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別名
しおりを挟むイレーネさんの呼び名が決まったお父様とお母様は、
「リリー、実はね、殿下から手紙が来ていてね、今日の夕方、リリーも王宮へ行かなきゃならないんだけど大丈夫かな?」
とお父様が言い、
「アランも私も一緒だから心配はいらないわ。なんだったら、あなたのお祖父様も連れて行くわよ、ねえアラン。」
とお母様。
「私は大丈夫だからお祖父様は連れて行かないで!面倒だから。」
「そうね、リリーが噛みつかれたなんて聞いたら、公爵家総出で王宮に来るわよね。」
とお母様が笑う。
笑い事ではない。
お祖父様はお父様の父である。
お父様の兄にあたる伯父様には息子しかおらず、私が生まれた時、公爵家は上へ下への大騒ぎだったらしい。(両親談)
そんな感じなので、私が噛まれたなんて知ったら、お母様が言った通りになってもおかしくはないのだ。
「ところで、殿下にはどうして呼び出されたの?昨日の事?」
「イランネ嬢の処分が決まったのだろう。ロイ君も呼び出されているから会えると思うよ。」
「イラネーさんはこれから大変だと思うわ。ま、自業自得だけれど!」
うん、すっかり「イランネ」「イラネー」が定着してるみたいだけど、殿下の前で口走りそうで怖い。
ロイも来るし、大丈夫かな、多分…。
それから私は、軽食を食べ、支度を始めた。
そして、王宮に向かった。
王宮に着き、三人は応接室に案内された。
部屋に入ると…。
お祖父様がいた…。
一瞬三人で固まったが、お父様が私を隠すように前に立って、
「父上、何故ここに?」
と言うと、
「陛下に聞いたらリリーが来るから、ここで待ってて構わないと言われたからだ!どけ、リリーが見えないだろ!」
「陛下に何の用があったんですか?あなた隠居したんでしょ?」
「なんでお前に言わねばならんのだ!邪魔だと言ってるのだ!リリー、おじいちゃんだよ。顔を見せておくれ。」
ズイっとお母様がお父様と並び、
「お義父様、お久しぶりでございます。
お義父様、リリーが怯えていますよ、さあ、座りましょう。」
と言ってソファに座るよう勧めて、ようやく座る事が出来た。
お祖父様が、
「リリー、首は痛くはないかい?ウチにはよく効く薬があるんだよ、おじいちゃんちにおいで。」
「お祖父様、どうして私の首の事をご存知なのですか?」
「リリー、おじいちゃんは知らない事なんてないんだよ。特にリリーの事は。」
「はいはい。」
「ところでアラン、クォーツ伯爵家はどうする?」
とお祖父様が急にお父様に話しを振る。
「どうするとは?」
「このままにする訳ではなかろう?どうケリをつけさせる?」
「ルイジェルド殿下が今回の件は、一任されていますから、殿下にお任せしますよ。
まだお若いですが、なかなか優秀ですよ、殿下は。」
「お前はほんとに甘いの~!賢いくせに、欲がない!没落するほど慰謝料むしり取れ!
可愛いリリーが、こんな姿にされて、お前は何とも思わんのか!この薄情者めが!」
いつまでも続きそうなので、
「お祖父様!いい加減にして下さい!そのような事ばかり言うのであれば、私はもうお祖父様とは口などききません!」
ピタッと止まったお祖父様は動かなくなってしまった。
つられてお父様も。
静かになったので、いつの間にか用意してくれたお茶をお母様と一口飲んだ時、
「ルイジェルド殿下が来られました。」
廊下の護衛の方の声かけの後に
二人が部屋に入ってきた。
「待たせて済まない。」
ルイジェルド殿下が疲れた顔で、向かい側のソファに座った。ロイは後ろに立つ。
私達は立ち上がり殿下に挨拶をした。
「アラン・ワソニック、ルイジェルド殿下に御挨拶申し上げます。」
お父様が最初に挨拶すると、
「あー堅苦しい挨拶はいい。座ってくれ。」
四人はソファに座った。
「忙しいところ申し訳ない。リリーナ嬢は怪我の具合は大丈夫か?」
「はい、問題ございません」と私が答えると、
殿下は安心したように頷いた。
「イレーネ・クォーツの処分が決定した。
もう少し時間がかかるかと思ったが、思いの外早く解決出来る事が出来た。
被害者である、リリーナ嬢、ワソニック伯爵家の皆に安心して貰いたく、こうして集まってもらったわけだ。
そこでだな、
実はクォーツ伯爵も呼んで両家立ち合いでと、今別室にクォーツ伯爵を待たせているんだが…」
と一旦言葉を切り、お祖父様を見た。
「キース殿が来ているとは思っていなかったのでな、どうしたもんかと悩んでいる。」
「恐れながら殿下に申し上げます。
私がいる事で何か不都合がおありですかな?
たまたま用事で王宮に来て、たまたま息子夫婦と孫娘も王宮に来ている、それならばついでに顔を見たい、滅多に会えない可愛い孫娘に会いたい、連れて帰りたい、と思って何か問題でもございますか?
それにたまたま聞いた話しによれば、可愛い孫娘が、恐ろしい事に女子生徒に襲い掛かられたなどと聞いたら、心配で側にいてあげたいと思って何が悪いのですか?文句ありますか、殿下。」
お祖父様は、早口で殿下を捲し立てている。
そして、たまたまを連呼している…
たまたまではないだろう、きっと。
いや、絶対!
「いやいや、そういう事ではなくてだな、キース殿がいると五月蝿いだろうなあ、長引くなぁと思って。」
確かに…五月蝿そう、お祖父様…
「殿下、大事な孫娘の為にという私になんて事を仰るのですか!分かりました、私は意地でもここを動きません!」
とお祖父様。
「お祖父様、長引くと首の傷が痛み出すかもしれません。お祖父様のところに後日遊びに行きますので、今日はお引き取り願えませんか?」
「リリーーー!おじいちゃんが邪魔なのかい?おじいちゃん、泣いてしまうぞ…」
「父上、リリーナもこう言っております、今日のところはお帰り下さい。」とお父様。
「お前には聞いとらん!でもリリーの傷に響いてはいかんから仕方ない。
今日は帰るとするか…
殿下、申し訳ございませんでした。
私はこれで失礼致します。」
と席を立ち、帰り際私の頭を撫でて出て行った。
「「「「「ハア~~~~~」」」」」
私、お父様、お母様、殿下、ロイの五人はお祖父様が出て行ってから、大きなため息をついた。
「リリーナ嬢、助かった。
父上からキース殿が来たと連絡を貰って、
すでに到着していたクォーツ伯爵を急いで、別の部屋に移動させたんだ。」
「さすが殿下です。父上がいたら話しがちっとも進まないうえ、クォーツ伯爵には何をするか分かりませんから。」
と殿下とお父様。
「あら!逆にいてくださった方が早く終わったかもしれませんよ、特にイラネーさんの存在自体が無くなったら、お金も時間もかかりませんもの。」
とお母様。
「ワソニック夫人、イラネーとは?」
お母様…口に出してしまいましたよ…。
ほら、殿下がキョトンとしています。
「マリア!名前を間違えるなんて失礼極まりないぞ。イランネ・クォーツ伯爵令嬢だ。」
「・・・・・イラネー…
イランネ…
イレーネ…
「「ブッ‼︎」」」
ん?一瞬ハモった?気のせい?
あ~あ、お父様も言っちゃった…。
殿下はツボにハマったのかまだ笑っている。
ここに来た時は疲れた顔だったけど、元気になったのなら、なによりだ。
「ハア~~~笑った!
では、イランナ嬢の父、クォーツ伯爵を呼ぼう。」
あ、別名、増えてる。
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