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しおりを挟む昨日なかなか眠れなかったせいか、今朝はクレアに叩き起こされるまで爆睡してしまった。
もうお昼前になっている。
なんだか食欲もないので、着替えた後はケイトを連れて、広大な庭を散歩している。
森に行かなくても十分散歩出来るほど広い庭だ。
庭というか野原だ…。
噴水や庭園はないが、小川の水は透明で綺麗だし、野花や野草がある程度整備されているのか野放しではない程度に生えている。
丘もあり、木陰で休めるほどの大木もある。
今日はなにも考えずに釣りでもしよう。
つばの大きな帽子を被り、簡素なワンピースで釣りをする。
餌はミミズや小さな虫だ。
私は小さな頃からお父様やお兄様とよく釣りをしていたので虫も平気だ。
真顔でミミズを掴み、針につけていると、
「ひ、ひ、姫様は、相変わらず、む、虫が平気なのですね、そんな、真顔で淡々とつけてる姿は少し引きます…」
「そう?慣れよ慣れ!噛みつかないし、危なくないわ。」
「そういう問題ではありません、気持ち悪いのです、見た目が!」
「うーん、そうかな~女の子はみんな“キャー”っていって逃げちゃうもんね。
こういう所なんだろうね、モテないのは…。もっと女の子らしかったら良かったのになぁ…」
ヘニョリ…
垂れた耳を見たケイトは、
「姫様は可愛らしいです!垂れた耳なんか庇護欲をそそります!」
「女の子にはそうでも男の子が求めてるのはそういうんじゃないんだよ。
今まで観察して分かったの。
男の子は、お淑やかで守ってあげたいような女の子が好きなのよ。
ほらフェリスなんて女の私でさえ守ってあげたくなるもの。
ナタリーにしても女らしいでしょ、口は悪いけど。
私は口も悪いし、ちんちくりんだし、ウサギだし、虫は触れちゃうし、かつお節齧ってるし…モテる要素全くないもの…」
「姫様…」
「あら、ケイト。否定しないところを見ると、そう思っているのね。私が齧ったかつお節で出汁とってミソスープ作って飲ませるわよ!」
「いやいや、そんな事思ってませんよ!
ミソスープは好きですが、姫様の唾液が付いたかつお節は嫌です!」
「でもあの粉末勿体無いよね。何かに使えないかな~」
「あの匂い大好きです!猫には大人気ですよ!」
ケイトは猫獣人だからだろう、本能で魚が好きなのだ。
「釣り餌に使えないですかね、撒いて。」
「どうなんだろ…試しに今度撒いてみよう」
「今ありますよ、やってみましょう!」
ケイトがポケットから巾着袋を出して、小川て撒いた。
すると、小魚がわんさか寄ってきた。
「オオーー物凄く魚が寄ってきたよ!魚の粉末なのに魚が寄ってくるとはこれ如何に!」
「姫様、釣るより掬った方が早いですよ!」
「じゃあ」
と言って靴を脱ぎ、川に入る。
「姫様、いけません、はしたないです!」
「だって網も何もないじゃない。手で掬っちゃうわよ、それ!」
手で掬おうとしてもなかなか捕まえられない。バシャバシャやっていたら小魚は全くいなくなった。
「あ…いなくなった。ケイト、もう一回撒いて!次は捕まえるから!」
「ダメです!早く上がってください!クロエさんに怒られますよ!」
「じゃあ次は網を持ってこよう!」
そう言って上がろうとしたら苔に滑って転んでしまった。
「キャーーーーー!」
思わず悲鳴をあげたら、
「姫様ーーー!」
と誰かが走ってこっちに向かってきた。
物凄い勢いで近寄ってきて私を抱き上げて、小川から出て、ケイトが座っていたシートの所に下ろしてくれた。
「姫様、大丈夫ですか?」
「姫様、ケガはないですか?」
ケイトが覗き込み、もう一人声をかけたのはジャンだった。
「あれ?ジャン、どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ、何してたんですか、怪我したらどうするんですか!」
「魚をね、捕まえようと思ったのよ。たくさんいて釣るより早いかなと思って…。」
「姫様、タオルを持って参ります、ジャン様少し姫様をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、風邪をひいたら大変ですから早くタオルを取りに行ってください。」
ケイトが走って行き、ジャンだけが残った。
「あの、ごめんなさい。お仕事中でしょ?お手間をかけてすみません…」
「そんな事はいいんです、姫様の所に用事があって来たんですから。」
「私のところに?」
「それより冷えてしまうので、これを羽織ってください。」
そう言って自分の上着を私にかけてくれた。
「ありがとう!ジャンが着てたからぬくぬくだわ!」
満面の笑顔でジャンにお礼を言ったら、何故かジャンは固まっていた。
「ジャン、どうしたの?固まってるわよ。」
「いや、なんでもないです…。」
「それよりどうしたの?用事があったんでしょ?」
「その…昨日、言い過ぎたかなと思って…。それで…お詫びと思ってコレ…持ってきたけど…」
ポケットから出した紙袋はビシャビシャになっていた。
「また新しいの持ってきます…」
「ごめんなさい、折角持ってきてくれたのに、私のせいでダメにしてしまったわ…。」
ヘニョリ…
「グッ・・・いや、また持ってくるから気にしないで下さい。」
「ちなみにその中はなんだったの?」
「お菓子です。女の子に人気があるって聞いたので買ってきたんですけどね…」
「そうなの?わざわざ?ちょっと見せて。」
紙袋の中を覗いてみると、綺麗な色のマカロンだった。
触ってみるとまだ濡れていない物もある。
濡れてない物を取って食べてみると物凄く美味しい!
「美味しいよ、ジャン!ありがとう!」
「え?食べちゃったの?」
「まだ濡れてないのがあったよ。さすが人気店だね、凄く美味しいよ!」
「嘘でしょ、ホントに食べたの?」
「だから美味しいってば!」
「アハハハ、凄いな、姫様は!」
「何が凄いのよ、食べ物は粗末にしちゃいけないのよ!」
「そりゃそうだ。姫様が正しい。」
ジャンは楽しそうに笑いながらそう言って、紙袋の中から一つ取り口に入れた。
「ホントだ、美味しい!」
「でしょ、ジャン、お店の名前を教えて。今度ナタリーと一緒に行ってみるわ。」
「ダメですよ、王族がそんな気軽に言っては!」
「え~私、ちょくちょく市街地に行ってるわよ。」
「ハア⁉︎護衛は?」
「えーと、いないかな…。でも、誰も私が王女なんて気が付かないし。普通の獣人の女の子としか思われてないもの。」
「それでも貴族とは分かるでしょ!女性だけで行くのは危ない!次は言ってください、俺が付きます!」
「いやいやジャン白騎士だものお城に居なきゃダメでしょ。だったら青騎士に頼むよ。」
「そんなこと言って面倒だから頼まないでしょ!ナタリー様かランバート様に相談してみますので、それまで勝手に市街地に行かないように!わかりました?」
「・・・・はい。」
「ホントに?分かってる?」
「分かってるってば!…ジャンハクロエニソックリダワ…」
「え?何?何か言った?」
「なんでもないわ。勝手に出掛けないって言ったの!」
「姫様ーーーーー、タオルをお持ちしましたーーーー」
とケイトが叫びながら走ってきた。
「じゃあ、俺はこれで。姫様、風邪ひかないように!」
そう言って走って行ってしまった。
なんだか起きた時のやる気のなさが嘘のように今はやる気に満ち溢れている。
うん、やっぱり落ち込んだ時は甘い物だ!
この時の私は自分の気持ちに全く気が付いていなかった。
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