帰らなければ良かった

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番外編 奪還と返還〜エドワードの純愛

五年目の確認

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エドワード視点


ベルが修道院に行って5年。
逃げ出す事もなく一人黙々と作業をしていると報告を受けて、このまま刑期が終わるまで待つか、何か仕掛けるか、迷ってる。

俺もラルスも後身の育成に努める為に、ブライアンとシックスへの引き継ぎ業務に忙しく、ベルの事に時間をなかなか割く事が出来なくなっていた時、シシリーが俺に時間をもらえないかとの言伝があった。

何事かと思い、とりあえず仕事が終わってからなら大丈夫だと伝えてもらった。

昼食の為に食堂に行くと、シシリーが待っていた。

「エドワード団長、お昼ご一緒しても良いですか?」

「構わないが、ブライアンは良いのか?そろそろ来ると思うが。」

「ブライアンには団長に話しがあるから、お昼と夕飯は団長と食べると伝えてありますので、大丈夫です。」

「夕飯?執務室ではなく?」

「少し…長くなるのと、久しぶりに団長と飲みたいなと思いました。ラルス団長は行けたら行くとは行ってたのですが。」

「俺とラルスに話しがあるという事でいいか?」

「はい。」

「分かった。先ずは昼飯を食べよう。」

シシリーと席につき、食事をしながらシシリーは話しを始めた。

「団長、ベルの事で話しがあったんです…。」

「ちょうど良かった、俺もその事で話しがあった。」

「ならちょうど良かったです。昼間でも良かったんですが…なんて言ったらいいのか…。
今ここで話すと仄暗い感情のまま、息子に会いたくなかったんです…。
それにベルとは別の…少し聞いて欲しい事があるので…。」

「なんとなく分かったが…」

「うーーーーん、とりあえず夜お酒でも飲まないと話せないので後で話します。
じゃあ、団長、また後で!」

と言ってシシリーは行ってしまった。 


ラルスも来るなら、問題ないかと思い、その後はブライアンへの引き継ぎの為の仕事をこなした。

「そういえばブライアン、今日シシリーが酒でも飲みながら話しがあると言っていたが、お前は一緒ではないのか?」

「私はまだ仕事がありますし、とりあえずシシリーから聞いて下さい。
なんと言うか…とにかくシシリーから聞いてください。
団長と飲むのも久しぶりだろうから、シシリーも楽しみだと思います。
お疲れのところ申し訳ないですが、よろしくお願いします。」

「そうか…ま、次はお前と飲みに行こう。しばらく行ってなかったからな。」

「良いですね、楽しみにしています!」



そろそろシシリーとラルスが来る頃かと思っていると、

「エド、おつかれ~」

とラルスとシシリーが入ってきた。

ブライアンに先に帰る事を告げ、三人で帰る途中、ミッシェルとチャーリーがいた。

最近、二人は婚約したと聞いた時は、騎士団に激震が走った。

もちろん美形のミッシェルは人気があったが、なんでチャーリー⁉︎というのが大きかった。

だが、仲睦まじい様子を見て、皆、祝福している。

ミッシェルの俺への視線が、他とは違うのは気付いていた。
でもミッシェルは俺に対して部下として一定の距離を保ち、接していた。
だから俺も団長として接してきた。
それはシシリーに対してもだ。

ミッシェルがチャーリーと赤い顔をして、幸せそうにしている様子を見て、二人の幸せを祈った。

シシリーが声をかけ、二人を冷やかしている。

俺とラルスも二人におめでとうと声をかけて、その場を後にした。

前を歩くシシリーに聞こえないようにラルスが、

「俺はお前とミッシェルがくっつくと思ってたんだがな…」

「ミッシェルに俺は勿体ない。チャーリーなら幸せに出来るだろう。」

ラルスは黙ってしまったが、その後はシシリーを交え、ワイワイとお喋りしながら、ラルスが予約した店に行った。

その店は最近の騎士団の御用達の店で、客も団員が多い。
個室ではないが、奥には他からは見えないようになっていて密談にも使えるようになっていた。

その席に座り、適当に料理と酒を頼み、ある程度料理と酒を楽しんだ後、シシリーが話し出した。

「あの人が修道院に行ってから五年が経ちました。さすがにあの時ほどの憎しみは薄らいではいますが、全くなくなる事はないと思っています。
ブライアンの尊厳も返してもらうという事も諦めてはいません。
でも、どうしてもその方法が分かりません。でも、こうやってあの人の事をブライアンが考えている事が、やっぱり私は許せなくて…。
もう吐く事も身体が震える事も以前に比べたら少なくなりました。
けど全くなくなったわけではありません。
本当は早く忘れさせなきゃならなかったのかもしれないと思ってしまい、これからどうしていいのか分からなくてなってしまったんです…。」

「俺も一度二人に確認したいと思っていた。もし、もう関わりたくないというならシシリーとブライアンはこの件から手を引いた方が良いのではないかと思っていた。
今は大人しくしているが、修道院を出てから豹変する事もある。
だから俺は最後まで見届けるつもりだ。
二人はここで引いても誰も何も文句はないぞ。」

「俺ももうシシリーとブライアンはあの女と関わらない方が良いと思っていた。
俺とエドがきっちり最後まで計画は遂行するよ。まだエドには言ってないけど、俺の考えている方法は後五年はかかる。
だからこのやり方で二人が納得出来るのなら、後は俺達に任せて結果だけ報告するから。」

その後、ラルスが今後のベルへの対応を説明した。
憎悪の返還は、ベルの罪を暴露し、孤立し孤独な生活で完遂している為、後はブライアンの尊厳の奪還は、まあ簡単に言えばブライアンとの一夜の思い出を粉々に砕くだけ。
その為には今の段階でベルがブライアンをどう思っているかを確かめる必要がある。
そこで、刑期満了時、騎士団団長となったブライアンからの刑期満了の通知をベルに渡して反応を見、改心しているのであれば刑期満了後、自由となる。
ブライアンからの手紙に喜んだら、要注意。
それでも通知の内容をきちんと守れたら、しばらく監視は付くが、その後問題なければ放免。慰謝料も支払いが免除。
内容を守らず、ブライアンに接触を試みようとしていたら、違反として慰謝料の支払いの継続の為、娼館へ移送。その際、ブライアンの名前を出したら喉を潰す。

確かにこの計画を進めるなら後五年は頭からベルを締め出すのは無理だろう。

だったらもう一切から手を引くしかない。

この計画を聞いてシシリーは、

「その計画でお願いします。嫌な事を押し付けてしまい、申し訳ありません。」

と頭を下げた。



そして、次に驚くべき事を言った。

「実はもう一つ聞いて欲しい事があるんです…」

そう言って話し始めた内容に俺とラルスは口を開けた。

あの時、死んでしまったお腹の子が、ライールには見え、話している、という内容だった。

ある日、突然ライールが、自分には兄がいたのかと聞いてきた。
突然どうしたのかと聞くと、兄が今ここにいると、シシリーやブライアンに抱きついていて、顔はブライアンにそっくりなお兄ちゃんなんだと言ったそうだ。
そして、兄に名前をつけて欲しいとお願いされたと…。

「あのーそれは子供独特の妄想ではなく?」
とラルスが聞くと、

ライールは辺境伯領にいるキャシーの事も兄に聞いて知っていると言ったという。

「「マジか…」」

「それで、ライールが見えて、私達に見えないのはどうしてだろうとブライアンと話していて、私達にある悪いもののせいではないかと…。こんな変な話し信じてはもらえないとは思うのですが、私はあの子に会いたい…ブライアンに似た小さな男の子、私達の息子に会いたいのです…」

なるほど、これは酒でも飲みながらじゃないと、話せないだろうと思った。

「じゃあそんな可愛い子に汚いものは見せちゃいけないね。シシリーとブライアンは今後一切あの女には関わらない事!
これは決定事項ね。
うわぁ~俺も会いたいな~ちびっ子ブライアン!」

「俺も会いたい。無愛想ではない愛らしいブライアンに。」

その後はちびっ子ブライアンの話しで盛り上がり、閉店間際にブライアンが迎えに来てお開きになった。


あの時の子が、キャシーの祈りによって形を得、家族に会いに来たなんて、小説のような話しだが、それでも二人に恨む事なく両親や弟を見守っている少年を思うと、俺の仄暗い部分も少し浄化されたような気がした。












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