55 / 100
正体
正体①
しおりを挟む
あやちゃんの必死の形相に気圧されて、俺は彼女の言う通り、応答ボタンを押した。
「……もしもし、」
知らない相手からの電話は緊張する。案の定、俺の声はみっともなく掠れてしまった。
『あ……理森くん? よかったぁ。ちゃんと出てくれて』
返ってきたのは、やけに明るく、馴れ馴れしい男の声だった。
――馴れ馴れしい?
この声と喋り方、そして……そこから受ける印象……。
俺はゴクリと唾を飲み込んで、電話越しの相手に問いかけた。
「……あんたは、誰なんだ?」
俺がずっと気になっていたあの男。
人懐っこい小動物みたいに笑うくせに、どこか胡散臭い……あの男に違いなかった。
『誰って……名前を言えばいいのかな? 藍原朔夜、といいます』
――アイハラ、サクヤ。
男がいま口にした名前を頭の中で反芻してみた……が、思い当たる節はまるでなかった。
「なぁ、藍原朔夜、って男……知ってる?」
俺は小声であやちゃんに確認した。
彼女は少し考えてから、静かに首を横に振った。
あやちゃんに心当たりがないということは、楠ノ瀬の件とは無関係なのか?
「あの……藍原さんはなんで俺の番号を知ってるんですか?」
藍原の立場がわからない俺は、慎重に話を続ける。
『ん? 大したことじゃないよ。君に近い人……まぁ僕にとっても近いんだけどね……その人から教えてもらったんだ』
俺に近い人で、こいつにとっても近い……?
――誰だ?
もったいぶった藍原の喋り方に苛立ちが募っていく。
「……最近、たまに俺ん家に出没してますよね? なんで勝手にうちに出入りしてるんですか?」
俺が内心の苛立ちを抑えながら尋ねると、藍原は電話口で、ぶはっ、と盛大に噴き出した。
『アハハ……「出没」って、熊じゃないんだから……!』
何がそんなに可笑しいのか、藍原はひとしきりヒーヒーと笑ってから、
『……あと、高遠さん家にはちゃんと許可取ってお邪魔してるから。「勝手に」侵入してるわけじゃないんだよぉ~』
俺の質問に答えているようで答えていない……人を食ったような台詞が返ってきた。
――何なんだよ、一体……!
スマホを握りながら思わず顔をしかめる俺に、
「なんか知らないけど、関係ないヤツなら、さっさと切っちゃえば?」
隣で聞き耳を立てていたあやちゃんが囁いた。
「そうだな……。すいません、今ちょっと忙しいので、特に用がないんだったら、これで失礼します」
一応、丁寧に言い逃げして通話を切ろうとすると――
『あぁ~、待って待って! 最後に一つ教えてほしいことがあるんだけど、』
藍原が慌てたように言葉を続けた。
「……何ですか?」
早く電話を切り上げたい俺が不機嫌丸出しの声で聞き返すと、
『理森くんって、誕生日いつ?』
なんの脈絡もない、暢気な質問が返ってきた。
「……もしもし、」
知らない相手からの電話は緊張する。案の定、俺の声はみっともなく掠れてしまった。
『あ……理森くん? よかったぁ。ちゃんと出てくれて』
返ってきたのは、やけに明るく、馴れ馴れしい男の声だった。
――馴れ馴れしい?
この声と喋り方、そして……そこから受ける印象……。
俺はゴクリと唾を飲み込んで、電話越しの相手に問いかけた。
「……あんたは、誰なんだ?」
俺がずっと気になっていたあの男。
人懐っこい小動物みたいに笑うくせに、どこか胡散臭い……あの男に違いなかった。
『誰って……名前を言えばいいのかな? 藍原朔夜、といいます』
――アイハラ、サクヤ。
男がいま口にした名前を頭の中で反芻してみた……が、思い当たる節はまるでなかった。
「なぁ、藍原朔夜、って男……知ってる?」
俺は小声であやちゃんに確認した。
彼女は少し考えてから、静かに首を横に振った。
あやちゃんに心当たりがないということは、楠ノ瀬の件とは無関係なのか?
「あの……藍原さんはなんで俺の番号を知ってるんですか?」
藍原の立場がわからない俺は、慎重に話を続ける。
『ん? 大したことじゃないよ。君に近い人……まぁ僕にとっても近いんだけどね……その人から教えてもらったんだ』
俺に近い人で、こいつにとっても近い……?
――誰だ?
もったいぶった藍原の喋り方に苛立ちが募っていく。
「……最近、たまに俺ん家に出没してますよね? なんで勝手にうちに出入りしてるんですか?」
俺が内心の苛立ちを抑えながら尋ねると、藍原は電話口で、ぶはっ、と盛大に噴き出した。
『アハハ……「出没」って、熊じゃないんだから……!』
何がそんなに可笑しいのか、藍原はひとしきりヒーヒーと笑ってから、
『……あと、高遠さん家にはちゃんと許可取ってお邪魔してるから。「勝手に」侵入してるわけじゃないんだよぉ~』
俺の質問に答えているようで答えていない……人を食ったような台詞が返ってきた。
――何なんだよ、一体……!
スマホを握りながら思わず顔をしかめる俺に、
「なんか知らないけど、関係ないヤツなら、さっさと切っちゃえば?」
隣で聞き耳を立てていたあやちゃんが囁いた。
「そうだな……。すいません、今ちょっと忙しいので、特に用がないんだったら、これで失礼します」
一応、丁寧に言い逃げして通話を切ろうとすると――
『あぁ~、待って待って! 最後に一つ教えてほしいことがあるんだけど、』
藍原が慌てたように言葉を続けた。
「……何ですか?」
早く電話を切り上げたい俺が不機嫌丸出しの声で聞き返すと、
『理森くんって、誕生日いつ?』
なんの脈絡もない、暢気な質問が返ってきた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる