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血の繋がり

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ルカリオ視点


今、内密に少数で会議をする為の小会議場に、父上である陛下、宰相、防衛大臣、外務大臣、近衛隊総隊長、騎士団総長、俺とジョシュア、そして俺が父上に許可を取って、ラインハル侯爵にも来てもらった。

そして、アルバス伯爵。

重鎮達に囲まれるようになる位置に座らされたアルバス伯爵は、なんの動揺もしていない。
宰相のギブソン公爵、ジョシュアの親父で俺の叔父が、

「今日、ここに召集された理由はお分かりか、アルバス伯爵。」

「分かりません。」

「貴方のご子息の今の状況は知っているのでは?」

「彼奴は遊び回っていて帰って来ない事が多々ございます故、此度もそうかと思っております。」

「ご令嬢がどちらにいるのかはご存知であろう。」

「あの子も泊まりで遊び呆けております。
娘も息子と同じかと。」

「あくまで知らないと?」

「はい。」

「では騎士団総長、報告をお願いします。」

「騎士団より報告致します。
一昨日、ゲルト・アルバス伯爵令息は、娼館『魔女の館』にて、国内で承認されていない薬を使い、娼婦数名の意識をなくす、依存性のある薬を使用させ、体調不良にするなど違法薬物所持、使用の罪で逮捕され、現在騎士団内にて、勾留。
本人は父親の命令により使用したと容疑を否認しております。

そして昨日、フィリア・アルバス伯爵令嬢は、違法薬物使用、他国間諜と思われる人物との接触、交流により反逆罪で騎士団にて勾留しております。
なお、フィリア・アルバス伯爵令嬢は薬物については容疑を認めています。
そして、令嬢は父親のアルバス伯爵は、頻繁に間諜と思われる男達と屋敷にて接触していると話しております。
以上です。」

「それらについてアルバス伯爵のお答えは?」

「先ずは間諜、と言われております、我が屋敷に招いた男性方は、1人は薬草、もう1人は外国の商品を私に売る為に訪れた者達。
他国の間諜などと思った事もございません。
その際、珍しい薬があると言われ試しにどうぞと頂いたものでございます。
息子と娘はそれを勝手に使っていたのでしょう。
私は使用を強制した事などございません。
息子と娘が犯してはならない事をしたのであれば勾留も仕方なしと思っております。
如何様にも。
私に親としての責任を取れとおっしゃるのであれば私も勾留して構いません。
命に従います。」

「その2人がマスナルダの者という事はご存知か?」

「はい。最初にそう言っておりました。」

「貴方がその者に何か書類を渡していたと目撃証言があるが?」

「売買証明書ではないでしょうか?それか血統書とか。とても良い商品もありましたから。」

急に父上が、

「テレンス、お前は子供が嫌いか?」

「いえ、我が子ですから。」

「我が子ではなかったら?」

「・・・それはどういう意味でございましょうか?」

「そのままの意味だ。もし、我が子ではなかったら、愛情はスパッと無くなるのか?」

「なってみなければ分かりません。」

「分からなかったのか?」

「何のことやら。」

「全て話せ、テレンス。何故、この小会議場を選んで、この少人数なのか、分からないわけがなかろう。
本来ならば大会議場で貴族全員が出席し、その中で行なわれるべき案件なのだ。

私はお前の話しを聞きたい。
言いたくないは却下だ。
ここにいる者は全員死ぬまでここでの話しを外に漏らす事はない。

お前が何を思い、何に悩み、何をしようとしたのか、全て話して楽になれ。
お前ほど優秀な者を失うのは惜しいからな。
まだ誰も殺してはいないのだろう?」

「・・・・・・・・・・」

「陛下、申し訳ございません。
アルバス伯爵に質問したいのですが、宜しいでしょうか?」

「ラインハル侯爵はテレンスの娘と婚約していた時期があったな。
構わん、許す。」

「ありがとうございます。

アルバス伯爵、お久しぶりでございます。
少し、質問の前にお話しさせて頂きたいと思います。

フィリア嬢と婚約していた時期に伯爵の幼少期のお話しを聞く機会がありました。
育児を放棄している母君、
厳しい指導の父君、それをお一人で耐えている姿を見ているのが辛かったと、伯爵家の執事のクラウスが話していました。
そんな幼少期を過ごした貴方が我が子を同じ目に合わせるなど考えられません。
奥方が貴方の母君と同じ状態であるなら尚更。
フィリア嬢は、幼い時は無口だけれど、いつも寝付くまで、側にいてくれる優しい父だったのだと言っていた時があります。
その父がある時から、人が変わってしまったと言っていました。
それは知ってしまったのではないのですか?
貴方と貴方の父君の事を。
どうかお話し下さい。
お一人でもう悩む必要はないのです。」

「・・・何故、他人に身内の恥を話さなければならない。」

「恥と、思っているのですか?」

「恥以外に何がある!子種がないなどと誰が言える!」

「貴方の父君がそうなように高熱によって子種が無くなる事もあります。
生まれた時からの方もいらっしゃるでしょう。
伯爵の原因が何なのかは分かりませんが、
伯爵だけの病気ではありませんよ。」

「そんな事は分かってる!
私が苦しかったのは、秘密にされた事だ!
何もかも、俺には教えてくれなかった!

父は子種がなかった。では私は誰の子なのだ!
そんな事も知らなかった。
父が厳しいのは私を期待しているからと、ずっと1人で耐えていた。
母は私の事などいないように扱った。
それでも父がいてくれるから厳しくても耐えられた。
だが、あの厳しさが、血が繋がっていないからだと思ったら、父の愛情すらなかったのかと思ったら、今まで必死に努力し、耐えてきたのは何だったんだと思うだろ!
そして、我が子とすら血は繋がっていなかった。あんなに可愛かった我が子が急に気持ちの悪い者になった。

血の繋がりなど関係ないと思おうとした。
小さな息子と娘と手を繋ぎ、抱っこして散歩したあの幸せな時があるなら大丈夫、やっていけると何度も自分に言い聞かせた。
でもダメだった・・・。
妻を抱いて身籠らせた奴がいる。
それを父と妻は隠していた。
綿密に計画を立て、私とその男と同じ時期に子作りしたのだろう。
気持ちが悪いと思った。

せめて知っていたら、自分が納得していたら例え血が繋がっていなくても可愛らしかったあの子達を愛せた。
でも今はどうしても愛せない。

俺の血はこの国で何処にも繋がっていない。
何処かには父親がいるのだろう。
でも分かりはしない。
俺を騙し、影で笑っていた妻を憎んだ、俺に検査結果を偽ったクソ医者を恨んだ、そして妻を唆した父親を呪った。
この国の何処かに俺の親父がいるのなら、息子の顔も見にこない親父がいるこの国をぐちゃぐちゃにしてやりたかった…。

でも…結局、あのマスナルダの間諜の2人は私の計画を国王には伝えてくれなかった。
向こうからこちらに接触してきたのに。
何度も来るが、ただの時間稼ぎの為だけに屋敷に来ていたんだと思う。
“あの国の国王は、頭がおかしいからどうせなら次の国王まで待ってたら?”と言われた。
多分次の国王はまともだから、あんたの鉱山も効率よく友好的に取り引きしてくれるから、頭のおかしいやつには渡さないでと言われた。

いつも私の事を“死にたがりのおっさん”と呼ぶあの男達の事が嫌いではなかった。
たまに来た時に話しをした。

薬はその男の1人が実験的に作ったもので、こんなの作ったとよく持ってきていた。
その男も子供の時は酷い目にあったとかで、
“おっさんなんかまだ良い方だ。俺はあんな奴らの血なんかいらない”と笑っていた。

息子と娘が薬が欲しいというから渡したが、試作品のような物だから、少しだけ試したほうが良いと言った。
婚約を破棄させ、私の息がかかった者達を送り込んだのは確かだ。
国をぐちゃぐちゃにしたかったから。
分かったかな、ラインハル侯爵。


そして以上が、私がしたかった事です、陛下。

覚悟は出来ております。
ですが、息子と娘は私共夫婦の責任です。
どうか寛大なご配慮をお願い致します。

そして、間諜として我が家に来ておりました2人は、決して私から伝えた情報以外踏み込んで調べようとはしておりません。
別の他国、我が国でもしている諜報活動以外しておりませんでした。
渡した情報も私の目の前で添削し、国外に出してはいけない情報は省いて、適当な報告をしていたようです。
余り詳しく報告すると早く帰らなければならないからと…自国の国王が嫌いなので。

信用…というのもおかしな話しですが、どうかその事を頭の隅にでも置いて下されば幸いです。」

そう言って頭を下げた伯爵は、どこかスッキリした顔をしていた。


「テレンス、君が話した事が正しいと証明する事が出来るのか?

おそらく偽ってはいないのだろう。
我らもお前が嘘をついていないと思っている。
だが、お前がしようとしていた事は、気に入らない貴族同士を敵対させようとするような小さな策略ではなく、国と国を敵対させ、戦争を引き起こそうとした事だ。
それも長期間をかけ計画していた。
お前が手を引いたとして、それを引き継ごうとする者がいないと言い切れるのか?
その計画をお前1人しか知らない事はないだろう?
賛同している貴族がいるはずだ。
そして、そういった貴族は得てして裏切るものだ。
そういった者達はいないのか?
すでにマスナルダに繋ぎをつけているのではないのか?

お前を直様処罰する事は簡単だが、己がした事の後始末くらいはきちんとしろ。

お前の処罰はその後だ。
今からお前はここにいる者達の監視下に入った。この者達と共にこの件の始末をつけろ。
息子と娘は貴族牢にて軟禁。
夫人は何も知らないのであろうが、こちらも軟禁。騒ぐようであれば処罰も辞さない。



テレンス、お前の愁いうれは晴れたか?」

「晴れた…かどうかは分かりません…。
ただ隠す必要が無くなり、楽になりました。」

「そうか。
王宮医師がお前を蔑ろにし申し訳なかった。
今後このような事のないよう個人情報が本人以外に流出出来ないよう法改正もしていこう。

私からは以上だ。
誰も何も無ければこれで終わりにするが、何かあるか?」

「陛下、最後に一つだけアルバス伯爵にお話ししたい事がございます。
宜しいですか?」
とラインハル侯爵が言った。

「構わん、この際言いたい事がある奴は言ってしまえ。」


「ありがとうございます。

では一つだけ。
アルバス伯爵。貴方が抱えた苦悩を私が全て分かったなんて烏滸がましい事は言いません。ですが、とても苦しんだと思います。
そして何方かに打ち明けていたらとも思います。

貴方のその決断により、貴方が思いもしない所で、若く経験も少なく、1人では癒しきれないほど傷付けられた人達がいます!
明るい未来を潰され、絶望を味わった人達がいます!
傷だらけになりながら、必死に立ち上がろうと、たった一本残された細い糸に縋るように足掻き続けた人達がいる事を忘れないで欲しい!

その方達を近くで見てきた私は、貴方が招き入れてしまった、貴方が庇う、他国の方が作った薬、それさえ無ければ、あんなに傷付く事などなかったのに!と思ってしまうのです!
未だ血を流しながら、決して消えない傷を、完治させる暇さえもなく、戦い続ける彼らを、家族を、そんな方達がいる事を、絶対、忘れないで頂きたい!

久しぶりに大きな声を出してしまいました。
私からは以上です。

アルバス伯爵、貴方も深く傷付きました。
お身体を、心を大事にして下さい。

陛下、ありがとうございました。」

穏やかなラインハル侯爵の恫喝は、父上すらも黙らせる迫力があった。

ハッとした宰相が散会を告げ、アルバス伯爵は、騎士団団長に連れられ、出て行った。

ラインハル侯爵が退出しようとした所を父上が止めた。

「ジャニス、その者達はエリソン家とルーロック家の者か?」

「はい。とても素敵な方々です。」

「そうか。今回の件、其方が活躍したと聞いている。私で力になれる事があれば手を貸す。ルカリオにでもジョシュアにでも言ってくれ。」

「活躍などしておりませんが、手を貸して頂けるなら、有り難いです。ありがとうございます。
では御前、失礼致します。」

と言って去っていく後ろ姿に、

「普段怒らないやつが怒ると怖いものだな。」

と父上が呟いた言葉に残った全員が頷いた。














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