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不誠実な私

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あれからジャン様の事は気になるし、ノアの事も心配だし、かと言って戻るのは怖い。

本当に狡くて弱い自分が嫌になる。

食欲は無くなり、ユリアにもバートにも心配をかけている。

お父様に、一度帰ってこれからの事を相談したいと手紙を送ったら、今お兄様が変装して、あの人を護衛という形で監視しながら、探っている所だから何か分かるまでは帰ってきてはいけないと言われてしまった。

もう一度お店に行ったが、やっぱりジャン様は来ておらず、手紙も預かっていないと店長に言われた。

そうだよね・・・・私はノアを選んだのだ。
ジャン様なら距離を置こうとするだろう。

その日もほとんど食べずにお酒だけを飲み、ユリアではなく私が酔ってバートに運ばれた。


私は何をしたらいいんだろう…


そればかり考えていたが、何も思いつかない。

「リア様…最近のリア様はここに来た頃のようになってしまいました。
私で良ければ悩みがあるならお聞き致します。どうか何のお役にも立たないかもしれませんが、話す事で何か分かるかもしれませんよ。」

とユリアが言ってくれた。

ユリアは私がジャン様に惹かれている事を知っている。
敢えて口には出した事がないが、なんとなく分かっていただろう。

ジャン様は既婚者だが、なんとなく普通の夫婦ではない事は分かっているのだろう。
決して私とジャン様を邪魔はしないが、応援もしていなかった。

「私・・ジャン様に酷い事を手紙で書いてしまったの…。
あんなに良くしてくれたのに・・・」

「先日店長さんにお渡しした手紙ですね?」

「そう、あの時は自分が思った事を正直に書いたの。でも、それは辛い状況のジャン様に対して、とても酷い書き方だったと思って…気になって仕方ないの…。
でも、私は今のノアを放ってはいられないし、今でも愛してるのに、どうしてもジャン様の事が気になってしまって・・・。
早産で生まれた赤ちゃんの事も、心を病んでしまっている奥様の事もあるのに、せっかく楽しいと思えるようになったジャン様を私が台無しにしてしまったのかと思うと、眠れないの・・・」

「そうなんですね…。リア様はノア様とラインハル侯爵様、どちらを優先しようとしてるのですか?」

「それは、今はノアが優先よ。」

「今はという事は、その後は?」

「その後?ノアの事が解決したら、ノアと結婚するわ。」

「では、ラインハル侯爵様とお付き合いしたいとか、結婚したいとかは思っていないんですね?」

「それは・・・ジャン様は結婚しているし…」

「離縁されたら?独身になって、なんの柵もなくなったら?」

「・・・また一緒に…飲み、たいわ・・・」

「それだけなんですね?」

「ユリア!もうやめて!私は・・ノアを…」

「ノア様を愛しているなら、もうラインハル侯爵様の事は忘れて下さい。もし、逆の立場でしたらリア様は許せますか?二人きりでお酒を飲む女性がいるノア様を!」

「それは…嫌だわ…」

「リア様・・・もしそれでもラインハル侯爵様が気になるのでしたら、正直にノア様にお話になってください。
ラインハル侯爵様は確かにリア様をお救い下さいました。
とても紳士的でお優しい方なのは充分知っております。
ですが、今の段階でラインハル侯爵様はご結婚されております。
離婚されるとしてもまだまだ先の事でしょう。

それならば先ずはノア様に正直に、ラインハル侯爵様の事をお話になり、とても世話になった人で、一人で誹謗中傷を浴びながら、必死に打開しようと戦っているのを助けたいと相談なさって下さい。

でも、ノア様は他所を心配するどころではないはずです。
そのノア様にリア様が惹かれ始めている男性の事を言えますか?」

「・・・言えないわ…」

「確かにノア様はリア様がいたら力が湧き、頑張れるでしょう。
問題が解決して、改めてリア様とノア様が結婚するとなった時に、ノア様に相談するのが筋なのでは?
あっちにもこっちにも良い顔をするのは、不誠実だと思います。

もし、ラインハル侯爵様を支えたいと思ったなら、問題を解決した時にノア様にその気持ちを伝え、その時もう一度考えればいいのでは?
その時、ラインハル侯爵様が同じ気持ちかは分かりかねますが。」

「そうね・・・・」

「どちらかを選ばなくてはならないでしょうが、今は関係者でもあるノア様の方を片付けるのが先ですね。
色々キツい事を言ってしまい、申し訳ございませんでした。
でも今のモヤモヤしたリア様にはイライラしていたので、スッキリしました。」

「もう、ユリアはハッキリ言い過ぎ!泣きそうになったわ。
でも、そうね、私が今すべきことってノアの問題をとにかく解決する事だものね。
確かにジャン様には惹かれているけれど、すべき事をした時に、やっぱりノアしかいないと思えたら、ノアとジャン様の事を相談するわ。何か助けられる事があるかもしれないし。
もし、解決してもジャン様が気になって仕方ないのなら、ノアに正直に話すわ。
その時ジャン様が私の事をなんとも思われていなくても、ジャン様の事を助けるお手伝いをするわ。」

「先の事は分かりません。とにかくやるべき事、それはあの女をコテンパンにやっつける事です!」

「その事をジャン様に手紙に書いて渡してもいいと思う?もう手紙も書かない方がいい?」

「出来ればもうやり取りはしない方がいいと思いますが、リア様は気になるのでしょう?でしたら、もう一度だけ書いても良いと思います。」

「ありがとう、ユリア。聞いてもらえて嬉しかった。」

「いえいえ、早く楽しくお酒を飲みたいので。」



この後、ジャン様に手紙を書いた。


『ジャニス・ラインハル侯爵様へ

お元気ですか?赤ちゃんは元気なのでしょうか?ミレーヌ様は産後の体調などは大丈夫ですか?

先日の手紙を渡してから、ジャン様を傷付けてしまったのではないかと気になり過ぎて、もう一度、手紙を書かせていただきました。

ノアを愛していると言いながら、ジャン様を気にかける私は不誠実だとユリアに怒られてしまいました。
その通りで、反省しました。

私は長く愛してきたノアの問題を先ずは解決する事を最優先します。関係者でもありますし。
その事だけを今は考えようと思います。

どうかどうか、ジャン様が穏やかで楽しい日々を送れますよう、毎日祈っております。
いつか、また、楽しいお酒が飲めるよう頑張ります。

ラミリア・ルーロックより』













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