禁じられた逢瀬

スケキヨ

文字の大きさ
上 下
14 / 100
年上の男

年上の男④

しおりを挟む
 ガクリ……と膝をついた。

理森よしもり

 頭の中で声が響く。

理森よしもり……理森よしもり……理森よしもり……理森よしもり……理森よしもり……』

 その声は、ひたすらに俺の名前を連呼する。
 何かのまじないのように、何度も何度も何度も……。

「うるさいっ……!」

 俺は頭の中でしつこく響く声を振り払うように頭をむしった。

高遠たかとおくんっ……!」

 俺を呼ぶ楠ノ瀬くすのせの声が聞こえる。

「高遠くん……大丈夫!?」

 心配そうな声色で俺に呼びかける楠ノ瀬。
 ひんやりとした手が俺の肩に置かれる。

「たか……と…………くんっ……」

 俺を呼ぶ楠ノ瀬の声がすぐ耳元で聞こえ……る。

「……か……お…………んっ……」

 俺を呼ぶ楠ノ瀬の声が、聞こえ…………る?

「……ぉ…………ん……」

 俺を呼ぶ、楠ノ瀬の声が、聞こえ………………ない。

『理森』

 俺を呼ぶ誰かの声が聞こえる。

『理森……理森……理森……』

 名前を呼ばれるたびに、俺の体内の血がざわざわと泡立つ。
 全身の血が沸騰しているみたいだ……体の中を、沸き立った血が激流のように流れ回っている。

 その激しさに俺の心臓はついていけない。
 ぎゅうぎゅうと雑巾のように心臓を絞られて、全身を痛みに支配される。

 …………何も、考えられなくなる…………。
 
『理森……理森……理森……理森……理森……』

 血の音に混じって、何か聞こえる。

 理森……理森……理森…………



 ――何だ、それ……?



 奔流のように体内を流れ回る自分の血の音以外、何も認識できなくなる。
 遠くで鈴のような音が聞こえた……気がした。
 暗くなっていく視界の中で、音のしたほうだけがほのかに光っている。





 *****

 目が覚めると、夜だった。
 障子越しにやわらかな月の光が差しこんでいる。 
 俺はいつかのように、冷たい布団の上に寝かされていた。

 指を動かしてみる。

 ……動いた。

 腕を動かしてみる。

 ……何か柔らかいものに触れた。

 寝返りを打って、体をそっちに向けてみると。
 半裸の楠ノ瀬が俺の隣に寝転んでいる。

 寝ているわりに呼吸が荒い。
 額には汗が滲んでいる。
 頬には涙の跡が残っていた。

「くす……の……せ」

 声が掠れた。

 彼女の眉がぴくり、と反応する。

「楠ノ瀬」

 今度はさっきよりしっかりとした声を出せた。
 楠ノ瀬が苦しそうに顔を歪めたあと、ゆっくりと目を開く。
 しばらくきょろきょろと目を泳がせてから、

「……高遠……くん?」

 震える声で俺を呼んだ。
 俺は小さく頷いた。
 楠ノ瀬は早朝の朝顔のように……控えめに、花開くように、顔を綻ばせた。

「私のこと……わかる?」

 俺は大きく頷いてみせる。

「……よかった」

 楠ノ瀬が微笑むと、彼女の目尻からひとすじ透明な涙がこぼれ落ちた。 

 彼女が俺を繋ぎとめるように、強く俺の手を握る。
 俺たちはそのまま……横に並んだまま……目を閉じた。

 楠ノ瀬の呼吸が落ち着いたのを確認してから、俺は眠りについた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...