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アントンの活躍

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ジャン視点


「なんか良い人らだったな。」

ポツリとアントンが言った。

アルフレッド様の言葉は、温かくて、優しくて、涙が出そうになった。

カルロス様も私を労る温かいものだった。

ノアさんもパトリックさんも私を気遣う様子だった。

私は、ただただリアさんを心配するばかりで、皆さんを気遣う事すらしなかったのに、皆さんは私を気遣ってくれた。

「そうなんです…皆さん、とても良い方々なんです…」

「俺さ、全員でお前を責め立てると思って身構えてたんだよね。
そしたら、アレだもの、ビックリしたよ。
お前なにしたの?この状況であんな事言わせるって余程だよ。」

「何もしていないんですけどね…ただお話しを聞いて、答えただけなんですよ。」

「なんか色々あったんだろ、あのノアって子とリアちゃん。
あの2人、王都では有名だったから、その2人とお前が知り合いだなんて驚いたわ。
婚約破棄したのに仲良さそうだし、お前はリアちゃんの事好きだし、両家ともお前の事好きそうだし、お前どうすんの、リアちゃんの事。」

「どうもしません…。」

「そりゃあ、今は仕方ないとして、いずれだよ!まだ婚約者決めてないんだろ、リアちゃん。」

「それでもです。私はリアさんが好きですが、ノアさんとお二人が一緒になれれば良いなとも思っています。」

「は⁉︎なにそれ⁉︎」

「正直、どうして良いのか分からないのです・・・」

そう、分からないのだ。
好きだという思いは止まらない。
けど、ノアさんがリアさんをとても愛しているのも知っている。
それに私は既婚者で、前に進む事など出来ない。

「ま、とにかく今はミレーヌだな。アイツは部屋に入って真っ直ぐリアちゃんを刺したんだろ?会った事なんてないのに、どうして刺したんだ?
事件の解決が先って事だ。」

「そうだ・・・あの時、ミレーヌは“そう、あの人が”と言った。
動転していて忘れていた。
ミレーヌは噂を知ってたんだと思います。
でも顔は知らないだろうに…」

「ゴシップ雑誌にお前とリアちゃんの姿絵が載ってるぞ。銀髪美人の女性としか書かれてないが、見る人が見れば誰かは分かる。
ミレーヌは知らなかっただろうが、雑誌を見たなら分かっただろうな。」

「ゴシップ雑誌⁉︎」

「そう、お前は見たことなんかないゴシップ雑誌。
ちゃんとそういうのもチェックした方がいいんだぞ、ホントは。」

「知らなかった…そんなものに載ってたなんて…。
私はなんて事を・・・」

「待て待て、載っちまったもんはどうしようもないから。
だけど、ミレーヌが捕まったなら、今後お前の周りは五月蝿くなるかもな。
だけど、俺も、多分さっきの人らもお前を助けてくれる。
大丈夫だから気に病むな。」

「はい…ありがとう。昨日からアントンにはお世話になりっぱなしです。」

「いつもと逆だな。たまにはいいべ。」

本当にアントンがいてくれて良かった。


その後は、屋敷に来た騎士隊の事情聴取を受けた。昨日とほぼ同じ質問だったと思う。
最後に、
「貴方の奥方は完全黙秘しています。
一言も話しません。
以前、入院していたそうですが、治療の方はどうだったのですか?」と聞いてきた。

「完全黙秘?」

「はい。誰にも何も話しません。
両親にも誰にも。
レグリス子爵夫妻が謝罪に訪れたいと言っていましたが、どうされますか?
事件関係者との接触は極力避けて頂きたいですが、騎士隊で話して下さるのでしたらかまいませんが。」

「ではそのようにお伝え下さい。私はいつでも構いませんので。」

「分かりました。伝えます。
何か奥さんに差し入れとかがあればお持ちしますが。」

「いえ、妻とは別居していましたから。」

「それはいつから?」

「妻が精神的に不安定になり、妊娠中でもあった為、妻が妊娠8ヶ月の時に入院いたしました。その時から妻はここに帰ってきていません。」

そして、私達の結婚した経緯を説明した。

「なるほど。そういった経緯があったのですね。
貴方に執着している可能性があるんですね?」

「はい。最近は治療の甲斐あって良くなってきていると思っていました。
それで油断してしまいました。」

「それすらも演技だった可能性はありますか?」

「分かりません…ですが、数ヶ月前から少し以前と違っていたような気がします。」

「そうですか…。専門家に聞いてみないと分かりませんね、そのへんはこちらで確認します。
一度会って話して欲しかったのですが、そういった事情でしたら、逆に会わない方がいいかもしれません。
専門家に相談してみます。
今日はありがとうございました。」


私の事情聴取が終わり、騎士隊員は帰って行った。

「なあ、聞いてて思ったんだけど、治ってなかったんじゃないの?
俺はミレーヌに会ってなかったし、話してもいないから分からんけど、お前に対する執着はそんなに簡単には治らんと思う、俺は。」

「え?」

「お前は気付いてなかったけど、俺がミレーヌと初めてあった頃は、既にお前に執着してた。巧妙に隠してたけど、お前を狙ってるのは分かった。
お前には従順だったし、他の女と付き合ってても何もしなかったから言わなかった。
ごめん、もっと早く言えば良かった。」

「そんなに前から⁉︎」

「お前の周りにいた肉食令嬢と同じ目だった。その令嬢達に優越感があったぞ、あれは。」

「・・・・・言ってください、そういう事は…。
気付いていれば距離を取ったのに…。」

「ごめん、こんな事になるなんて思わなかった。」

「今更仕方ないですね…。私に見る目がなかっただけです…。」

「ジャンは女運が悪いよな。」

「そうかもしれません…」

「だから落ち込むなって!そうじゃなくて、ミレーヌは演技だったんじゃないかって話し!」

「何故そう思うんですか?」

「ミレーヌは離婚はしたくなかった筈だ。
でも離婚するしかなくなった、でもジャックがいる限りお前との縁はギリギリ切らなくて済んだ。
ジャックさえ可愛がっていれば、ジャックに情が移ったお前は援助を続けてくれる。
昔のように従順にしていれば、お前はそのうちミレーヌを許すだろ?
それが狙いだったら?
昔のようにお前の一番近くにいるのはミレーヌになる。
今回の事でまたお前は社交界から弾かれる可能性もある。
前の時と同じだ。

お前は書類上は息子だとはいえ、ミレーヌとジャックを、レグリス子爵家を切らなければならなかったんだ。」

「・・・・・・・・馬鹿ですね…私は…。
大切な人も守れず…切らねばならない人間を側においた…情けない…」

「今更な事言ってる俺も大概だけどな。
どっちにしても、お前はミレーヌには絶対会うな!
お前が来るまで話さないとか考えそうだもん、アイツ。
俺が言わなきゃ行ってただろ、ミレーヌのとこ。」

「はい…」

「絶対、アイツもそう思ってる、必ず来るって。だから、絶対会うな!
子爵も言ってくる、会ってくれって。
だけど突っぱねろよ。
あ、俺も行くわ、そん時。
今のお前はダメダメだから。」

「助かります。本当にダメダメですね…今回はアントンに感謝です。」

同級生として中等部からの友人は、成績も常にトップで、私は一度も勝ったことがなかった。
でも、気さくで明るく、皆んなの人気者だった。こんな面白くもない私を何故か気に入り、高等部を卒業するまで続き、今もこうやって私が困った時は側にいて助けてくれる、大切な親友だ。

ノアさん達は私を凄いと言うが、私はアントンこそ凄いと思っている。


そして数日後、レグリス子爵と会う為に、アントンと共に騎士隊へ行った。

「お久しぶりです、レグリス子爵。」

「この度は娘が大変な事をしてしまい、申し訳ございませんでした。
突然の事で謝罪が遅くなり、重ね重ね申し訳ございませんでした。」

「ルーロック伯爵の所へは謝罪に行かれたのですか?」

「騎士隊の方に止められました。謝罪したいと伝えて下さいとは言っております。
ですが、未だ謝罪出来ておりません…」

「そうですか。
ミレーヌの最近の様子を聞いても良いですか?今回の事をしそうな様子はあったんですか?」

「いえ、何も気付きませんでした。
確かに一時に比べたら全く笑わなくなり、私達夫婦とも目を合わせず、ジャックといる時だけは笑っていました。
暴れる事もありませんでしたし、ジャックを可愛がっていましたから、ジャニス様に対して自分がした事を反省し、大人しくなったのかと思っておりました。」

アントンが、
「精神科の先生はなんて言ってたんですか?」
と聞いた。

「退院前にお会いした時は、悩んでいました。ある日ガラッと人が変わったようになってしまって、何故変わったのか分からないし、全く話さないので、手の施しようがなかったそうです。
暴れもしないし、規律を乱す事もない。
文句も言わずにジャックを可愛がる姿に、退院させるしかなかったようです。」

「それっていつ頃?」

「ミレーヌが本当に反省したと思った頃がジャックを生んですぐでしたから…それから2ヶ月くらい経った頃だったような気がします。」

「2ヶ月…ちょうどジャンの評判が上がった頃か…。
ミレーヌは新聞とか雑誌とか見る?」

「いえ、新聞を見てる所は見た事もないです。雑誌も私は見た事がないです。」

「髪結とかカフェとか…後は…あ、病院とかは行ってた?」

「髪結やカフェはジャックもいますし、行っておりません。病院はジャックの診察で月に数回行っております。」

「病院って大きいとこ?あ、ジャンが知ってるか。最近ではいつ行ったの?」

「事件の前の日です。」

「なるほど…分かった。ありがとう。」

「アントン?」

「俺の知りたい事は分かったから、後はお二人でどうぞ。」

「あの、ジャニス様」

「はい、何でしょう。」

「一度ミレーヌに会ってはもらえないでしょうか?」

「「‼︎」」思わずアントンと見つめあってしまった。

「申し訳ありません、騎士隊から会わないようにと言われています。」

「私達とも騎士隊の尋問にも何も話しません。ジャニス様なら何か話すかもしれません。」

「子爵、ミレーヌは私の屋敷で、私の大切な友人に危害を加え、命を奪おうとした。
その友人は今でも意識は戻っていません。

私はミレーヌを許しません。
私の大切なものを奪おうとした者には、命令されない限り会いません。
そして、ミレーヌとの離婚の手続きを始めます。ジャックへの養育費は一括でお支払い致します。
それが終了次第、今後、レグリス子爵家とはお付き合いは控えたいと思っています。

本当は妊娠騒ぎの時に、ハッキリお付き合いをやめていれば良かったのです。
ほんの少しの情で籍を入れた事が間違いでした。
あの時、キッパリ、ミレーヌと縁を切っていれば子爵との仲もこうはならなかった…。
ミレーヌもここまでの事はしなかった。
私が間違ってしまいました。」

「お前が間違えたんじゃないよ、ジャン。」

「アントン?」

「そもそも、子爵、貴方がジャンにおんぶに抱っこだったからだ。
全てジャンに丸投げした。
本来なら子爵はジャンに慰謝料を払う立場だ。なのに一銭も払っていないし、逆に貰っている。それっておかしくない?
ミレーヌの事だって、親なら子供の面倒みるのが普通だ。
それをジャンが言ったからって、籍入れさせて、金も払わず、生活全ての面倒をみさせて、子供の養育費まで貰うって、おかしいと思わない?
いくら書類上の子供だからって、貰うのおかしいでしょ?
ミレーヌに今まで優雅な暮らしさせてたジャンにあんた達に罪悪感はないの?」

「それは・・・」

「少しっていうか、だいぶおかしいよ、子爵。
ジャンが優しいのにつけ込んでる。
他人が見たら、親子でジャンに依存しているのが見え見えだ。
逆にジャンに異常な執着のミレーヌより異常だと思うよ。
養育費一括っていっても俺がちゃんと計算して妥当な金額を出す。
ジャンはジャックが可哀想だからって言うだろうけど、ジャンには何の関係もないから。
俺は、あんた達を許せなかった。
でも、ジャンが納得してるならと何も言わなかった。
でも、今回は別だ。
きっちり貴方達とジャンを切らせる。」


それきり何も言わなくなった子爵は、お辞儀をして帰って行った。

「あんな風に言わなくても…」

「ほらな、ジャンは甘いの!
こうなったら、もう、こうするしかないの!
ここで甘やかすと今までと変わんないの!
ここが切り時なの!」

アントンに叱られながら屋敷に帰った。

帰ってから、
「アントン、何が分かったんですか?」と聞いた。

「あ~、ミレーヌがどこでゴシップ雑誌をいつ見たのか知りたかったの。
あの日の前日、病院で雑誌を見たんだよ、きっと。それで、リアちゃんに狙いを定めたんだ。
屋敷には探りに来たんだと思う。
それほど仲が良いなら会ってるかもってね。
で、たまたまリアちゃんがいた。
いつでも狙えるようにナイフを持ってたミレーヌは迷わず刺した。
って事だと思うよ。
これでもう会う必要もないね。」
とサラッと言った。

「え?もう解決ですか?」

「間違いないよ。そして、ひたすらお前を待ってる、ミレーヌは。
お前が大切にしている人を刺した理由を必ず聞きに来るって思ってる。
だから絶対会うな。
そのうち焦れて絶対暴れるから。
そしたら勝手に話すと思うよ。」

なんの違和感などない答えだった。
それしか考えられないほど、納得した。

アントンがいなければ、私はミレーヌに聞きに行ってた。
怒りに任せ、罵声を浴びせていたと思う。
ミレーヌは、私の中に深く傷を付ける為に、忘れないように、私に罪悪感を植え付け、リアさんを傷つけたのはお前だと私を責めただろう。


本当に私はダメダメだ。
そんな事にも考えが及ばない。

落ち込む私に、アントンが言った。

「ま、これでようやくミレーヌと切れて良かったじゃん!
あれは特別。そうそうあんなのいないから。
大概女の子は可愛いよ!
後はリアちゃんが目覚めたら万々歳だな!」

と敢えて明るく言ってくれるアントンに心から感謝した。















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