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本田家での話し合い

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西山健也 視点


久しぶりに来た蓮の家。
高校の時、何度かここに来て勉強した思い出がある。
あれから10年経っているとは思えないほど、親父さんも隼也さんも変わっていない。

あの当時、知識としては知ってたし偏見もなかったが、初めて生で見たゲイカップルに、少し興奮した。

男子校あるあるでもある、可愛いまたは美形の男子はアイドル的存在になるが、俺らの世代のアイドルは蓮だった。

喋らなければアイドルだったのに、喋るからアイドルになりきれない蓮は、ある意味人気者だった。

とにかくすぐ“クソが!”、“バカが!”、“ボケが!”が語尾につく。
そして弁が立つ。
可愛らしさが欠片もない。
でも人情に熱い男だから人が集まる。
世話好きで、一人でいる奴を放っておけない。
あの顔で、「お前、ちょっとこっち来い。」って呼ばれたら大概ビビる。
そしてポケットから飴玉一つ、あげたりするのだ。

なんで?って誰もが思う。

「寂しそうだったから」

俺はつい吹き出した。
「何?西山も欲しいの?こっち来い。」
そして俺にもくれるのだ、黒飴を。

「ばあちゃんちの茶菓子だな。」と言うと、

「ばあちゃんは黒飴茶菓子に出さねえよ。
安心しろ、黒飴はお前にだけだ。雄大にはレモンをあげた。慎吾はミントだ、アイツはすぐ女とチューするからな。」

それを聞いた俺は切なくなったなぁ…

蓮が慎吾を好きなのは2年の夏休み前にはクラス全員が知っていた。

ボォーっとしてる時は大体慎吾を見ているのを本人は気付いていないらしい。
それを俺達クラスメイトは温かい目で見守っていた。

そのうち慎吾が変わった。

彼女と別れたと慎吾が言った。
その時、「俺、蓮の事好きかも。」

その言葉を聞いたメンバーは歓声をあげた。

離れていた蓮はキョトンとしていたが、また本を読み始めた。

「やっとかよ、慎吾!お前、気付くの遅すぎ!」と俺は言った。

「は?何が?」

俺達はずっこけた。マジか⁉︎コイツ気付いてないのか、蓮が誰を好きか⁉︎

それからは余計な事は言わず、ニヤニヤしながら二人を皆んなで観察したものだ…。

そんな事を思い出していたら、隼也さんが、
「何ニヤニヤしてんの?蓮の事?」と聞いてきたので、
「そうです。高校の時の蓮と慎吾の事を思い出していました。
仲は良いのに二人とも口が悪いから全く甘い雰囲気にならなくて、なかなか告白しなかったなぁって。」

「想像つくね。さあ、その二人の為に俺達は頑張らなきゃね。
ざっと話しは聞いたけど、ちょっと書面に纏めよう。
手伝ってくれる?」

「あ、さっきの話しならレコーダーに録音してるので聞きますか?データ送った方が良いですか?」

「データも欲しいかな。山田くん、君的には慎吾の子供は誰の?」

「慎吾のではないようです。そのレコーダーにも入ってますが、あの飲み会の前に佐藤美咲は誰かに妊娠した事を告げています。
相手は佐藤美咲の上司です。左遷されて今は地方にいますが。」

「なるほど。そうすると子供の父親が誰かが分かってるんだよね、だったら認知してもらおう。ダメなら嫡出否認調停を申し立てるしかないね。
子供の親が慎吾じゃないと分かってたんだから法定離婚事由の“婚姻を継続しがたい重大な事由”にあたる可能性が高いからね、離婚も難しくはないけど、向こうが拒否したら裁判すればいいだけだし。その辺を詰めていこう。
そういえば、結婚式したんだよね?費用とかは誰が出したの?」

「全て慎吾側です。ですが、その費用は佐藤の両親が返還しました。
なので、佐藤美咲と子供の生活費として渡していた一年強の分の返還と、慰謝料の請求ってとこですか?」

「そうだね。その子、今はどうしてるの?
実家で子供の世話してるのかな?
そういう子って生まれた子供に敵意が向く事多いんだよ、子供は無事かな…。
一度確認した方がいい。
それに逆恨みもするタイプみたいだから、敵意はこちらに向くように僕がその子と話そうかな。
僕はね、凄く怒ってるんだよね。
蓮って、淡々としてるように見えるけど、その実とっても繊細な子なんだよ。
慎吾から逃げてきた時、あの子が偶然入った喫茶店があそこだったんだって。
その時志帆ちゃんと再会したんだけど、蓮、もう死にたいって泣いたんだって。

僕ね、蓮を息子だと思ってるんだけど、
その息子に死にたいと思わせる事をした、佐藤美咲が許せないんだよ、死ぬほど。

今も怒りで手が震えるほどだよ。」

見れば微かに手が震えている。

「ごめんね、おじさんこんなに怒ったの久しぶりで、なかなか治らないから、お茶入れてくるね。」

席を立った隼也さんを見送り、その背中を見ていた。

「隼也はね、蓮が大好きなんだ。
妻が出て行くまでに蓮の心がボロボロになったけど、俺には癒してあげられなかった。
ご飯も作ってあげられないし、洗濯もお掃除も、蓮がしてくれてた、ボロボロなのに。
その事を話したら、隼也が来てくれて家の事をやってくれた。
突然現れた男が父親の恋人だってすぐに気付いた蓮は、“親父、メンクイだったのか!そして家事男子!”って言ってすぐ受け入れてくれたの。
なーんにも突っ込まず、あれこれ指示しながら上手く隼也を使ってた。まるで兄貴みたいにね。
それがとっても嬉しかったんだって。
今回の事も、慎吾にめちゃくちゃキレてたから。
委員長も蓮の為にありがとう。
蓮に良い友達がたくさんいてお父さん、嬉しいよ。今度本でも出しちゃおうかな。
“俺の最愛を返せ~托卵妻との1年間の戦い”とか。」

「勘弁して下さいよ、もう思い出したくもない一年でしたから。しかし蓮をよく隠せましたね。意外と近くにいたし。」

「でしょ?だって慎吾、ウチに来た時、必ず何かヒントはないか、玄関から見える場所全部チェックしてたから、態と蓮が居そうな場所の住所を書いた配送伝票を置いてたの。
そしたら絶対次来た時、そこのお土産持ってきたよ。
次に来た時は、大阪にいる友達に何か送ってもらって、“これ、大阪のが送ってきたんだけど、慎吾にあげる。これ好きなんでしょ?”って言ったら、慎吾次の週来た時、大阪土産持ってきたから行ったんだね~。何処探したんだろう?
隼也と次はどこにするって相談するの楽しかった~。」

「賢い大人ってやる事がエグい…」

「だって蓮を泣かせた罰は与えないと。」

お茶とお茶菓子を持ってきた隼也さんも加わり、慎吾への報復結果を楽しげに話す本田家の大人二人を絶対敵にはまわさないと心に誓った。
















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