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乱れきっていた王宮 アルベルト視点
しおりを挟むイヴァン達がリンカの尋問をしていた時、俺やロジーニ、フェデリカ様、ジーノ様、それぞれの専属護衛のゾルジやレオなどで、手分けして王宮中の人間にさりげなく妃殿下の評判を聞いていた。
過剰に褒めている者、異常に心酔している者を割り出していった。
女性も多いが、男性、特に警備隊、若い文官職員は数えきれないほどで、重鎮の大臣にも数人いた。
“妃殿下の美しさは女神のようだ”
“妃殿下以外の女性など目に入りません”
こんな気持ち悪い言い方をする奴らは片っ端から拘束した。
おそらく肉体関係があった者達であろう事は明白だった。
王太子妃と不貞を犯すなど、不敬罪の何ものでもない。
このような者は二十数名いた。
これほどの男と関係していたのかと呆れたと同時に、吐き気がした。
逆に、褒めるが、
“妃殿下は素晴らしいですが、少し距離が近過ぎるのはどうかと。”
“妃殿下はお美しいですが、執務をきちんとなされない事は嘆かわしいと思っておりました。”
と、妃殿下の魅了に抗っていたであろう者達は大多数であった。
そういった人達にはローズ様の魔石を渡し、魅了を解除していった。
結局、一日中城の中の人間と話して、リンカと不貞行為をしていた者、ファビオの噂を流していた者、ファビオと侯爵邸との連絡を妨害していた者を割り出せた。
こんなにもいたのかと驚いたが、それに気付かなかった自分にも落胆した。
俺も魅了されていた一人だが、ファビオやパウロのように全く魅了されなかった者もいるのは確かなのだ。
次期宰相と言われているが、何か変だと思いつつも何もせず放っていた自分は、宰相になる資格なんてないのではないかと思った。
自分が情けなくて仕方なかった。
リンカのハンカチを何故持ち続けていたのだろう。
多分、幼い時の可愛らしかったリンカを知っていたからだと思う。
幼馴染みとしてリンカを好いていたのだろう、だから俺もイヴァンもロジーニもすんなり言う事を聞いてしまった。
異性として好きだったら俺もリンカを抱いていたのかと思ったら、本気で吐きそうになった。
子供の時は無邪気なリンカを妹のように思っていたが、中等部辺りから何か大人の女のような変な色香を漂わせ始めた。
だから極力近付かないようにしていても、イヴァンの婚約者となったリンカを遠ざける事は出来なかった。
俺も思春期に入り、女性の身体に興味が出始めた頃と重なり、リンカの魅了にハマったのだろう。
頭を項垂れさせた俺は、拘束された者達が集められた夜会などで使われる大ホールに向かった。
そこには陛下、王妃様、イヴァン、フェデリカ様、ジーノ様、ロジーニがいた。
そして事情を知ってるウルーシ、ロレン、ゾルジ、レオ、パウロは拘束された者達を囲うように立っていた。
ファビオはローラ殿の元に向かったそうだ。
そして全員が揃ったところで陛下が話し始めた。
「ここに集められた其方達は全て罪人だ。
その理由は分かるはずだが、分からん奴はおるか?
不敬には問わん、分からん者は言うてみよ。」
恐る恐る手を挙げたリンカの専属メイドの女は、
「わ、私は何もしておりません、何故ここにいるのか分かりません。」
「私が代わりに話しましょう」
聞き取りをした俺がさっき聞いた話しをした。
「済まない、少し話しを聞きたいのだが、良いだろうか?」
「は、はい。」
突然話しかけられ驚いたようだが、俺だと分かると頬を染めて承諾した。
「妃殿下の事を聞きたいのだが、君は妃殿下専属メイドで間違いないかい?」
「はい。私はリンカ様が王太子妃になる前から専属メイドをさせて頂いています。
リンカ様はとてもお優しいし、お美しいお方です。
メイドの私にでもハンカチやお菓子など分け与えてくれる理想の王太子妃様です。」
「・・・そう。じゃあ特別可愛がられてるなら、何か妃殿下に秘密の頼み事とかされる事もあったのかい?」
「はい!あ、頼まれごとというか、内緒よって言ってファビオ様と王女様との密会を教えて下さいました。
庭園で抱き合っていたのを見たのだそうです。
妃殿下はそれはそれは心を痛めて泣いておりました。
ファビオ様は結婚なさったばかりなのに奥様が可哀想だと美しい瞳に涙を溜めて私に言いました。
“このままでは誰も幸せにはならないわ。あの二人を一刻も早く別れさせないと。だからあの二人の噂を流してちょうだい。
そうすれば距離を取ると思うのよ。
だからお願い、あの二人が別れるように噂を流して”とおっしゃいました。
なので私は会う人会う人にお二人の事を話しました。
ああ、なんてお優しい方なのでしょう~!」
俺が話し終わるとメイドは、
「そ、それは妃殿下に言われて・・・。」
「そのような事実はない。
フェデリカが護衛も付けず出歩く事もないし、ファビオは私の命で隣国に言っておった。
いない者とどうやって抱き合うのだ?
どうやってその姿を見るのだ?」
「ひ、妃殿下がそう仰って・・・」
「王女のフェデリカを貶めた事を分かっておるのか?
これは立派な不敬罪だ。
そして同じように根拠のない噂を広めた者も
同じ理由でここに集められたのだ。」
噂を喜んで広めた者達は、真っ青な顔で震えている。
「わ、私は噂など広めておりません!」
手を挙げそう言った近衛隊の騎士は“自分は関係ない”と言いたげな顔だ。
「私がその者から聞いた話しを説明致します。」
今度はパウロが話し始めた。
「バンカー、少し妃殿下の事で聞きたいのだがいいか?」
「はい、何でしょうか?」
「バンカーは妃殿下付きの護衛をやっていて何か困った事とかはないか?」
「困った事ですか?困ってはいません。
私は妃殿下の側にいれることを誇りに思っておりますから。
一日中付いていても良いくらいです!」
「一日は無理だろう。バンカーは夜の当番だろ、夜はドアの前に立っているだけだから辛いだろう?」
「いえ、妃殿下はお優しいので交代で俺達を部屋で休ませてくれますので・・・。」
「へえ~昼間はそんな事しないのにな。
部屋では何を?」
「お茶を飲んだり、お菓子を食べさせてもらったりです。
妃殿下はとても可愛らしい方で、時折私の口元に付いたクリームを舐めてくれたりします。
頬を赤らめる顔はとても可愛らしいのです。」
「ふぅ~ん、結構際どい事もしてるんじゃないの?羨ましいな。」
「副隊長も妃殿下を狙ってるんですか?
ライバルが多いなあ~。
気に入られたら寝室に入れてくれますよ!
俺も最近やっと入れてもらえるようになりました。内緒ですよ。」
「それは羨ましいな。寝室では何を?」
「寝室でやる事なんて一つしかないじゃないですか~。
妃殿下、積極的なんですよ。
俺のを口でしゃぶってくれるんです…すっげぇ気持ち良いんですよ~、でも挿れてはないですよ!さすがに妃殿下とはヤれないですから。」
パウロの話しが終わった近衛騎士は、
「わ、わ、私は・・・」
それ以上は言えないのか、顔を真っ青にし口をパクパクさせて震えていた。
「さっきも言ったが、立派な不敬罪だ。
そして同じくここにいる者の中にもいる。
そして一番多いのがリンカと不貞した者だ。
お前達は王太子の妻を抱いたということが、どれほどの大罪なのか分かっておるのか!
イヴァンの世継ぎを産むリンカに、孕ますような行為をするということは、国家反逆罪転覆罪となる事も分からんのか!
自分の子種をリンカの腹に種付け、国を乗っ取ろうと企んでいると言われても文句など言えん所業だぞ!
そのような者がこんなにもおったとは…。」
「そして噂にも不貞にも関係ないという顔をしている者ども。
ここに集められたという事は、それ以外の許されない罪を犯したからだともう分かっておろう。
長くなるから私が言おう。
残った者どもは、ファビオとファビオの屋敷の者との連絡を取れないよう工作した者どもだ!
ダンゼン伯爵の邪魔もしたな!
時には力でファビオの奥方や執事を追っ払ったそうじゃないか⁉︎
お前達のした事は、威力業務妨害、偽計業務妨害、立派な犯罪行為だ!
そのせいでファビオの奥方は大怪我を負った。
ついでに殺人未遂の共犯もつけてやる!
分かったか!」
澄ました顔をしていた奴らも顔色を変えて震え出した。
不貞を犯した奴等は地下牢、その他の奴等は一般牢に放り込んだ。
クタクタだったが、俺達はジョージを捕まえる為にオルドニ公爵邸に向かった。
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