一番悪いのは誰

jun

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気持ち悪さの正体

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結局、媚薬を盛ったのはアンナだった。
アンナのポケットに媚薬が入った瓶が入っていたのを発見し捕縛した。
その際のアンナが、
「私はリンカ様の為にやっただけです。
リンカ様が望んでいらっしゃったからリンカ様がお喜びになると思い、やっただけです。」
とキッパリ言っていたが、妃殿下が指示したわけではなかった。

「私はただ、ファビオがずっと私の側にいてくれたら良いのにと言っただけなのに・・・」
とシクシク泣いているのを、イヴァン様が慰めていた。
ヤバイ、短期間での妃殿下専属ではなく、ずっと妃殿下専属にってイヴァン様が言ってしまいそうだと思って焦ったが、

「リンカ、ファビオは私の側近なのだ。
リンカの頼みでもそれだけは譲れない、済まない…。」

と言って下さった…助かった…。

溺愛しているようで、イヴァン様は何故か俺の事だけは妃殿下が何を言っても、離さなかった。
今回のように命の危険があったから俺を妃殿下の護衛にしたが、本心は俺を妃殿下の近くには置きたくなかったのだろう。
それが嫉妬心からなのか何なのかは分からないが。
イヴァン様の妃殿下に対する態度がチグハグな時の違和感の正体がハッキリしなくてモヤモヤする。
溺愛しているのに、甘やかしはしない。
それが普通なのだろうが、何かが引っかかる。

「では、パウロを私に付けて下さいませ。
ファビオとパウロを私の護衛にして欲しいです。
信頼していたアンナが捕まってしまって私、怖くてたまらないの…」

俺はギョッとした。
隊長の俺と副隊長のパウロが二人とも護衛についてしまったら執務が滞る。
何を考えているのだろう、妃殿下は!

「それは出来ないよ、隊長と副隊長二人もリンカには付けられない、それは分かるだろう?警備隊から一人付けるからそれで良いかい?」

「・・・・・分かったわ…。それにファビオが私に付きっきりなのも申し訳ないわ、パウロと交代しながらなら執務にも問題ないでしょ?」

「そうだな、じゃあパウロにも声をかける。
ファビオ、それでも構わないか?」

「私は助かりますが、宜しいのですか?」

「ああ、リンカがそう言っているのだから問題ない。ファビオはパウロと交代しながら護衛をしてくれ。
リンカの新しい侍女はすぐこちらに寄越す。
母上の侍女を一人回してもらう。」

そう言って、イヴァン様は出て行った。

残された俺は、この人と二人きりなのは大問題だと思い、

「妃殿下、新しい侍女が来るまでウルーシを中に入れます。」
と言い、すぐドアの外のウルーシに声をかけようとすると、

「待って!もう少しファビオと二人だけで話したいのだけれど…」

「話しはお聞きしますが、ウルーシを入れてからお聞きします。
有らぬ誤解を与えてしまいますからご了承お願い致します。」
と言い、速攻ドアを開けウルーシを引き込んだ。

「もう!ファビオはいつもそうね。私はファビオとだけお喋りしたかったのに!」
と気持ち悪い事を言っていたが無視した。

体調が悪くなったので休むと妃殿下が寝室へ入ると、
「ハア────、やっと息ができます…」

「何?息を止めてたのか⁉︎」

「はい、ここの空気、悪いので。少し換気しましょう」
と言い、窓を開け外気を入れた。
すると、確かに空気が変わった。

「あれ?なんか空気変わったな。」と言うと、
「本当に隊長は鈍いんですね~ここ、なんか邪悪な感じが半端ないじゃないですか!
こんな所に一日中いられる隊長を尊敬しますよ。」

「何かお香でも炊いてるのか…でも香炉なんてないよな?」

「お香じゃないですよ!妃殿下から湧き出てるんです。あの人が通った後は必ずこんな感じなんですから!」

「体臭?」

「んなわけないじゃないですか⁉︎何か香水か何かじゃないですか?趣味が悪い・・・。
でも前はその香りが嫌いじゃなかったのに突然嫌悪感が沸いたんですよね…。
隊員のほとんどが突然感じたって知ってました?」

「知らなかった…。俺は初めて会った時から妃殿下が苦手だった。免疫ついたんじゃないか、俺は。」

「え⁉︎会った時から⁉︎妃殿下って異常に人気あったのに?まあ、隊長はローラ様一筋でしたからね。」

「ちなみにその嫌悪感はいつからか分かるか?」

「いつだったかな・・・徐々に“俺も俺も”って感じだったからハッキリとは…」

「そうか…。ちなみにウルーシもローラが配ったハンカチって持ってるか?」

「今も持ってます。このハンカチ持ってるとここにいてもなんとか耐えられるんですよ!
なんか浄化してくれる感じ?
だからそのハンカチは使わないでお守り代わりに毎日持ってます!」

「ロレンも?」

「はい。ロレンは気持ち悪くなるとそのハンカチを鼻に当ててます。」

「パウロに毎日持ってろって言われたか?」

「あ、言われた!」

「いつ?」

「最近言われました。毎日必ず持てって。ま、言われる前から持ってたんですけどね。」

「じゃあ残りの隊員も持ってるんだな?」

「多分…失くしてなかったら持ってるんじゃないですか?」

「・・・パウロが来たら確認しよう。持っていない隊員がいたら教えてくれ。」

「はい…隊長、やっぱ何かあるんですか?
何かここ、おかしくないですか?」

「おかしいとは?」

「うーん、なんというか不穏?というか疑心暗鬼?みたいな。
お互いを敵なのか味方なのか見極めてる感じ。探り合ってる感じかな。」

「確かに。特にここは酷いな。俺は結婚式があったから最近は分からなかったが、何か少しずつ澱んでいってたな、ここの空気。」

「一回、ちゃんと調べた方が良いですよ。
ここは本宮とは明らかに空気が違いますから。」

そう言われてみればそうだ。
本宮に行くとやっと呼吸が出来る感じがしてた。

イヴァン様も本宮の執務室にいる時は、妃殿下に対してもここにいる時とは少し態度が違う。

「ここが変なのか?妃殿下がいるから変なのか?」

「どっちもじゃないですか?とにかく何か変です。新しく来る侍女がまたおかしくなったら、この王太子宮は明らかに何かあるって事ですよ。」

ローラに貰ったハンカチを持ってる隊員は妃殿下に対して嫌悪感を持っている・・・。

浄化…してるなら…

考えられるのは・・・“魅了”。

昔からたまに使われる禁術。
魔道具だったり、魅了を生まれ持つ人間が現れたりと、どんなに対策していても不意に現れるその禁術は、聖女の浄化でしか解除出来ない。
だから王族は生まれた時から魅了対策で、何かしらの防具をつけている。
指輪だったりネックレス、イヤリング、腕輪など常に付けているはずだ。
イヴァン様も見えていないだけで付けているはずなのに魅了にかかったのか?
それとも外されたのか?
だが、刺繍が見事だから欲しいと言うからローラのハンカチを一枚渡したはずだ。
でも毎日は持っていないだろう。
執務室の机の引き出しに入れているのか…。
だからあそこでは普通なのか。

俺はずっとローラといたし、ハンカチも毎日持っていた。
だから妃殿下の魅了が効かなかった。
異常に俺に執着するのは“魅了”が効かないからか。

パウロは気付いていたのか…。
と言う事はフェデリカ様も気付いていたのか。

フェデリカ様は言っていた、敵が多いと。

魅了はどこまで広がっている?
おそらく近衛隊の中にも数人魅了にかかった者がいるだろう。
侍女は?メイドは?使用人は誰が魅了にかかっている?

陛下は?
王妃は?

とにかくフェデリカ様と話しをしなければ。

このままではこの国が終わってしまう。
この時初めて事の重大さに気付いた。

顔から血の気が引いた時、パウロが来た。

「パウロ…済まない…隊長として失格だ…。
パウロは気付いていたんだな、魅了に。」

「隊長やっと気付いたんですね。隊長はあまりにも無防備なのに平気で妃殿下の近くにいるのでどっち側なのかイマイチ自信がなかったんですよ。
だったらすぐフェデリカ様の所へ行ってください。」

パウロと交代し、俺はフェデリカ様のいる後宮へと走った。















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