抱いて愛して ｰ婚約破棄するなら条件がありますｰ

番外編 アルトの嫉妬

夕暮れ時、宮殿の庭園でアルトとエリスは静かに散歩していた。風が軽く吹き抜け、花々の香りが漂う中、二人は手を繋いで歩いていた。

突然、宮廷の騎士団の一人が現れ、エリスに声をかけた。「エリス様、お元気ですか？」

エリスは礼儀正しく応じたが、アルトの心には微かな不安がよぎった。その騎士団員は礼を終え、別の仕事に向かったが、アルトはその光景が頭から離れなかった。

「エリス、あの騎士団員、君に何か特別な感じがあると思わないか？」アルトは少し気になる様子で尋ねた。

エリスは笑顔でアルトを見上げ、「そんなことないですよ、アルト様。あの方はただの礼儀正しい方です。」

しかし、アルトの心は穏やかではなかった。彼はエリスの手を握りしめ、静かに歩きながら考え込んでいた。何かが彼を不安にさせ、心をかき乱していた。

数日後、宮廷の宴会が開かれた。多くの貴族や騎士たちが集まり、賑やかな雰囲気が広がっていた。アルトとエリスも招かれ、一緒に宴会を楽しんでいたが、アルトの心にはまたしても不安が渦巻いていた。

宴会の中で、再びその騎士団員がエリスの近くに現れた。彼は礼儀正しくエリスに近づき、何かを話し始めた。アルトは遠くからその光景を見ていたが、心の奥で疑念が募っていった。

「アルト様、どうかしましたか？」エリスが気づいて尋ねると、アルトは強い口調で答えた。「いや、何でもない。ただ、あの騎士団員が君に話しかけるのが気になるだけだ。」

エリスは驚いた表情でアルトを見つめたが、彼はその場を離れ、ひとりで宴会の端の方に立っていた。彼の心は複雑に絡み合い、嫉妬と不安が彼を苦しめた。

宴会が終わり、アルトとエリスは宮殿の庭園に出て、静かに散歩をした。しかし、アルトの気持ちはまだ晴れることはなかった。

「アルト様、本当に大丈夫ですか？あの騎士団員に嫉妬しているのですか？」エリスが心配そうに尋ねると、アルトは深い溜息をついた。

「すまない、エリス。君を見る誰かと話すのが、なんとも言えない気持ちにさせるんだ。僕は君を失いたくないんだ。」

エリスはアルトの手を握りしめ、「アルト様、あなた以外の誰とも関係はありません。私はあなたを愛しています。」彼女の言葉がアルトの心に響き、彼の不安が少しずつ解消されていくのを感じた。

「ありがとう、エリス。君と一緒にいることが、僕の全てだ。」アルトは深く頭を下げ、彼女に対する愛情を再確認した。

その後、二人は互いの手を取り合い、宮殿の庭園を静かに歩いていった。アルトの心は落ち着きを取り戻し、彼らの愛はさらに深まっていったのである。