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どうして気付かなかったんだろう

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パトリック視点

俺が書いた手紙で、大事な妹のラミリアが壊れてしまった。


全て、自分が悪いと思い込んでいる。
父に叱られたのも、タイミングが悪かったのだろう。
やっと立ち直ったリアに言うべきではなかった。
立ち直ったと言っても、あんなに深く傷付いたリアが耐えられる話しではなかった…。
一週間、ずっと部屋に篭り、一歩も部屋から出てもいない。
身の回りの世話と掃除、食事の時に部屋に、リアの専属メイドのユリアも入るが、ずっとブツブツ何かを話していて、誰の声も聞こえていないようだと言っていた。
そしてユリアは、

「私の声も届きません…、領地に行った時でさえ、気を使って笑って下さっていたのに、今は誰のことも見ていません。

こちらに帰ってくる前もリア様は少しだけ、気持ちが不安定な感じではありましたが、お屋敷に帰れば皆さんがいらっしゃるので大丈夫だろうと思っていました…。


領地では、ご友人になったラインハル侯爵様が、穏やかに相談にのり、笑わせ、リア様を助けてくれていました。
ですが、ノア様を支えるとお決めになったので、ラインハル侯爵様とは会う事をおやめになっていました。
私も、ノア様を選んだのならば、もうラインハル侯爵様とは距離をお取り下さいと強く言ってしまいました。

リア様には側で支えてくれる人が本当は必要だったのではないでしょうか?
エリカ様でも、パトリック様でも、誰か一人でもリア様に付いていて下されば、甘える事も出来たのではないでしょうか?

皆さん、必死にあの女の人の悪事を暴こうとしているのは理解出来ます。
ですが、皆さんあの人の事ばかり考えていませんか?
本当は誰か一人でもリア様に寄り添ってくれる人がいなければならなかったんじゃないですか?
どうして一週間も誰一人リア様のお部屋に来られないのですか!」

そういえば父上も母上も俺も、リアが謹慎になってからは、リアに会っていない。
ドアの外から声をかけてあげる事も出来たはずだ。
なのに誰もリアの様子を気にかけなかった。
忘れていたのではないが、俺は護衛の仕事でエリソン侯爵家に行ってるし、我が家の執務もある。
それでも誰か気にかけるべきだった。

「済まない、本当にそう思う。ユリア、諦めずリアに声をかけ続けてくれないか、俺も毎日声をかけるから。」
そう言う事しかできなかった。

父の執務室に行き、リアの状態を説明した。

「そうだった…立ち直ったように見えたが、表面だけだったんだろう…。
なのに私はリアを責めてしまった…。
あの子が壊れてしまう前にと、領地に送り、笑うようになったと、ノア君の事も冷静に考えられるようになったと喜んでいたが、傷は癒えてはいなかった。
考えればそうだな、あれだけの事が突然たくさん、深く、傷付けられたのだから…。
せめてジェニーをリアの側につければ良かった。
一人の方が良いだろうと思ったが、私もパトリックも領地に行って、安心させてあげれば良かったのだ…。
なのに…私は…。」

「父上、とにかくリアと話して下さい!
リアは父上に対して怯えています。
会話は何でも良いですから、安心させて下さい。そして、リアは悪くないと言い聞かせて下さい、リアが・・・これ以上壊れないようにしないと…。母上にも説明して下さい。
私は、ノアに…話してきます…。」

すぐエリソン侯爵家に馬を走らせ、自室にいたノアにリアの事を伝えた。

「本当に済まない。俺が余計な事をしたから…。まだ立ち直ってなんかいなかったんだ、きっと…。なのに、俺が…傷を抉ってしまった…。」

「リアが壊れたって、どういうこと⁉︎
確かにこの間会った時は興奮していた。でも、それは俺がしようとしていた事に怒っていたからだ。
なのにどうしておかしくなるんだ!」

「父上に怒鳴られたんだ…お前を支えると言っておいて、手を離すなど無責任だと、何の相談もなしにリアが勝手にした事なんだから、責任をとれと言われていた。
もっとたくさん言われていた。
部屋に謹慎されてからリアは一歩も出ず、ずっと考え続けて出した結論が、全て自分が悪いからみんなに謝罪すると言ってきかない…。
あの女にまで謝罪すると言っている。
自分のせいだからと。
誰の声も届かない…何度違うと言っても、自分が悪いから仕方ないとしか言わない。」

「俺があんな事考えなければ・・良かったんだな…。
パトリック、リアに会う事は出来るか?」

「会えるが、今は…何というか、以前と違う…。笑いもしないし、目だけはギラギラしている…感じだ。」

「どんなでもいい、リアに会わせてくれ。興奮はさせない。側にいさせてくれ。」

「ユリアに言われた…。みんなあの女の事しか考えていない、リアに寄り添って側に誰かいなくてはならなかったんじゃないかって怒られた…。
その通りだ…リアは誰にも頼れなかったし、甘えられなかった…慰めてくれる人もいなかったんだ…」

「とにかく、帰ろう、リアに会いたい」

二人で屋敷に戻り、リアの部屋に入ると、
リアは眠っていた。

その姿をずっと二人で見つめていた。














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