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恐怖
しおりを挟むノア視点
目の前で真っ白な顔で寝ているララ。
息しているのか心配になるほど静かに寝ている。
今朝、笑いながら馬車に乗って、初めて作ったのと食べさせてくれたクッキーは少し固かったけど、美味しいと言ったら、嬉しそうに笑ったララ。
胸を真っ赤にして倒れていた姿が頭から離れない。
さっきまで普通に喋っていたのに、
笑って、話していたのに…
俺ばっかりクッキーを食べて怒っていたララが、今浅い息をしながら寝ている。
ボロボロ涙が止まらず、手をずっと摩っていた。
「お願い・・死なないで・・ララ・・・死なないで…」
何度も何度もララを呼んだのに、身動き一つしない。
怖い・・・ララがいなくなってしまう・・・
嫌だ、1人にしないでよ、ララ・・
冷たい手を必死に摩った。
どれくらいそうしていたのか分からなかった。
廊下がバタバタと走る音がして、パトリックが駆け込んできた。
おじさんとおばさん、ユリアもいたみたいだ。
その後、父上とエリカ、ジョシュア殿も来た。
俺はララから離れられないから、ずっと手を摩ってた。
ジョシュア殿が王宮医師を連れてきてくれたようで、改めて治療すると、部屋を出された。
皆んなで大広間のサロンに集まった。
今まで気にしていなかったが、ジャニス様は顔色が悪くて倒れそうだ。
自分の名前だけの妻、話しでは落ち着いてきていたという話しで、ジャニス様自身もそれを聞いて安心したと言っていた。
それを今日たまたまいたララをどうしてその妻が刺したのか、
そしてララを襲うような人物を客人に引き合わせてしまった衝撃は計り知れないだろう。
じっと見ていた俺を見ると、泣きそうな顔になったジャニス様に微笑んであげる事はできなかった。
父上がジャニス様に、
「ジャニス殿、巷で噂が流れていたのを知っていましたか?」
「噂、ですか?申し訳ございません…存じません…」
「ジャニス殿に秘密の恋人がいると噂になっています。」
「「え⁉︎」」
俺とジャニス様が同時に声を出した。
「秘密の恋人とは?一体誰の事ですか?」
「私も今の今まで誰かを知りませんでした…。
ひょっとしてリアちゃんの事だったのではと…」
「私とリアさんが・・・」
「近い人間は誰も気付かないでしょうね…だから私も誰の事だろうと思っていました。」と父上。
続けて父上が、
「さっき皆に確認しましたが、噂を聞いた事はあるが、リアちゃんだとは思っていなかったと。
でも、もし、私達以外がリアちゃんだと思っていたら、ジャニス殿の奥方がリアちゃんを刺す理由にはなると思います。」
ジャニス様の顔色が真っ白になったと思ったら、ストンと倒れてしまった。
ジャニス様の隣りにいた男性が、
「ジャン、しっかりしろ、ジャン、大丈夫か⁉︎
申し訳ない、私はジャニスの友人のアントン・レーマンと言います。
ジャニスを運ぶ為、少し、席を外します。」
と言ってジャニス様を横抱きし、出て行った。
「今、言うべきではなかった…申し訳ない…」
父上が誰に言うともなしに謝った。
ルーロック家の皆んなは誰も話さない。
エリカは泣き続け、ジョシュア殿に肩を抱かれていた。
「何があったか話せるか、ノア。」
とパトリックが言った。
俺はここに着いてから、俺が席を外し、サロンに戻った後までを話した。
「ジャニス殿は来客の知らせで席を外し、ノアもトイレに立った。
その間にジャニス殿が挨拶がしたいと言った奥さんをサロンに連れて行ったら急に刺したって事か?」
「俺はララが倒れてる所に駆け込んだ。
あの女はボォーっと立ってた。
ジャニス様は、ララの出血を止めようと胸に手を当てながら、指示を出してた。
俺は動けなくて、ジャニス様に怒鳴られてやっと女を押さえつけた。
ジャニス様は医者が着くまでずっと動いてくれていた。
俺は騎士隊が来るまで、ずっと女を捕まえていた・・・。
そういえばあの女・・何かブツブツ言っていた…何だっただろう…思い出せない・・・」
「良いよ、ノア、今じゃなくていいから。」
「何を言ってたんだろ…思い出さなきゃ…」
「もういいから!ノア、後でいいから…」
「何て言ってた…「ノア!もう大丈夫だから、大丈夫だから。」
「お父様…リアは大丈夫ですよね?リアは大丈夫だよね…お父様、リアに会いたい・・・」
エリカの泣き声が響く。
沈黙の中、王宮医師が治療を終わらせてサロンに来た。
「今、説明しても宜しいでしょうか?」
その時に、アントン殿も戻ってきた。
父上が、
「ラインハル侯爵は体調不良で休んでいるが、大丈夫だ。」
「ルーロック伯爵令嬢は、運動されておりますか?」
と関係ない話しを始めた。
おじさんが、
「数ヶ月前から体力作りだと言って色々していたみたいです。
実際、よく歩いておりました。」
「そうですか。筋肉が付いているようでしたから確認しました。
運動のお陰で体力が付いているのであれば持ち堪える可能性があります。
脈拍も落ち付きつつあるようですし、処置も早かったので、安静にしていれば問題ないかと思います、が、出血がかなり多かったので…意識さえ戻れば心配ないと言えるのですが…。
とにかくお嬢様は頑張れる体力があるということです。信じて付いていてあげて下さい。
今夜は私もおりますので、ご安心下さいね。
後、ノア様、貴方の顔色も悪いですよ。
今日はゆっくり休んだ方がいいですよ。」
そう言って、ララの隣りの部屋に案内されて戻って行った。
「ノア、少し休みなさい。お前まで倒れてしまってはリアちゃんが目覚めた時、泣いてしまうぞ。」
泣く。
その言葉で涙が止まらなくなった。
「ララが、ララが、いなくなってしまったら…怖い…ララが…消えてしまったら…父上、ララを、ララを、助けて…怖い、怖い、ララ…」
「ノア、大丈夫だ、リアさんちゃんは死なない、大丈夫だから、死なないよ、大丈夫、父さんが必ず助けるから、大丈夫だから少し眠りなさい。
リアちゃんが起きたら必ず起こすから。
リアちゃんは死なない。」
俺はそこで意識をなくした。
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