禁じられた逢瀬

スケキヨ

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牽制

牽制①

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「やぁ、また会いましたね」

 土曜日。

 楠ノ瀬くすのせ家を訪れた俺を迎えたのは……よりにもよって、あの男だった。

 すらりとした長身。
 自信に満ちあふれた表情。
 切れ長の瞳には怜悧な光が宿っている。

「君には一度挨拶したいと思ってたんですよ。清乃きよのちゃんとも仲良くしてもらってるみたいだし?」

 背の高い男はそう言うと、俺に目を落とした。
 言葉遣いは丁寧なのに、端々はしばしに俺のことを下に見ているのがはっきりと感じられる。

「僕は徳堂とくどう直之なおしといいます。君は高遠……」

「……高遠たかとお理森よしもりです」

 徳堂に促されて、自分の名前を告げる。

「君の噂は聞いてますよ。高遠家期待の次期当主だって……もう『開眼かいがん』もしてるんだよね?」

 わざとらしい社交辞令を言ってから、徳堂は俺の目を覗きこんだ。
『開眼』というのは……あの、目が青く光ることか。

「ふーん、普段は普通なんだね」

 徳堂はつまらなそうに言って、俺の目から視線を外した。

「俺と清乃ちゃんは再従兄妹はとこにあたるんだけど、いずれ結婚する約束になってるんだ」

 聞いてもいないのに、徳堂は自分と楠ノ瀬の関係について語り出す。

「僕としては今すぐ籍を入れてもいいくらいなんだけど。さすがに今どき高校も出てないってのはどうかと思うし、本人は大学にも行きたいみたいだから……しばらく待つしかないよねぇ」

 ――そんなこと、知るかよ! 待たなくていいよ! 他の女を探せばいいだろ!

 俺はそう言ってやりたかったが、できるだけ顔には出さないようにこらえた。 
 徳堂はそんな俺を横目に、片頬だけをくいっと上げた意地の悪い笑みを浮かべている。

「清乃の『治療』はどうです?」

「……は?」

 唐突な質問に、俺は言葉に詰まった。

「実は……彼女に色々"仕込んだ"のは、僕なんですよ」

 俺の耳元に顔を寄せた徳堂が薄笑いを浮かべながら囁いた。

「な……!?」

 徳堂の含み笑いに何とも言えない嫌悪感を抱く。

 ――こいつ、今……楠ノ瀬のことも侮辱した……!
 
「君と清乃が『治療』で接する分には私は何も言いません。それがこの家のやり方ですから。ただし、」

 徳堂がずいっと前に進み出て、俺との距離を詰める。

「それ以上の接触は控えるように……わかるよね? 君ももう高校生なんだから……彼女は僕の婚約者だよ?」

 まるで小さな子供に言い聞かせるようなその口調に、俺は思わず徳堂のことを睨みつけた。

 ――こいつ、面白がってやがる……!

 俺の楠ノ瀬への想いも、楠ノ瀬の苦悩も……何もかも知っていて、何もできない俺たちのことを嘲笑わらっている。

「じゃ、今日も『治療』頑張って。早く『神様』に認めてもらえるといいねぇ」

 藤堂は皮肉めいた調子で言うと、俺の肩をぽんと叩いて歩き去った。
 奴に触れられた部分に残る生温かい感触が気持ち悪い。

 楠ノ瀬の婚約者……藤堂直之……からの明らかな悪意と牽制に。
 俺はろくに反論もできないまま、唇を噛みしめるしかなかった。


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