貴方だったと分かっても

jun

文字の大きさ
上 下
15 / 31

堕ちた幼馴染み

しおりを挟む


ヘルマン視点


一度目が覚めたダニエレは、レイチェル姫の事を聞いた後、意識をなくした。
それから目覚めてはいない。
医者の話しでは、薬の影響も多少あるだろうがショックの方が大きかったのだろうと説明された。

そしてサンドラの方は、スッキリした顔をしているらしい。
身体は一日安静にしていたら問題はないらしいので、今日はもう動けているだろう。

サンドラからしたら最後だからとの想いでした事なんだろう。
それなりの覚悟もあってした事なのも分かる。
幼い時からダニエレを慕っていたのは知っている。
ダニエレは妹のようにしか想っていなくても、必死に努力し漸く手に入れた婚約者の立場をたった一日で失くしてしまったサンドラの気持ちを思えば理解出来ない事でもない。
しかし王族への薬物使用、そして万が一レイチェル姫が亡くなったりしたら外交問題にもなる。
サンドラ一人だけの問題ではなくなる。
ダニエレと俺で何度も説明した。
ダニエレへの接触は止めろと何度も何度も説明した。

だからこそ媚薬を使ったんだと確信している。
最後だからとも思っただろうが、レイチェル姫に対する憎悪が大半だ。

最後にサンドラに会った時、ダニエレが急に額に触れた後、唇を噛みすぎ血を流した。
俺とサンドラは何が起きたのか分かった。
きっとレイチェル姫が誰か、兄上か婚約者にキスされ、そして抱きしめられているんだろう。
その様子をサンドラはジッと見ていた。
そして理解したんだろう、番が異性にどう触られたら不快に思うのか。
だからどうすれば一番効果的に遠くにいる憎い相手に攻撃出来るのかサンドラは知ってしまった。

俺がたまたまダニエレの側にいなかった日、偶然にもサンドラはその日に実行した。

俺さえ側にいれば止められたのに…。
俺が早くダニエレに伝えておけば二人きりで会う事はしなかっただろう。
ダニエレは罪悪感から、不快感を堪えて会いに行ってしまった。

そして誰も幸せになれない結果になってしまった。

サンドラは大人しくて俺達の後を付いてまわってニコニコ笑っていた可愛い女の子だった。
努力家でダニエレを支えていける立派な王太子妃になるはずだった。
今から俺が今の状況を話したらサンドラはどう思うのだろうか。
悲しむのだろうか。
喜ぶのだろうか。
家族の事も、国の事も、ダニエレの事も何も考えられなくなるほどレイチェル姫を憎んだんだろうか。

そんな事を考えながら歩いていればサンドラのいる部屋に着いた。

部屋の中に案内されると、サンドラは笑顔で俺を迎えた。

「ヘルマン、私を捕まえにきたの?」

「随分スッキリした顔をしているな…」

「そうね…スッキリはしたわね…。」

「レイチェル姫が自室のバルコニーから身を投げた。
ダニエレはショックで意識をなくした後、目を覚ましていない。
この状況をお前は望んでいたのか?
レイチェル姫に復讐出来て満足か?
二人に一生消えない傷を付けて満足したのか?
そしてその笑顔か。
レイチェル姫がショックで自害する事もわかっていながら媚薬を使ったんだよな?
確たる証拠はないが、俺は確信している。
サンドラ、お前は殺意を持ってレイチェル姫を殺そうとした。
あの媚薬はほんの数滴で十分なのにダニエレには相当量を入れたな、自分は数滴なのに。
一晩中苦しめる為にダニエレの後遺症の事など考えもせず、自分の家の事も、外交の事も何も考えずに、ただ遠くの王女の事を苦しめるだけの為に媚薬を使った事を俺は知っている。
俺に知られている事を知っておけ。
お前があの時どんな顔をしてダニエレを見ていたかを知っている俺だけはお前の悪意も殺意も知っている事を忘れるな。

陛下から処罰が下されるまで、貴族牢に入ってもらう。
俺が今から案内する。
荷物は後で運ばせる。」

サンドラから目を離さず、ずっとサンドラの表情を見ていた。

最初は繕ったような笑顔で聞いていた。
ダニエレの身体の事と自分の家の事を話した時に顔が歪んだ。
それからは無表情だ。

「憎む以外何があるの?」

「俺に相談すれば良かった。俺ももっとお前の側にいてやれば良かった。
済まなかった。

だがお前がした事を俺は許せない。
お前が殺そうとした女性は、ダニエレの為に感情が揺れないないよう必死に明るく過ごしていたようだ。
ダニエレが感じた様子でしか分からないが、今まで仲睦まじくしていた婚約者とは適度な距離を取り、接触はあの時の一回位だろう。
逆にこっちはお前がダニエレが止めるのも聞かず接触していた。
しがみつき、抱きつき、縋った。
それを今まで支えてくれていた婚約者にも頼れず、ずっと一人で耐えていた女性にお前がした事は悪魔の所業だ。」

「確かに自害してしまうかもとは思ったわ!
でも、許せなかったのよ!
私はずっとダニエレ様の側にいたのよ!
12年も想い続けたのよ!
たった数分、会っただけの女にどうして渡せるって言うのよ!
どう納得しろって言うのよ!
最後に抱いて欲しいと思って何が悪いのよ!」

「今までお前の周りにそんな奴たくさんいただろ。そんな奴をお前は許せないと泣いていたのを忘れたのか!
そいつらと同じ事をしたお前はそいつらと同列になった。
末路は知っているだろう?

それよりも酷い末路をお前が辿るとは思いもしなかった。」

「殺そうとは思わなかったけど、死んでしまえばいいとは思ったわ…。
今も後悔はしていない。」

「・・・そうか。

今日中にナースカス国の王太子、レイチェル姫の兄上が極秘にここに来る。
その時、この言葉を兄上に言えばいい。」

サンドラはそれまでの怒りから真っ赤になった顔から血の気が引いていた。

あの婚約発表の夜会での兄妹の仲睦まじい姿が頭を過ったのだろう。
その兄が本来ならもっと日にちが掛かる移動日数をかなり繰り上げて来訪する意味など分かる。
怒りだろう。
一国の王太子が感情のままという事はないだろうが、事情が分かれば怒りの全てをサンドラに向けるだろう。

それが分かって初めて事の重大さが分かったようだ。


「サンドラ、行こう。」

共に連れてきた近衛騎士達を呼び、動かなくなったサンドラを連れ、貴族牢へ向かった。




サンドラを送った後、今夜の為に徹夜続きの身体を少し休ませよう、きっと長くなるはずだから。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!

林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。 夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。 そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ? 「モンスターポイント三倍デーって何?」 「4の付く日は薬草デー?」 「お肉の日とお魚の日があるのねー」 神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。 ※他サイトにも投稿してます

裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~

柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。  こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。 「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」  そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。  だって、浮気をする人はいずれまた――

婚約破棄したはずなのに、元婚約者が家にやって来た

あさじなぎ@小説&漫画配信
恋愛
婚約破棄を申し出たはずなのに、国境の町で家かって、気ままに暮らす私のもとに、元婚約者の王子が押し掛けてきた。 「俺と賭けをしないか?」 そう言った王子様は、なぜか私の家で一年同居すると言い出した。 「一年の間に君が俺に興味をもったら俺の勝ち。少しの興味ももたなかったら君の勝ちだ」 いや、私神官としての仕事が楽しいし、恋とか結婚とか興味ないんですが。っていうか、婚約断りましたよね、きっぱりと。 だから私のことなんて諦めてほしいんです。 神官見習いである公女と、商会の事務員として働く王子様と獣人の子供のおかしな同居生活。 *獣人は人に近い姿で耳と尻尾が生えています。 ※ムーンライトにも掲載していますがこちらは全年齢版になります

魔法使いに奪われたい~夫が心を入れ替えてももう遅い。侯爵夫人は奪われて幸せになります~

山夜みい
恋愛
ユフィリアは政略結婚した夫との冷え切った関係に悩んでいた。 一年の夫婦の務めを果たらず、お化粧をしても気付いてもらえない。 義母に虐められても「お前が悪いんだろう」の一点張り。 パーティーではエスコートされず、社交界で笑い物にされる日々。 「私、なんで生きてるんだろう」 実家の両親の顔を立てるため離婚も出来ない。 思いつめたユフィリアは買い物の最中に偶然、一人の男と出会う。 ルガール・ガンタール。 彼は世間で『狼閣下』と恐れられている冷酷な侯爵様だった。 ユフィリアの境遇に同情した侯爵様は言った。 「俺が奪ってやりましょうか」 「え……」 当初こそルガールを拒絶したユフィリアだが、他の男性と仲良くしたら夫が振り向いてくれるかもしれないと思い、デートをすることに。 「もっと早く出会っていたら、君に寂しい思いはさせなかったのに」 ルガールはユフィリアの健気な優しさと寂し気な瞳に惹かれ、ユフィリアまた夫にはない頼もしさと男らしさを感じて二人は惹かれ合う。ある日とうとう一夜を共に過ごしてしまいユフィリアは苦悩していたが、夫が後輩騎士と歩いているのを見たことで関係の終わりを悟る。 「あなた……私たち、離婚しましょう」 「待て。待ってくれ……俺が悪かった」 「さようなら」 ゴミ夫が心を入れ替えても、もう遅い。 あの手この手でユフィリアを取り戻そうとしても無駄だった。 「迎えに来ましたよ、ユフィリア」 傾いた心は、もう戻らない。

悪女は当て馬令息を誑(たぶら)かしたい。

のんのこ
恋愛
自由奔放な性格から悪女と蔑まれるリリスは、婚約者である王太子をまるで物語のヒロインのような少女・メローナに略奪されてしまった。しかし、王太子なんて興味もない彼女が惚れ込んでいたのは、メローナに恋焦がれていた当て馬令息のジャン・アボックで…!? 以前削除しちゃった未完の話のリメイク版です。 ※性格の良い主人公は出てきません。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

生まれる前から好きでした。

BL
極力目立たないように静かに暮らしてきた高校生の相澤和真の前に突然現れた年下の容姿端麗な男、三峰汐音。彼は前世の記憶があり、和真を自分が前世で護衛をしていた王女の生まれ変わりなどだと打ち明ける。王女の面影を追って和真を一途に慕う汐音に和真の生活は乱されていく。汐音の出現で和真の唯一の友人である福井奏の様子もどこかおかしくなってきた。年下男から一途に愛される生まれ変わりラブ。

処理中です...