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友利志帆のこれまで
しおりを挟む私が小学6年生の時に、両親が交通事故で一片に亡くなった。
一人娘だった私は、母の弟の礼二叔父さん夫婦に引き取られた。
叔父さんは優しかったけど、叔母さんはあまり私を引き取る事には賛成ではなかったようで、良い顔はしていなかった。
従兄弟になる光樹は私の一つ下で、両親が生きている時は仲が良かったが、私が来てからは邪険にするようになった。
お父さんとお母さんを取られるとでも思ったのだろう。
中学に入学し、学校にいる間だけは気が抜けて楽しかった。
叔父さんはその頃普通に会社に勤めていて、朝出勤し、夕方帰ってくるその間、学校から帰ると叔母さんと光樹が私をチクチクと虐めるのだ。
今から考えると他愛ない意地悪だが、その時は辛くて、家には居たくなかった。
叔父さんが両親の残してくれたお金を管理してくれていたから、叔母さんに使われる事はなかった。
多分それが気に入らなかったのだろうと思う。
私の食費や生活費、授業料や学校で使う学用品、服や下着、その他私にかかるお金は叔父さんが払ってくれていたから。
一度叔父さんに、
「私の分のお金はお父さんとお母さんが残してくれたお金から払って」と言ったら、
「大丈夫だよ、学校関係だけはそこから使っているけど、後は叔父さんがちゃんと志帆が大学に入るまで預かっておくからね。」
「でも叔母さんが・・・」
「何か言われたのか?」と叔父さんに聞かれたが、何も言わなかった。
そんな中学生活を送っている時、一人の男子と友達になった。
その子はハッキリ言って美人だった。
男の子だけど、その言葉以外に表現できなかった。
他の男子よりは落ち着いてたけど、普通の男子で、話せば口も悪いし、品もない。
けど美人な男の子の名前は、本田蓮くん。
運動部には入っていないが、運動神経は良いし、勉強は誰よりも出来た。
本当は中学受験しろと言われたらしいが、断固突っぱねたとは本人の談。
そんな彼と話すようになってから気付いたことがあった。
その頃の私の席は本田の後ろの席。
ふと前を見た時、いつも何かを目で追っている。
それは決まって教室から見える校庭で体育をする他のクラスの男子がいる時。
または放課後のサッカー部が部活をしている時。
それを注意深く観察していて分かった。
サッカー部の遠藤道彦、隣のクラスで学級委員長をやってあるメガネ君。
確かにスポーツをしている姿は格好良く見えるが、よほど本田の方がカッコいい。
何故だ?
そんな疑問を持ちながらも本田の遠藤の観察は続いている。
気になり過ぎて、直球で聞いてみた。
「なんで本田は遠藤を見ているの?」
「へあ⁉︎」
突然の質問に本田は変な叫び声を上げた。
「な、な、なんでって、俺は見てないし!」
動揺している本田の耳は真っ赤だ。
「ふ~ん、そう。」
その日はそれで終わり、私は帰りに本屋に寄り、初めてBLの世界を立ち読みで知った。
次の日お小遣いを持ち、帰り道に絵が綺麗なBL漫画を購入した。
ドキドキし、悪い事をしているような気がしてお金を出す手が震えた。
急いで帰り、部屋に篭って漫画を読んだ。
“なんていい話なんだろう!”
そこからは私は徐々にハマり、高校に入る頃は立派な腐女子になっていた。
そんな私の目の前に、リアルBLを繰り広げようとしている本田が、愛しい遠藤を見ている。
放課後、一人本を読んでる本田に近付きこう言った。
「本田…私と君の好きな人の事を語り合おうではないか。私は立派な腐女子である。」
「・・・・お前バカなの?いや、バカだった…」
「私がバカだろうと本田に関係ない!
それよりも、遠藤よりカッコいい男は沢山いる。
なのにどうして遠藤なのかが知りたい。
なんで?」
「俺はそういうの誰にも言いたくないの、お前にも。なんでそんな事お前に教えなきゃいけないんだよ!」
「私は知ってる。本田はいつも隣りのクラスの体育の授業とか、サッカー部を見てるのを。別に本田が誰を好きかなんて興味はない。ただなんで遠藤なのかを知りたいだけ!文句ある?」
「文句以外ないわ!」
「本田は美人なのに、他にお似合いの奴はいるのに、気になっただけだよ…本田の隣りには1組の吉田とかこのクラスの藤岡とかが似合う。なのに遠藤…。その謎を解きたい!」
「謎って・・・。
あ!美人ってなんだ!俺は男だ、美形って言え!」
そうして粘って粘って聞き出した。
「遠藤は…いい奴だ…。いつも誰も気付かない小さな事に気付くのは遠藤だから…。」
聞けば遠藤は、ポスターのピンが取れていたりすると落ちていたピンを拾い、ポスターを直したり、ゴミが落ちていたらちゃんと拾ってゴミ箱に捨てたり、女子が重い物を持っていたら手伝ったりしているらしい。
「へえ~知らなかった。確かにいい奴だね。」
「もう良いだろ、あっち行けよ!」
「はいはい」
それから私と本田は遠藤を見かけては、お互いに報告しあった。
“今日の遠藤”の話しは楽しくて、卒業するまで続いた。
本田はそういう縁の下の力持ちみたいな子を見つけるのが上手かった。
そういう子と話すと大概良い子で、本田と二人で友人の輪を広げていった。
だから卒業式で、本田は女子や男子にまで囲まれて、制服のボタンは一つも残らなかったし、ネクタイまで取られていた。
その姿は追い剥ぎに遭ったようで大笑いして別れた。
「またな、友利!お前と話せるの楽しかった!」
「うん、私も楽しかった!またね、本田!」
明日も会えるような挨拶で終わった本田との別れはあっさりしたものだった。
高校はバイト三昧していた。
少しでもお金を貯めたかった事と家にいたくなかったから。
高校3年の時、叔父さんと叔母さんが離婚した。
叔母さんが私の両親のお金を使い込んでいた事が発覚した。
叔父さんが隠していた貯金通帳と印鑑を見つけて、数十万使っていた事、
そして徹底的だったのが、光樹が私を無理矢理犯した事。
それが徹底的な理由だった。
そのせいで私は学校にもバイトにも行けず、受験どころではなくなり、1年浪人することになったのだ。高校はなんとか卒業出来たが、精神的に立ち直るまでに時間がかかった。叔父さんは私と昔住んでいた家に引っ越した。
家の名義は私だったのですぐ移れたが、掃除は全くしていなかったので、二人で掃除ばかりしているうちに私も落ち着いた。
叔父さんは、離婚する際、家と貯金全てを叔母さんと光樹に渡した。
会社も退職し、退職金は叔父さんが全額貰ったそうだ。
叔母さんは最後まで私を罵っていた。
光樹には会っていない。
私が家を出る時に会わないようにと、部屋から出られないように釘でドアを打ちつけていた。
叔母さんに釘抜きを投げ渡し、
「お前が息子をそれで出してやれ!」
それだけ言って私を先ずホテルの部屋に送った。古い家はまだ掃除が終わっていなかったから。
その後、さっき出てきた家に戻り、私の物と自分の物をトランクやダンボール、旅行カバンに詰め込んで車に乗せるとホテルに戻ってきた。
一晩ホテルに泊まり、次の日に昔の家に行き、掃除三昧の日々を送り始めたという訳だ。
遅れた受験勉強を始めたのは5月で、予備校に通い、遅れを取り戻し何とか志望校に入れた。
叔父さんは退職金を注ぎ込み喫茶店を始めた。
昔からコーヒー好きな叔父は料理も上手かったので意外と繁盛している。
大学に入ってすぐの頃、本田を街で見かけた。
友達と一緒に楽しそうに笑っていた本田は、相変わらず美人で、その隣りにいたのは男前でなんだか声をかけられなかった。
でも本田が楽しそうに笑っているなら隣りの人はきっと良い人なんだろうなって思った。
そして、大学を卒業し、そこそこ良い会社に入社出来た。
そしてその会社に本田の隣りにいた人がいた。
話した事はないけど、一度話しかけて本田の事を話したいと思ってた。
同期として出会ったのが、佐藤美咲。
見た目は可愛いが、中身はダメだ。
でも、話すだけなら害はない。
だからあの時、何の躊躇もせず美咲と一緒に彼を美咲のマンションに送ってしまった。
もしかしたら話しかけるきっかけになるかもと思ったから。
送った先が美咲のマンションだなんて気付かなかった…てっきり荒川さんのマンションだと思った…。
マンションに入って気付いた。
ここは美咲のマンションなんじゃないのかって。
「ちょっと、ここ美咲のマンションなんじゃないの⁉︎」
「そうよ、だって私、荒川さんのマンション知らないもの。」
「だって知ってるって言ったじゃない!」
「私、そんな事言ってた?酔ってたから覚えてないもの。
もう連れてきちゃったんだもの、仕方ないじゃない。それにこんなに酔ってるのに何かあるわけないでしょ?
ここに連れてきたのは志帆も同じ。
余計な事考えないでさっさと帰りなさいよ、終電なくなるわよ!」
怖くなった私はすぐに部屋を出た。
荒川さんには付き合ってる彼女がいて、その人を溺愛していると有名だった。
なのに今美咲のマンションに荒川さんは美咲と二人きり。
荒川さんは男だし、襲われるなんて事はないし、大丈夫だよね、そう大丈夫よ!
何度も自分に言い聞かせ電車に乗った。
翌日、美咲は上機嫌だった。
すぐに確認した。昨日あれから大丈夫だったのかと。
「言う訳ないじゃない。男と女の事よ、秘密!」
ああ、ヤッたんだ…。
どちらから誘ったのか、それとも夢現の状態だったのか、これからどうなるのか分からなくて怖い。
その日から荒川さんが変わったと噂が流れた。
今までのような気さくさがなくなり、全く笑わなくなったと。
美咲と私のせいだ・・・・・
荒川さんを見ていられなくて、
美咲に弱味を握られたようで、
私は会社を辞めて逃げた。
あの後荒川さんがどうなってしまうのか想像出来て…。
だって聞いてしまった…美咲が誰かにこっそり妊娠したかもしれないと言っているのを。
そしてそれを聞いた数日後に荒川さんをマンションに連れ込んだ。
本当に妊娠していたのかは知らない。
でも私は関わりたくなかった。
だから逃げた。
逃げたはずだった・・・
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