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奪取
奪取①
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それから俺はシゲさん以外の使用人にもそれとなく尋ねてみたけれど、あの男の正体について教えてくれる人は誰もいなかった。
もしかすると、本当に知らないのかもしれない。
シゲさんは勤続年数も長く、祖父さんの信頼も厚いから知らされているだけで、他の人たちには知らされていないのかもしれなかった。
確かにあの男は使用人ではないらしく、よくよく思い返してみれば、俺も数えるほどしか見かけていない。
そうなると、やっぱり祖父さんか父さんに確認するしかないのか……。
「なぁ、うちの父さん……最近見た?」
「旦那様ですか? えーと、最後にお目にかかったのは、二週間……いえ、三週間くらい前でしたっけ……?」
何人かの使用人を捕まえて父の所在を聞いてみたが、把握している者はいなかった。
やはり祖父さんに比べて、父さんの存在感は薄い。それは家人たちの素っ気ない態度にも無情なほど、はっきりと現れている。
――それに……。
父さんが家にほとんど帰ってこないのは……仕事が忙しいのもあるけれど……それだけじゃない。
父親の不在の理由に思いを馳せて憂鬱に襲われる俺を、
「理森さん」
シゲさんの堅苦しい声が呼び止めた。
「なに?」
あの男の正体を教えてくれないシゲさんに対して、ついつい不愛想な声が出てしまう。
シゲさんはそんな俺の子供っぽい態度にも動じることなく、淡々と要件を口にした。
「大旦那様がお呼びです」
*****
「町の人間に気付かれた」
「……え」
祖父さんが眉間に皺を寄せながら、静かに告げた。
俺はいつかと同じように、祖父さんの部屋に二人きりで正対して座っていた。
床の間の一輪挿しに飾られた花がリンドウではなくキンモクセイに変わっている。
「……写真を、見せられた。お前と、楠ノ瀬の娘の」
「あれはっ……! 俺の目が元に戻らなかったから、楠ノ瀬が助けてくれたんじゃないか!」
祖父さんの発言に、俺は思わず腰を浮かせて声を張り上げた。
「落ち着きなさい。事情はわかっておる……儂が頼んだんだからな」
興奮する俺を、祖父さんが巌のようにどっしりと低い声で宥めた。
「儂に知らせてきた者は、『孫の学校でその写真が出回っている』と言っておった」
孫の学校というのは、S高のことに違いない。
「祖父さんも、あの画像を見たのか?」
「…………ああ」
いつもは岩のように動じない祖父さんが、珍しく言いずらそうに言葉を詰まらせた。
キンモクセイの匂いがやけに鼻をつく。
「まだ大きな問題にはなっておらんが、町の者……特に年配の人間は敏感だ」
祖父さんは腕を組んで俺の顔を見つめた。
「現代はインターネットだなんだと、あっという間に話が広まってしまう。神の力でも追いつかないかもしれん……便利だが、面倒な時代になったものだな」
祖父さんは俺の顔から視線を外すと、床の間のキンモクセイに目をやって、力なく呟いた。
もしかすると、本当に知らないのかもしれない。
シゲさんは勤続年数も長く、祖父さんの信頼も厚いから知らされているだけで、他の人たちには知らされていないのかもしれなかった。
確かにあの男は使用人ではないらしく、よくよく思い返してみれば、俺も数えるほどしか見かけていない。
そうなると、やっぱり祖父さんか父さんに確認するしかないのか……。
「なぁ、うちの父さん……最近見た?」
「旦那様ですか? えーと、最後にお目にかかったのは、二週間……いえ、三週間くらい前でしたっけ……?」
何人かの使用人を捕まえて父の所在を聞いてみたが、把握している者はいなかった。
やはり祖父さんに比べて、父さんの存在感は薄い。それは家人たちの素っ気ない態度にも無情なほど、はっきりと現れている。
――それに……。
父さんが家にほとんど帰ってこないのは……仕事が忙しいのもあるけれど……それだけじゃない。
父親の不在の理由に思いを馳せて憂鬱に襲われる俺を、
「理森さん」
シゲさんの堅苦しい声が呼び止めた。
「なに?」
あの男の正体を教えてくれないシゲさんに対して、ついつい不愛想な声が出てしまう。
シゲさんはそんな俺の子供っぽい態度にも動じることなく、淡々と要件を口にした。
「大旦那様がお呼びです」
*****
「町の人間に気付かれた」
「……え」
祖父さんが眉間に皺を寄せながら、静かに告げた。
俺はいつかと同じように、祖父さんの部屋に二人きりで正対して座っていた。
床の間の一輪挿しに飾られた花がリンドウではなくキンモクセイに変わっている。
「……写真を、見せられた。お前と、楠ノ瀬の娘の」
「あれはっ……! 俺の目が元に戻らなかったから、楠ノ瀬が助けてくれたんじゃないか!」
祖父さんの発言に、俺は思わず腰を浮かせて声を張り上げた。
「落ち着きなさい。事情はわかっておる……儂が頼んだんだからな」
興奮する俺を、祖父さんが巌のようにどっしりと低い声で宥めた。
「儂に知らせてきた者は、『孫の学校でその写真が出回っている』と言っておった」
孫の学校というのは、S高のことに違いない。
「祖父さんも、あの画像を見たのか?」
「…………ああ」
いつもは岩のように動じない祖父さんが、珍しく言いずらそうに言葉を詰まらせた。
キンモクセイの匂いがやけに鼻をつく。
「まだ大きな問題にはなっておらんが、町の者……特に年配の人間は敏感だ」
祖父さんは腕を組んで俺の顔を見つめた。
「現代はインターネットだなんだと、あっという間に話が広まってしまう。神の力でも追いつかないかもしれん……便利だが、面倒な時代になったものだな」
祖父さんは俺の顔から視線を外すと、床の間のキンモクセイに目をやって、力なく呟いた。
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