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卒業式から十年
しおりを挟む慎吾の宣言に驚いて固まったままの俺に、
「ずっと前から隼也さんに教えて貰ってた。
待て待て、実践じゃないぞ、話しだ、話しを聞いてただけな!
だから今日、俺はお前の初めてを貰う!
分かったか!」
固まった身体を風呂場まで引き摺られ、身体の隅々まで洗われ、そしてその夜俺達は一つになったんだ。
大学は別でも同じ東京、会いたい時にはいつでも会える。
でも慎吾は一緒に暮らすと駄々を捏ねた。
小さなマンションを二人で借りた。
家賃、光熱費、食費は折半し、バイトした。
俺はこの頃から暇がある時に書き溜めていた小説を細々と自分のSNSにあげていた。
大学2年、初めて慎吾と喧嘩した。
朝方帰って来た慎吾と言い争いになった。
サークルの飲み会で女の子の部屋に泊まってしまったと言っていたが、俺は知っていた、慎吾が浮気している事を。
いつからか俺は絶対付けない場所にキスマークがついていた。
頸にだ。
俺は使わない香水をつけて夜中俺が寝てから帰ってくる事、見たことのない可愛らしいピアスがポケットに入ってた事、どうやら慎吾は一応付き合ってる人がいるとは言ってくれてるらしい。
そして俺は牽制されている最中だ。
黙っていたそれらの証拠を晒すと、馬鹿正直に認めて土下座した慎吾。
なんとなく流れで…そんな訳あるか!
それから俺は慎吾と一切口をきかなくなった。
慎吾は毎日バイト以外で遅くなる事はなくなった。
毎日俺に土下座した。
1カ月で俺は折れた。
そんな事が年に一度はあった。
慎吾は本当はノーマルだ。
慎吾が女性に惹かれるのは仕方ないと思っている。
いくら俺が慎吾を好きでも、慎吾を引き留める術など何もない。
慎吾の気持ちだけで繋がっていられる関係だ。
慎吾と居たいなら俺が折れるしかない…。
その繰り返しを10年続けた。
浮気も10回。
何か女と寝ないと駄目な決まり事でもあるのだろうかと一度真顔で聞いた事がある。
否定されたが。
慎吾が就職した会社には、俺達の高校の同級生の木野雄大もいた。
俺達のマンションにもよく遊びに来た。
その度俺の愚痴を聞いてくれた雄大は、会社の事を教えてくれた。
1年目は良かった。
男前な慎吾は相変わらずモテていた。
だが、付き合っている人がいると言えば強引に擦り寄ってくる人はいなかったらしい。
2年目に入社した女の子はどうやら慎吾にロックオンしたらしく、事あるごとに慎吾に擦り寄っては邪険にされていると笑って雄大は言っていた。
それからの数年はその子に慎吾は悩まされ続けた、俺も。
そして今年の新入社員の歓迎会で何かあったらしい慎吾は、夜遅く帰り、朝早く出社する毎日を続けていた。
そんな一ヶ月後に言われたのが、
「子供が出来た」だ。
そして、俺は逃げた。
携帯電話は新しいものを買い、古い携帯電話の電源は切った。
古い方を捨てる事は出来なかった。
必要最低限の物をトランクに詰め、どうしても捨てられない書籍類を実家に送り、慎吾が仕事に行ってる間に行方をくらました。
その後の俺は数日荒れた。
どうでもよくなった俺は、“アイツが結婚するなら俺もしてやる”とやけ酒した帰り道、閉店間際の喫茶店に入ってコーヒーを頼むと、コーヒーを運んできたのは中学の同級生だった友利志帆だった。
どうやら会社を辞めたばかりで、今は親戚がやってる喫茶店を手伝っているのだと話した。
一浪したから卒業したのは俺達の1年後なのだと話していた。
俺は酔った勢いで、
「友利、俺と結婚する気ない?俺、今作家なんだけど、意外と稼いでる。
お前を養うくらいは出来るぞ。
友利・・・俺・・もう死にたい・・・」
そこからはみっともない程泣いて、友利の叔父さんでもありマスターでもあるイケオジが店を閉めてくれて、友利とマスターはずっと俺の話しを聞いてくれた。
それからちょこちょこ喫茶店に通うようになり、友利にも会うようになった。
「友利…俺も結婚したい…そしたらアイツも俺に気兼ねする事もないし、俺だって結婚出来たぞって自慢出来るのにーーーー!
誰か名前だけでも貸してくれないかなぁ~」
「じゃあ私の名前貸してあげるよ、本田。
結婚式なんてしなくて良いし、寝室は別々、簡単に言えばシェアハウスに住んでる感じ?
私が就職するまでは生活費込みで面倒みてくれるなら、別に戸籍にバツが付こうが私は気にしないし、家事はそれぞれがやれば問題ないし、本田が納得するまで付き合うよ。
私も今は少し・・・のんびりしたいから…。
それに私も結婚しても良いかなって人がいたんだけど駄目になっちゃって、もう結婚なんてしないの、だから私からしたら渡りに船なのよ!」と熱弁をふるう友利。
喫茶店のカウンターで話していたから、それを聞いたマスターは、
「いやいや、そんな簡単に大事な事決めんな!本田君もヤケクソになるのはやめなさい!もっとちゃんと結婚相手は探しなさいよ、てか本田君の場合は結婚は難しいのかもしれないけど。」
マスターは俺が号泣した夜に、同性愛者だと話しているので、俺の事情も知っている。
そんな話しを一か月続け、マスターは折れた。
「もう、好きにしなさい!後悔しても遅いからね!」と半ば呆れていたが、俺達の入籍を認めてくれた。
そして俺の実家での親父との顔合わせ。
「あ、れ?蓮・・・女の子と結婚するの?」
と死ぬほど驚いている親父。
「蓮…アイツは?」と小声で聞いてきたのは隼ちゃん。
驚く二人を他所に友利が、
「孫をお見せ出来ませんが、私は蓮さんの事情も把握しています。どうか私達の結婚をお許し下さい」と頭を下げた。
親父はとりあえず詳しく話しをと、俺達をリビングに連れて行くと、親父に問い詰められた。
友利は隼ちゃんと一緒に食事の準備を手伝ってくれていた。
慎吾と別れた事。
慎吾に子供が出来た事。
今までも慎吾は何度か浮気はしていた事、
慎吾に同情されたくない事、
今後、慎吾には一切会いたくない事、
俺の居場所を絶対言わないで欲しい事、
友利とは、友利が新しい就職先が見つかって、生活が安定したら離婚する事を話した。
「はあーーーーお前達は仲良いし、相思相愛なのに慎吾はノーマルだからなぁ~俺達みたいに女性に目がいかない訳じゃないもんな…ま、俺達も相手が女じゃないだけで、浮気は何回かしたみたいだけどなアイツも。
それにしても結婚なんかする必要何処にあんの?寂しいから?まあ、お前達は年がら年中一緒にいたからな…リハビリ期間って訳か。
それは置いといて、志帆さんはちゃんと納得してるんだな?
後で揉めたりしないんだな!」
「それはないよ、どうせ1年位で友利も出て行くだろうし。」
「俺はね、俺のせいでお前にいらない苦労をかけさせた事、本当に申し訳なく思ってる。
隼也の事も慕ってくれて有り難く思ってる。
だから蓮が幸せなら良いと思ってた。
慎吾が蓮を大事に思ってるのは分かってたけど、まさか子供作るとは思わないわな…。
子供が欲しいって言われたら、俺らは引くしかない…。
お前がしようとしている事は、決して良い事ではないのは分かってるか?
本当なら大反対だ。
だが、お前はそうしなければ立ち上がれないほど、悲しいんだろ?
じゃあ次に進む為に、頑張れ。
父さんはいつでも蓮の味方だ。」
そうして俺と友利は形だけの結婚をした。
*************************
*結構ストックが増えたのでもう1話投稿しました。
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