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穏やかな罵声

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夜のお出かけの翌日、ユリアは朝一番に、

「大変申し訳ございませんでした!」

と土下座する勢いで頭を下げている。


「フフ、楽しかったもの、また行きましょう。でも、ほどほどにね。」

「しばらくお酒は飲みません…」

「じゃあユリアはお酒はなしで、私だけ飲むからまた付き合ってね。」

「私も飲みます!飲み過ぎなければ良いだけです!」

そんな会話をしてから一週間後、また夜のお出かけとなった。



「こんばんは、店長さん。」

「いらっしゃいませ、ラミリア様。」


ふと見ると前にも同じ場所で飲んでいた男性がいた。

目が合い、逸らすのも変なので、

「こんばんは、今日は大人しくしますね。」

「いえ、気にせず楽しんで下さい。」


そんな事を言っていったのに…

「リア様はーーもうーーアイツの事はーーー吹っ切れたのですかーー?」

「ユリア、あなたお酒弱すぎよ…」

「リア様!答えてください!」

「そんなに簡単には吹っ切れないわよ・・」

「あんな女にリア様がバカにされて…悔しいよおーーーー」

「もう、ユリア…それよりお水飲んで、ほら。」


ユリアはそれっきりパタっとカウンターに突っ伏し眠ってしまった。

「ハア…今日もダメね…」

「ラミリア様、少しユリアさんを寝かせておいて、ラミリア様はゆっくりお酒でも飲んで料理を楽しんで下さい。

それにしても、ユリアさんは余程怒っているのですね、先日もラミリア様を思って怒っていましたし、今日も。
私の勝手な想像ですが、ラミリア様はユリアさんが怒っていらっしゃる件で、ご自分の感情を押さえ込んで誰にも何も仰っていらっしゃらないのではないですか?
だからユリアさんは代わりにこうしてお酒の力を借りて怒っているのではないでしょうか。
一度、思いっきり泣いて怒って暴れればスッキリしますよ。

申し訳ございません、余計な事を言い過ぎました。
私は仕事に戻りますから、ラミリア様はごゆっくりどうぞ。」


店長さんの話しを聞いていて、気付けば涙が溢れていた。

もっていたグラスが歪んで見える。
震える唇で、グラスのワインを飲む。


そうなのだ。

あの時から、涙は出ても、怒鳴ったり、ノアや彼女に罵声を浴びせたりもせず、ただ何も考えないようにしていた。
そうしないと気が狂いそうだったから。

グラスを持つ手も震え始めた。

じっとその手を涙で滲む目で見つめていた。

そしてワインをチビチビ飲んでは、手を見つめていた。

すると、横からハンカチが出てきた。


「使っていませんから、どうかお使い下さい。」

涙でほとんど顔は見えないが、カウンターで飲んでいた男性なのは分かった。


「あり、がとう、ござい、ます…」

「すみません…あまりにも見ていて切なくて…。
少し、私と似てるのかなと思ったら放っておけませんでした…。」

「・・似てる…?」

「私も今の自分の状況に怒りたいのに…怒鳴りたいのに…そういった感情を出せなくてこうして毎日ここで一人落ち着くまで飲んでいるんです。」

「そう…なんですね…」

「そちらのお嬢さんのようにお酒に酔ってくだを巻いて発散したいんですが、私、お酒強いみたいで、全く酔わないんです…」

「フフ、私もお酒強いみたいです。ユリアみたいに“バカヤロー”って酔った勢いでなら言えると思ったのに、全く酔いません。」

「いいですね、私も“くたばれ”って言いたいです。」

「アハハ、私、くたばれですか、良いですね。」

「後は、“ふざけんな”とかですかね。」

「いいですね~私は“浮気者ーーー”ですね~」

「フフ、私は“なんで俺なんだよーー”ですね。」

「ん?意味深ですね~。じゃあ、私は“お前のなんか腐って落ちてしまえ”ですね。」

「アハハハ、なんとなく何のことか分かりましたよ。落ちたら笑えますね。」

「アハハ、本当ですね。」

「良かった、笑ってくれた。元気が出ましたか?」

「はい。ありがとうございます。なんだか少しスッキリしました。」

「私もです。今夜はぐっすり眠れそうです。」

「私もです。じゃあ、私はそろそろ帰ります。
あの、またお話ししても良いですか?」

「もちろん、また新しい罵声を考えておきます。」

「フフ、私も考えておきます。」



バートを呼んでユリアを抱えてもらい、店を後にした。


その日は嫌な夢も見ず、ぐっすり眠れた。















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