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王妃の拳
しおりを挟む「あら、珍しい組み合わせね。どうしたの、フェデリカ、ファビオ。
フェデリカは謹慎中ではなくて?」
「お母様に至急ご報告したい事がございます。先ずはこれを。
こちらは隣国の聖女様のご令孫様が刺繍なさったハンカチでございます。
お守りとしてどうぞお使い下さい。
侍女のスーザンにもございます。」
「まあ!聖女様の⁉︎素敵な刺繍ね。」
と王妃様はハンカチを手に取ると、
「・・・・・・・・あら…」
「お母様?何か変わりましたか?」
「フェデリカ⁉︎これは何⁉︎あーなんて事なの・・・私はなんて事を…」
「お母様、正気になられましたか?」
「ええ、ええ、頭の靄が晴れました。あの子とお茶を飲んだ日からずっと遠くから自分を見ていた感じなのよ。
自分なのに思ってもいない事を口にしているの…。それにあの子はドナルドにまで・・・それを私は・・・笑って許していたのよ・・。」
「お母様、リンカ様とお父様は肉体関係があると思ってよろしいのですか?」
「ええ、夜になるとこっそりドナルドの自室に来るのよ…それを私は許していたの・・・なんて事を…息子の嫁なのに…」
「お母様、お父様にこのハンカチをお渡し下さい。まだ間に合います。
どうかお母様のお力でお父様をお救い下さい。」
「・・・泣いていては駄目ね、さあ、フェデリカ、何があったのか説明なさい。」
フェデリカ様が妃殿下と初めて会った時の不快感から先程の陛下の愚行までを説明した。
長い、長い時間だった。
黙って最後まで聞いた王妃バーバラ様は、
「フェデリカ、今までたった一人でよく耐えました。
ごめんなさいね、これからは私がいます。
安心なさい。
でも、どうして貴方はこの魅了に耐えられたの?」
「たまたまファビオの奥様になられたローラ様にハンカチを頂いた事があったのです。
リンカ様に会ったばかりのお茶会でリンカ様に態と、当時5歳の私に7歳のリンカ様はお茶をかけたのです。
その時、ローラ様がハンカチで私のドレスを拭いてくれたのです。
そのハンカチの刺繍がとても美しくてそのことを伝えたら新しいハンカチを下さったのです。
とてもお優しいローラ様を私は忘れた事はありません。
ローラ様はお祖母様に頂いたのだと言っておられました。当時の私は聖女様の存在を知りませんでしたが、とても大事にそのハンカチを持っていたのです。
後にローラ様のお祖母様が聖女様だと知りました。
それから私はそのハンカチをお守りとして大事にしてきました。
ローラ様にお会いしていなかったら今、私はこうしてはおりませんでした。」
「そう、そんな事が…。
そのローラ様はファビオの奥様なのね。
新婚なのにローラ様に寂しい思いをさせてしまっているのね…ごめんなさいね、ファビオ。
こんな事さっさと終わらせます!
先ずは反撃する為に邪魔なドナルドを排除するわ!
今のままでは何をされるか分からないもの!
さあ、皆んな行くわよ!」
今度はバーバラ様を先頭に陛下の元へ向かった。
入り口の護衛が止めるのも聞かず、
バ──────ン!とノックもせず、陛下の執務室のドアを開けると、
「ドナルド───!」と言ってハンカチを顔にバチンと押し付けた。
「バーバラ、何をする⁉︎」
「ファビオ!」の呼びかけに自分が持っているハンカチも押し付けた。
フェデリカ様も。
暴れていた陛下が動かなくなった。
椅子に座ったまま俺達にハンカチを押しつけられたまま、静かに嗚咽を漏らした。
三人はハンカチを外すと、
「あんな事したくなかった・・・あんな女となどやりたくなどなかった・・・イヴァンを殴りたくなどなかった・・・でも抗えなかった…。
済まない…バーバラ…お前の目の前で私は…」
「やってしまった事はもうどうしようもないわ、ドナルド。
今はリンカをなんとかしないと!その為にここに来たのだから。」
そして、フェデリカ様がまた説明し、俺も途中で媚薬の件と先程のイヴァン様の言葉を話した。
「ハア────本当に情けない。恐らく早い段階で我らはリンカにしてやられておったのだな…。
バーバラを裏切り、息子を殴り、娘の話しを聞きもしない…聞けば聞くほど酷い有様の己が許せない・・・。
誰かイヴァンを呼んできて欲しい。
イヴァンに合わせる顔もないが、父として息子に謝りたい。」
フェデリカ様と俺がイヴァン様を呼び行こうとすると、
「私が行くわ。フェデリカとファビオが二人でいるのは余り良くないわ。
ファビオは私に付いてきてくれる?」
「御意」
バーバラ様の少し後ろを歩いていると、
「ファビオ、貴方はリンカの魅了には一度もかからなかったのよね?」
「はい。私は会った瞬間苦手だと思いましたから。恐らくローラのハンカチを持っていたからだと思います。」
「奥様とはいつからのお付き合いなの?」
「幼馴染みなのです。ですから子供の時からの付き合いになります。」
「まあ!初恋の方と結婚したのね!素敵ねぇ~。私とドナルドは子供の時に婚約したけれど、熱烈な恋愛で結婚したわけではなかったから、隙があったのかしらね…。
ローラ様を大事にしてね。」
「はい。私はローラを愛しておりますから。」
「フフ、早くこんな事終わらせてローラ様の所へ帰ってあげてね。」
「はい、正直早く帰りたいです・・・」
「私も頑張るから、ファビオももう少し手伝ってね!」
「はい!」
こんなに王妃様と話した事はなかった。
イヴァン様もフェデリカ様も聡明で優秀な方々だ。ジーノ様とはまだあまり関わってはいないが、きっとお二人と同じで優秀なのだろうな。
あんなハンカチさえ・・・・・・
「あ!」
「キャッ⁉︎何、ファビオ⁉︎」
「ハンカチです!陛下のハンカチ、取りました?」
「あ!」
二人で人目も気にせず走って陛下の執務室へ戻り、陛下から妃殿下から貰ったハンカチを回収し、ついでにバーバラ様が持っていたハンカチも回収した。
「「「「ハア─────」」」」
「危なかったわ、またドナルドがおかしくなるところだったわ。」
「お前達が駆け込んできた時は心臓が止まるかと思ったぞ!」
「そうですわ、まさかお母様が走ってくるなんて…。」
ハハハと笑って誤魔化し、再び王妃様とイヴァン様を呼びに行き、執務室で頬を腫らした息子を見た王妃様が激怒して、イヴァン様を連れて再び走って戻ると、思いっきり陛下に拳で頬を殴った。
「貴方は!貴方は、息子を拳で殴ったのですね!これはイヴァンの分です!
こんなに王太子の顔を腫らすなど、私は許しませんよ!」
と肩で息をしながらも綺麗なパンチを繰り出した王妃は、とてもカッコよかった。
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