禁じられた逢瀬

スケキヨ

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あの娘には近づくな

あの娘には近づくな③

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楠ノ瀬くすのせの娘には近づくな』

 それは子供の頃から散々言い聞かせられてきた言葉だった。
 しかし、なぜ楠ノ瀬に近づいてはいけないのか……その理由を聞いたことはない。



 ――どうして、きよちゃんと遊んじゃダメなの!?

 ――どうしてもなにも、それが昔からの『言いつけ』だ。もう二度と楠ノ瀬の娘には近づくんじゃない!



 子供の頃、楠ノ瀬と一緒にいたことがバレた時……。
 ものすごい剣幕で怒鳴られたことを思い出す。

 俺はてっきり小学生の時に俺のせいで楠ノ瀬にケガをさせてしまい、それが原因であいつの家の人に嫌われてしまったからだと思っていたのだが……。

 よくよく思い出してみれば、そのケガの前から俺たちは互いに距離を置いていた……というか「置かされていた」気がする。

 田舎だから学校は一つしかなくて、俺と楠ノ瀬は小学校も中学校も同じだった。おまけに子供の数も少なくて、小学校など一学年に一クラスしかなかったというのに……俺たちは一緒の班になったこともなければ、隣の席になったこともなかった。

 もしかして先生もうちの家の人間と一緒になって、俺と楠ノ瀬が親しくならないように配慮していたということだろうか……?

 自慢じゃないが、俺の家はいわゆる「旧家」というやつで、この辺一帯の土地やら山やらを多く所有している。高遠たかとお家といえば、この辺りで知らない者はいない。一介の教師に圧力をかけることなど容易たやすかったはずだ。

 そして楠ノ瀬の家も俺の家と同じくらい由緒ある家柄だ。
 うちと同じくらいの土地を持っているはずだし、何よりこの町の「守護神」をまつっている。昔から続くいろんな伝統行事や神事を一手に取り仕切っているのが、楠ノ瀬家だ。現在いまの当主はたしか楠ノ瀬のお祖母ばあさんだったと思う。

 楠ノ瀬には悪いが……俺は、あの婆さんが苦手だ。

 数えるほどしか会ったことはないが、あの人を見ると俺はなぜか蜥蜴とかげを思い出す。
 外見はどうってことない普通のお婆さんだが、俺を見る目が尋常ではない……。獲物を狙う爬虫類みたいな目で、俺のことを睨みつけてくるのだ。

 あの人の前に出ると、まるで自分が「蜥蜴に狙われたハエ」にでもなった気分がして、どうしても身がすくんでしまう。

 ――家同士の確執でもあるのだろうか?

 俺個人が恨まれるような覚えはもちろんないし……。
 何か俺のあずかり知らない理由があるに違いない。

「はぁ……あの人に聞くしかないか」

 俺はある人物の顔を思い浮かべて気が重くなった。


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