冷血王子の心を温めて

もふきゅな

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王国アストリアの中心には、美しくも威厳ある王宮がそびえ立っていた。高くそびえる塔、広がる庭園、そして緻密な装飾が施された建築物の数々。だが、この華やかな宮殿にも冷たい陰りがあった。冷血無情と恐れられるアレクサンドル王子、その名を口にする者は少なかった。王国の民も、宮殿の使用人たちも、彼を避けるようにしていた。

エレナ姫は、宮殿の一室で物思いにふけっていた。彼女はアレクサンドル王子との婚約が決まったことに心を揺らしていた。アレクサンドルは王国を統治するための冷静さと決断力を持つと同時に、その冷酷さで知られていた。彼の決断はいつも厳しく、感情を一切見せないその姿勢に、エレナも不安を感じていた。

エレナは、王国の未来を思い、父王の決定を尊重することに決めた。王国の名誉を守るために、自らの感情を抑え、婚約を受け入れる覚悟を決めたのだ。だが、心の奥底では、彼との未来がどのようなものになるのか、未知の恐怖が彼女を苛んでいた。

彼女が初めてアレクサンドルと対面したのは、豪華な舞踏会の席だった。王国の貴族や外交官が集うその場で、エレナは華やかなドレスに身を包み、社交の場に立っていた。彼女の美しさは誰もが認めるところであり、その優雅な振る舞いには一片の隙もなかった。

アレクサンドルは、その夜も冷ややかな眼差しを隠すことなく、舞踏会に現れた。彼の姿を見た瞬間、エレナの心臓は一瞬止まったかのようだった。高身長で、整った顔立ち。だが、その鋭い眼光と冷たい雰囲気は、彼の冷血さを物語っていた。

彼がエレナに歩み寄ると、周囲の喧騒が一瞬静まり返った。誰もがその二人に注目し、息をのんだ。

「エレナ姫、初めまして」と、アレクサンドルは冷静な声で言った。

「アレクサンドル様、こちらこそ」と、エレナも微笑みながら応じた。その微笑みには、一抹の緊張が混じっていたが、彼女はそれを見せまいと努めた。

「この度の婚約、お受けいただき感謝します」と彼は続けた。その言葉には感情の色がなく、ただ形式的に述べられたものであることがエレナにはわかった。

「私も王国の未来のため、全力を尽くす覚悟です」とエレナは答えた。その言葉には、彼女の真摯な思いが込められていた。

その後、二人は形式的な会話を交わし、周囲の貴族たちから祝福の言葉を受けた。だが、その場の空気はどこか冷たく、エレナの心は不安でいっぱいだった。

数日後、エレナは宮殿の庭園を散策していた。美しい花々が咲き誇るその場所は、彼女にとって唯一心の安らぐ場所だった。彼女は一輪の花を摘み、じっと見つめた。その花は、彼女の心の中にある小さな希望を象徴しているかのようだった。

その時、背後から足音が聞こえた。振り返ると、そこにはアレクサンドルが立っていた。彼の冷たい眼差しがエレナに向けられた。

「エレナ姫、何をしているのですか?」と、彼は冷たい声で尋ねた。

「花を摘んでいました」とエレナは小さな声で答えた。

「無駄なことです」と彼は言った。「その花はすぐに枯れます。そんなものに時間を費やすのは無意味です。」

エレナは返答できず、ただ彼の顔を見つめていた。彼の言葉には厳しさがあったが、その一瞬、彼の表情に微かな柔らかさを見た気がした。だが、それはすぐに消え去り、再び冷たい仮面が彼の顔を覆った。

その夜、エレナは自分の部屋で手紙を書いていた。彼女はアレクサンドルの冷酷さの裏に何か別のものが隠されていると感じていた。もしかしたら、彼も孤独を感じているのではないかと考えたのだ。彼女の心には、彼の心を解きほぐし、真の彼を見つけたいという強い願いが芽生えていた。

エレナは決意した。彼の冷たい心の奥に眠る温かい感情を引き出すために、自分の愛と優しさを惜しみなく注ごうと。彼女の努力が実を結ぶことを信じて、彼の心に触れるための小さな一歩を踏み出したのだった。
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