慌てて後を追った。
 

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