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「廊下の奥の部屋って、遠くて大変ですよね」
「まあね。でも、出窓は日当たりが良くてお気に入りなの」
「セリアはいつもあそこに座ってるわ」
――今日からまた、クインス校での日々が始まる。
アンジェラは、正門で待ち合わせていたセリアとハンナと連れ立って、寮へと向かっていた。
ガルシア先生の口添えもあり、ハンナは元々3人部屋だったアンジェラの部屋に移ることとなった。彼女と生活を共にするのを、アンジェラは休暇の間心待ちにしていた。
再びこうして希望に満ちた新学期を迎えられるとは、以前は想像もできなかった。数ヶ月前は人目を避けるように歩いたこの道も、今は二人がそばにいる。
さらに、王立学院の一大行事である創立記念祝賀も間近だ。華やかな装いの生徒達が、会話や料理を楽しみ交流を深めるのだ。
(私も殿下と……なんてね)
「殿下って、オーウェン様のこと?」
突然耳に飛び込んできた声に、アンジェラは身を硬くした。明らかに、セリアのそれではなかった。
ぱっと寮までの短い階段から前庭を見渡すと、少し離れたベンチにジャネットと取り巻きが座っているのが見えた。
アンジェラの様子に気づいたセリアとハンナも、立ち止まりベンチの方に目を移した。
「そうに決まっているでしょ。最近は殿下がよく読まれる本と同じ作家が書いたものを読んでいるの」
「さすがジャネット様」
「題名は何と?」
「『月桂樹』よ。難しいところもあるけど、自分がだんだん賢くなっているのを感じるわ。すごいことよね。これから立場のあるお方と接する機会が増えても、きっと私を認めてくださるはず」
紐解いた冊数を指で数えられそうなジャネットが自慢げに腕を組むと、黙って聞いていたセリアはため息をついた。
「『月桂樹』って、確かこの国の言葉を学び始めた年に読んだわ。感想は人それぞれだけど、ね」
「どうして急に殿下がお好きな作家を……」
「妙です」
不可解な状況に、三人は首を傾げた。
違和感は、他にもあった。
夕食の時間、女帝の如く居丈高に振る舞うジャネット。
いつにも増して慇懃な彼女の取り巻きやルームメイト。
それを心なしか遠巻きにしてざわつく生徒。
奇妙な空気の漂う大食堂で、アンジェラはオーウェンの姿を目で探した。しかし、あの凛々しく高貴な姿を見つけ出すことはできなかった。
自室に戻ったアンジェラ達を、数人の友人が立て続けに訪ねた。休暇の話をしたり土産を渡しあったりと、いつもと変わらない和やかな時間が暫し流れた。
最後に訪れたガブリエラと入れ替わるように、扉がノックされた。息つく暇もなくセリアは出窓から下りて鍵を開けに行った。
「ミシェルじゃない。今日は何を知らせ」
「例の話、聞いた?耳の早い人は結構知っていたけど」
ミシェルは食い気味に尋ねたが、セリアは生憎、と言って首を横に振った。
「とんでもない話よ」
青天の霹靂とは、こういうことなのだろう。
それこそ雷に打たれたように動かなくなった頭で、アンジェラはぼんやりと考えた。
額を押さえようとしても、感触がない手が空を彷徨った。
オーウェンとジャネットが、近々婚約するらしい。
「まあね。でも、出窓は日当たりが良くてお気に入りなの」
「セリアはいつもあそこに座ってるわ」
――今日からまた、クインス校での日々が始まる。
アンジェラは、正門で待ち合わせていたセリアとハンナと連れ立って、寮へと向かっていた。
ガルシア先生の口添えもあり、ハンナは元々3人部屋だったアンジェラの部屋に移ることとなった。彼女と生活を共にするのを、アンジェラは休暇の間心待ちにしていた。
再びこうして希望に満ちた新学期を迎えられるとは、以前は想像もできなかった。数ヶ月前は人目を避けるように歩いたこの道も、今は二人がそばにいる。
さらに、王立学院の一大行事である創立記念祝賀も間近だ。華やかな装いの生徒達が、会話や料理を楽しみ交流を深めるのだ。
(私も殿下と……なんてね)
「殿下って、オーウェン様のこと?」
突然耳に飛び込んできた声に、アンジェラは身を硬くした。明らかに、セリアのそれではなかった。
ぱっと寮までの短い階段から前庭を見渡すと、少し離れたベンチにジャネットと取り巻きが座っているのが見えた。
アンジェラの様子に気づいたセリアとハンナも、立ち止まりベンチの方に目を移した。
「そうに決まっているでしょ。最近は殿下がよく読まれる本と同じ作家が書いたものを読んでいるの」
「さすがジャネット様」
「題名は何と?」
「『月桂樹』よ。難しいところもあるけど、自分がだんだん賢くなっているのを感じるわ。すごいことよね。これから立場のあるお方と接する機会が増えても、きっと私を認めてくださるはず」
紐解いた冊数を指で数えられそうなジャネットが自慢げに腕を組むと、黙って聞いていたセリアはため息をついた。
「『月桂樹』って、確かこの国の言葉を学び始めた年に読んだわ。感想は人それぞれだけど、ね」
「どうして急に殿下がお好きな作家を……」
「妙です」
不可解な状況に、三人は首を傾げた。
違和感は、他にもあった。
夕食の時間、女帝の如く居丈高に振る舞うジャネット。
いつにも増して慇懃な彼女の取り巻きやルームメイト。
それを心なしか遠巻きにしてざわつく生徒。
奇妙な空気の漂う大食堂で、アンジェラはオーウェンの姿を目で探した。しかし、あの凛々しく高貴な姿を見つけ出すことはできなかった。
自室に戻ったアンジェラ達を、数人の友人が立て続けに訪ねた。休暇の話をしたり土産を渡しあったりと、いつもと変わらない和やかな時間が暫し流れた。
最後に訪れたガブリエラと入れ替わるように、扉がノックされた。息つく暇もなくセリアは出窓から下りて鍵を開けに行った。
「ミシェルじゃない。今日は何を知らせ」
「例の話、聞いた?耳の早い人は結構知っていたけど」
ミシェルは食い気味に尋ねたが、セリアは生憎、と言って首を横に振った。
「とんでもない話よ」
青天の霹靂とは、こういうことなのだろう。
それこそ雷に打たれたように動かなくなった頭で、アンジェラはぼんやりと考えた。
額を押さえようとしても、感触がない手が空を彷徨った。
オーウェンとジャネットが、近々婚約するらしい。
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