幼馴染はファイターパイロット(アルファ版)

第一部

第十五話 策士

私は翔太が絶対に策士だと、つくづく実感した…。

それは、午後から行われた個人戦で、殆どの相手にポイントを取られる事なく見事に個人戦優勝を果たしてしまったからだ。

「ノーポイントじゃないのが、悔しい。」

とは個人戦後の翔太の言い分だけど、彼女目線の贔屓目で考えても良く勝てて準優勝止まり？だと思っていたから、まさかの優勝が決まった瞬間、へなへなと応援席に座り込んでしまった私だった…。

翔太を甘く見くびってた…、と反省した瞬間だった。


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－ side 翔太 –

団体戦が終わった後の昼メシの時間に、千賀一佐に教えてもらっていた秘密の場所に優香を連れて行った。
団体戦の時の手応えで、この大会の個人戦では優勝出来るような気がした俺は、優香に、個人戦で優勝したらお泊まりデートしてくれるか？と持ちかけた。
優香は、最初俺が何を言っているのか？と言った感じで驚きを隠せなかった様子だが、個人優勝したら、『団体戦と合わせて２冠のお祝い』だと言って、お泊まりデートを約束させることに成功した俺。下心が全くないわけでは無いが、それよりも少しでも優香と一緒に居たい…、それだけの思いで提案した。
俄然やる気になった俺は、優香の応援の甲斐もあって個人戦で無事に優勝する事が出来た。
優勝が決まった瞬間、応援席に居る優香の方を見るとへなへなと応援席のベンチに座り込んでいるのが見えた。
気分でも悪くなったのか？
心配で気が気じゃないが、試合後の礼や表彰式などで、直ぐに優香の側に行ってやれなかった俺は、主将の長野先輩にお願いして、優香の様子を見に行ってもらった。
優香の側に、長野主将が行き、２、３言話した後に、俺に向かってOKのサインを送って来た。
気分が悪かったわけでは無いのが解って、ホッとしたが、どうしたのかが気になって仕方がなかった俺…。
表彰式の準備の間に、長野主将が俺の所にやって来て、

「お前が優勝して、ホッとしたのと本当に優勝するとは思わなかったらしくて、気が抜けたんだとよ。」

と、こっそり教えてくれた。

優香のヤツ、俺のことみくびってたのか…

そう思うと、少しいじらしく思えて来た。
団体戦と個人戦の表彰式が終わり、個人戦で貰った優勝のメダルを掛けたまま応援席に速攻で向かった。
優香の元に行き、

「約束、守ったからな。」

と言い、首からメダルを外し優香の首に掛けてやった。
そして、2人並んで応援席に座って寄り添ったツーショット写メの自撮りをした。
俺のドックタグと共に、掛けてやったメダルをぎゅっと握りしめた優香は、

「おめでとう。本当に優勝すると思わなかった…。」

俯いて呟いた。
ポトリと、制服のスカートに雫が落ちてスカートの生地に雫が吸い込まれて行った。

「優香？」

優香の前にしゃがみ込んで、優香の顔を覗き込めば、目に一杯涙を潤ませていた。
人目を偲ぶことなく、優香をギュっと抱きしめて、

「そんなに喜んでもらえたなら、頑張った甲斐があるよ。応援ありがとな、優香。」

と言うと、周りにいた部員たちが囃し立て出した。
うるさい奴等はほっといて、抱きしめたまま優香の背中をトントンと優しく子供をあやす様に叩いて、

「落ち着いた？」

と聞けば、優香は、俯いたまま、すんっと鼻をすすりポケットからハンカチを取り出して涙を拭おうとした。
すかさず、ハンカチを取り上げ、優香の涙を拭いてやった俺。

「涙くらい、自分で拭けるよ…」

って、優香はか細く呟いたけど、

「彼氏の仕事、取らないで欲しいね。正直、泣かせるつもりは全く無かったんだけどな…。優香、笑って喜んでよ。」

と伝えれば、優香の涙は引っ込み、笑顔が戻って来た。
長野主将がこちらを見て、何か言いたげな表情をしているのが目に入った。

「優香、ちょっとだけ待っててな。締めの挨拶行ってくるから。」

と伝え、ハンカチを渡してから優香から離れ、部員達の待つ輪に戻ると、長野主将が、

「今日は、みんなお疲れだった！団体、個人と優勝出来て最高な1日だった。俺を含めて3年生は県大会まで引退は伸びた訳だが、受験勉強も手を抜くことない様に！それと、恒例だが3年生は一応今日をもって、部の指揮権を2年生に移管する。次期主将、柘植！副主将、菅谷、影山！明日からの指示は、お前達が出せ。いいな！」

と言った。
数日前に、俺、菅谷、影山の3人は3年の主将、副主将に部活終わりに呼び出されて事前に打診されてはいたが、改めて部員全員の前で公式に発表された。

「はい！」

3人揃って返事をした。
自然に円陣が組まれ、長野主将から、

「柘植、新主将から一言。」

と言われた俺。

「今日の勢いを保って県大会も優勝目指すぞ！」

主将を含めた3年の先輩にとっての最後の大舞台となる県大会への抱負を一言に添えた俺。
それに対して、部員達からの

「おー！」

と言う、気合の入った掛け声がフロアに響いた。

円陣を解いた俺は、次期副主将の２人と一緒に主将を含めた3年の先輩達と幾つか今後の打ち合わせについて確認をする為に少し離れた所で話をした後、菅谷と影山の３人だけで手短な打ち合わせをした。