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嫌な男

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ジャン視点


頼まれた薬の事を聞く為に、友人のレーマン伯爵家次男のアントンに連絡を取った。
すぐに我が家を訪問したアントンが、
「久しぶり!お前、色々大変そうだったから遊びに行っていいのかも分からんし、聞いていいのかも分からんから、お前から連絡きて良かったよ!」
と相変わらず元気なアントンは、それなりに気を遣ってくれていたらしい。

「で、なに?何かあったの?」

「アントン、前に娼館で娼婦に処女になる薬の事を言われた事があったのを覚えてますか?」

「娼館?あーーーあったな、そんな事。」

「その時の事、詳しく教えて欲しいのです。」

「何お前、興味あるの?それとも騙された?」

「私の知り合いがもしかしたらその薬を使って騙された可能性があるのです。」

「うへえ~挿れたら分かるだろ、処女かどうかなんて。」

「意識を失くされてしまった状態だったのです。」

「え⁉︎怖!」

「なので詳しく聞きたいのです。アントン、何処の娼館でその女性はなんて方なんですか?」

「えーと、娼館は『魔女の館』で、娼婦の名前は・・・・マリかユリだったような…マリ…ユリ…どっちだったかな…」

「顔は覚えていますか?」

「顔は覚えてる。その子が、処女の子を抱いてる気分になる薬があるから今夜どう?って聞いてきたんだ。
でも、せっかく娼館来たのに処女抱く意味ある?と思って、興味ないけど、そんな薬あるなら貴族の令嬢になら高く売れるんじゃないのって聞いたんだ。
そしたらその子が、貴族らしい客が“マスナルダの知り合いの薬屋に貰ったちゃんとした物だから良かったら使ってみたらってくれたそうだ。
その時はへえ~って聞いてたけど、マスナルダってなんかヤバい感じするなって思ったんだ。
それっきりで別の子と遊んだから、その話しはそれでおしまい。」

「貴族らしい客が、マスナルダの薬屋から貰った薬をユリさんかマリさんという娼婦の方にあげたという事ですね。」

「そうそう。あ、そん時になんとなく気になったから、俺が選んだ子に“最近ここによく来る貴族っている?”って聞いたら、ジャンの元婚約者の兄貴だった。
アイツかぁと思った後、アイツなら怪しい薬持ってても納得だなって思った。」

「あーゲルトですか…。でも、ゲルトだとは確定してないんですね?」

「ああ、確認はしてない。」

「じゃあアントン、今からその娼館に行きましょう。ユリさん、またはマリさんに話しを聞きたいです。」

「えーー今からーー面倒くさい。」

「奢ります。」

「行く。さあ行こう!」

「アントン、貴方もそろそろ結婚したらいいのではないですか?」

「まだいいかな…両親見てきたから結婚なんかしても幸せになんてなれそうにないし。」

「まあ…結婚だけが幸せではないですし…。
すみません…余計な事を言いました…。
アントンが両親のせいで苦しんできたのを知っていたのに…。」

「良いの良いの、俺は両親みたいにはならないし、好きに生きるから。」

「はい、アントンはアントンらしくいて下さい。」

「おうよ!じゃあ行くか!」



そしてアントンと2人『魔女の館』に行った。
受付でアントンがユリかマリっていたよね、いたら呼んでとチップを渡して呼びに行かせた。

すぐにユリという女性が来て、
「うわぁいっぺんに2人も指名?」

「違う違う、少し聞きたい事があるんだ。金は2人分払うから。良いかな?」
と聞くと、
「女将さんが良いなら良いよ」
と言われたので女将さんに許可を取り、客室に3人で入った。

「で、何を聞きたいの?」

「前にさ、処女の薬とか言ってたじゃん、その薬あったら欲しいんだよね。
まだある?」

「結局みんなに断られて使ってないからあるけど、他の子も持ってるよ。」

「え⁉︎マジで⁉︎なんで⁉︎」

「みんな欲しいって言うから、貰ったんだ、ゲルトって客に。」

「ゲルトはたくさん薬持ってるんだね、そんなに持ってるなら売った方が儲かるのに売らないんだ?」

「なんか試験中だからただ、だとか言ってたよ。」

「ふぅ~ん、じゃあさ、なんか別の薬とかあった?」

「一つあったよ、それはめちゃくちゃ便利だったよ!男のアソコに塗ると勃ちの悪いお客もカチカチになって勃つんだよ~あれは便利だった!」

「凄いね、そんな便利なのは高いでしょ?」

「それは一回分だけただで貰った。でもそれっきりその塗り薬は貰えなくて、売ってもくれなかったなぁ。」

「他には聞いたり見たりしたものある?」

「見た事はないけど、一度だけ別の店の子が変な薬使われた事があったよ。そのゲルトって客ではなかったみたいだけど、どんな客かは知らない。」

「変な薬ってどんなのなの?」

「その子はたくさんお金をもらって、その薬を飲んだらしいんだけど、飲んだらすぐ眠っちゃって、起きた時身体が動かなくて好き勝手やられたって言ってた。
自分が動かなくて良いから楽だったし、お金たくさん貰えたからラッキーって思ったらしいよ。」

「なんかいろんな種類があるんだね。今聞いた薬って、誰か持ってたりする?」

「どうだろ~あたしは最初に言った薬しかないし、塗り薬は誰か持ってるかも。聞いてみる?」

「そうしてくれたら助かるなあ~。ちなみに別の店の子の名前って知ってる?」

「え~と、お向かいの店のベティって子。」

「ありがとう、チップは弾むから君が持ってる薬と聞いてきてくれる?」

「分かった~聞いてくる!」

そして、ユリが聞いてくる間に、女将にしばらく貸切にしてくれるよう、話しをつけた。

娼館で1番広い“貴賓室”に客を取っている子以外全員集まってもらい、薬の事や貰った時の様子、誰に貰ったかを詳しく聞いた。
結果、処女を偽装する薬はほぼ全員貰い、使ってない子は半数、塗る媚薬は数人。全員使ったが、少し薬が残っている子が何人かいた。
身体が動かなくなる薬は無かったが、声をかけられた子は2、3人いた。怖いので貰っていない事、他に飲むと気分が良くなり何人客を取っても疲れない薬を貰った子が半数いたが、飲んだ子はその後体調を崩ししばらく休んでいたが、半月ほどで治って復帰したのだとか。それを聞いた子達は怖くなって飲まなかったが、念のために取ってあるという事だ。

薬をくれるのはゲルト、貴族のトッド、外国から来た男、目付き悪い男、と数人が薬をばら撒いているらしい。
目立たない為に、危険な薬は一度だけ、それ以外は2回位はくれるようだった。

女の子達と店に料金を払い、薬を回収した。
今度は向かいの店のベティに会いに行き、話しを聞いた。
向かいの店は、薬を店の子に使うような客は取らないらしく、薬を使った子は厳しい罰則があるので、ベティ以外は薬を貰った子はいないようだった。
ベティの話しはユリ達の話しとほぼ同じで、くれた相手はゲルトだった。

「なんかヤバくない?これ、深く足を突っ込まない方がいいんじゃないの?」

「王太子に頼まれた。」

「は⁉︎王太子⁉︎」

「詳しくは言えないが、王太子が調査している事に関係しているらしい。」

「ますますヤバイじゃないか!ジャン、お前大丈夫なのか⁉︎巻き込まれてたりする⁉︎
危険な事からは全力で逃げろよ!」

「フフ、アントンありがとう。君は優しいね。」

「だってジャンは暴力なんて嫌いだし、ヤクザ者にすら優しくしちゃう奴なのに、そんな奴らに捕まったら薬漬けにされて死んじまうだろ!」

「話しを聞いただけですし、これ以上は私の出る幕はありませんよ。」

「だったらいいけど…。俺、ジャンが死んだら…泣くから…危ない事は絶対するなよ!約束だからな!」

「はい。危険な事はしませんよ、アントン。」

今日は娼館には行かず、私とお酒を飲みたいと言い張り、2人で屋敷に帰り、アントンは酔い潰れて泊まっていって、翌日昼に帰って行った。


ゲルト…ゲルト・アルバス。
私の婚約者だったフィリアの兄。
年齢は私よりも2歳下で、あまり良い噂を聞かない、嫌な男。

ゲルトはあまり頭の良い男ではない。
親の金で遊侠にただ耽る愚かな男。
今、考えればフィリアも似たようなものだった。
あの頃は美しくも可愛いフィリアに恋をし、浮かれていただけだった。
私もまだまだ経験が足りていなかった。
フィリアも巧妙に本性を隠していたのだろう。

アルバス伯爵は頭の良い人だ。
決して本心を悟らせなくて、何を考えているのか分からない人、という印象だった。

だからこそ何かを計画し、ゲルトに薬をばら撒かせ何かをしようとしている、それは間違いないと思う。
その先は王太子の仕事だろうと思う。



「私が聞いた話しは以上です。回収した薬はこちらです。」と言い、ルカリオ様に渡した。

「アルバス伯爵・・・なるほどね。
ラインハル侯爵はアルバス伯爵の娘さんと婚約していたよね?
婚約していた時、何か気になった事はあった?」

「そうですね・・・それと言ってなかったと思いますが、彼女は感情の浮き沈みが激しかったですね…それくらいでしょうか…。」

「浮き沈みね…。
知りたかった事を全て聞いてくれて助かったよ。君もアントンもさすが学院のNo.1、2で卒業しただけあるね。
アントン君は私の側近として置いておきたいくらいだ。
君もだけど。」

「私などは醜聞まみれですから、王太子殿下のお側に居れるような人間ではありませんので。」

「それはジャニスの書類上の妻が嵌めたからでしょ?そのうち噂も無くなるよ。
今、急激に君の株は急上昇しているからね。」

「え⁉︎それはどういう事でしょう?」

「奥様方を通じて徐々に、
“ラインハル侯爵の語り口は、カウンセリングをうけているかのようで心が救われるようなのですって”と評判になってるよ。」

「それは…どうにも…お恥ずかしい限りです。」

「ルーロック伯爵夫人とエリソン侯爵夫人が大層君に感激して、あっちこっちで話しているらしい。
大人気らしいよ、ジャニス。」

「リアさんとノアさんのお母様方が・・・。」

「だから醜聞なんかそのうち無くなる。
もし良かったら、私のカウンセリングもしてくれないかな。」

「滅相もない。お話しはさせて頂けても、カウンセリングなど私は出来ません。」

「まあ、話しをしに来てくれたら助かるって事。

さて、今日は助かったよ。
ノアも、どうやらエリーのお腹の子は君の子と確定ではなくなったかもしれないね。
これからは私がやるよ。
決してノアもジャニスも関わってはダメだよ。」

「「御意」」

執務室を出ると、

「ジャニス様、大丈夫ですか?」

「何がでしょうか?」

「俺もですけど、ひょっとしてジャニス様も狙われてたんじゃないですか、アルバス家に。」

「・・・そう…だったのかもしれませんね…。
私はフィリアを好きだったのですが、そうなるように誘導されていたのかもしれません…別れてからは思い出す事もなかったので、私も左程好きでは無かったのかもしれません…。私は…女性を見る目は無さそうです。」

「ジャニス様に好かれるようにしていたんだから当たり前ですよ。
これからジャニス様にお似合いな女性が必ず現れます!
俺、見る目はありますよ、ちゃんと見極めますから心配いりません!」

「それは頼もしいですね。」

ノアさんはリアさんを見つけ、ずっと一筋に愛し続けている方だ。
確かに見る目がある。

・・・リアさんが好きだと言ったらノアさんに嫌われてしまうだろうな…。


リアさんも好きだが、ノアさんの事も好きだ。
嫌われたくないな…


帰り道は少し切なくてあまり話せなかった。















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