あの音になりたい！ 北浜高校吹奏楽部へようこそ！

第六楽章 北浜高校の夏合宿

歯車②

課題曲も終わり栗原先生は
すぐさま自由曲に入る。

そして小林のソロ｡

落ち着け｡できる｡
大丈夫だ、｡だけど手が震える。
緊張。いや、なんだろうこの感じ｡
それはあのオーディションのせいだ。

期待の眼差し｡信頼の眼差し｡
そしてなぜ野末先輩
じゃなくてお前なんだの眼差し。
吹けるのかの眼差し｡
沢山の眼差しはあるに決まっている。


孤独。ソロは孤独だ。
今までこんなこと感じなかった。
真っ暗な部屋にいる感じ。

　俺は真っ直ぐ栗本先生だけを見てればいいんだよ。

小林は栗本先生の指揮に合わせて演奏する。

ゆったりとしたフレーズ、
恐ろしく静かな空間の中｡
1人吹き続ける。まるで野原にポツンと残された中、たった1人で演奏する。

「いい音だ。」志柿先生は呟く。

「ん？ホルンの子なんで悔しそうなんだろう？」

「ん？ええ？なんで雨宮くん怒ってんの。」

その音は雨宮を悔しい感情にさせる。
まだ追いつけない。その音は。

すると高くどこまでも伸びていくような
アルトサックスの音が入っていく。

華々しい怖いもの知らずの音が全体の
小林を喰らう。

「、、｡？！」

まるで得体の知れない怪物のような音が
耳に入る。
小林の音と対照的な音｡
荒削り、センスの塊。
それはあの屋上で聞いた音が｡

　つくづく思うよ。
　同じチームでよかったって。

「あの子一体何者？」

志柿先生は驚く｡

「なんかアメリカ帰りらしいですよ。」

「なるほど｡中学は吹部？」

「いやぁ出てなかったみたいですよ。」

「ほぉ、｡何でも染まりそうだね。」

「ん？」


それに続き木管と金管とパーカッションがそれに続いていく。ゆっくり流れていた曲にリズムを刻むパーカッション｡

トランペットの高いファンファーレが響く。



その瞬間、ティンパニーの激しいロールが
刹那を切り裂く｡

雨宮と篠宮は2人はホルンで高く吠える｡
それに続き他の楽器も続く｡

　負けるか｡

フルートもクラリネットもそれに追い掛けるように続く。

激しさを増し栗本先生の指揮もアップテンポになる。メロディーを力強く押し上げる｡

そして中日吹で吹けなかったところ｡

　ついていく｡篠宮先輩に。ただそれだけ。

吹いてる一年生と先輩たちを後ろから見守る。

一年生もついていく。5日間しんどかった。
けど体力も限界にきてる。
けどここまできたら最後まで乗り越えたい。


そしてトロンボーンのグリッサンド｡
懸命に追いかける。

全てを巻き込みクレッシェンドして
栗本先生の指揮が振り上げられた｡

曲が最後に向かう｡
これで終わる｡

最後まで気を抜かない。全員楽器を栗本先生を見る｡腹筋に力を入れて栗本先生の顔から汗が吹き出す。

全ての力を込めて曲が終わった｡