84 / 102
番外編 辺境伯の小さなお墓
ぼくはライール
しおりを挟むぼくの名前はライール・ハワード。二歳。
父さまと母さまは騎士団の騎士で、父さまはカッコよくて強くて、母さまはキレイで強くて、ぼくの自慢なのです。
父さまも母さまも、お仕事で昼間はお留守番です。
おじいちゃまとおばあちゃまのお家でお勉強をしたり、剣の稽古をしたり、お迎えがくるまで良い子で待ってるのです。
一人で絵本を読んでいる時やお昼寝して目が覚めた時、父さまが小さくなったみたいなお兄ちゃまがニコニコしながら僕を見てる時があります。
今、絵本を読んでいる僕の前にそのお兄ちゃまがいつのまにかいました。
「お兄ちゃまは誰でちゅか?」
ニコニコして僕を見ています。
そして、少しフワフワしています。
「ライール様?」
僕のお世話をしてくれるターニャが不思議そうな顔をしています。
『僕の事はライールしか見えないんだよ』
「ターニャには見えないのでちゅか?」
『そうみたいだね。ずっといたけど、誰も気付かなかったみたい。だから、秘密にしてくれる?』
少し離れて立っているターニャを見ると、キョロキョロしながら
「ライール様、どなたとお話しされているのでしょうか?」と聞いてきたので、
「絵本を読んでみまちた。ターニャ、ビックリちゃせてごめんなちゃい。」
「いえ、絵本のお話しだったのですね。どうぞ、お声に出して読んでください。」
ターニャをビックリさせてしまうから小さい声でお兄ちゃまと話しましょう。
「お兄ちゃま、ちいちゃい声でお話ち、ちてもいいでちゅか?」
『少しならいいよ。あまり、長い時間は話せないんだ。』
「お兄ちゃまは誰でちゅか?」
『僕はライールのお兄ちゃん。』
「お兄ちゃまは僕のお兄ちゃんなのでちゅか?」
ビックリしました。
『もう時間かな。またね、ライール。』
「またお話ちできまちゅか?」
『うん』
フワフワしていたお兄ちゃまは、スゥーっと消えてしまいました。
お部屋をキョロキョロして探してもお兄ちゃまはどこにもいません。
とっても優しそうなお兄ちゃまでした。
本当にお兄ちゃまが“お兄ちゃん”だったら良いなぁと思います。
次に会った時は、たくさんたくさんお話ししたいなあ。
あ、お兄ちゃまのお名前を聞くのを忘れてしまいました!
次は聞いてみます!
でも父さまと母さまの子供は僕しかいないのに、お兄ちゃまは僕の“お兄ちゃん”ってどうしてだろう…
父さまと母さまに聞いていいかなぁ…
お兄ちゃまに聞いてからの方がいいかなぁ…
「お兄ちゃま…父さまと母さまにお兄ちゃまのことを聞いてもいいでちゅか?」
見えないけど、側にいるかもいれないので小さな声で聞いてみました。
『・・・いいよ』
やっぱり近くにいるんだ!
「お兄ちゃま、ずっと側にいる?」
『見えないけど、側にいるよ。でも、ライールが一人の時にお話ししようね、みんなをビックリさせちゃうから。』
「分かりまちた!」
『良い子だね。約束だよ。』
「やくそくでちゅね。」
お兄ちゃまと約束しました。
今はターニャがいるから、一人の時にまたお話ししましょう。
お兄ちゃまと約束してからは、母さまがお迎えに来るまで、おばあちゃまとお菓子を食べたり、剣のお稽古をしました。
「ライール、ただいま。良い子にしてた?」
「母ちゃま!おかえりなちゃい!」
すぐ母さまにお兄ちゃまの事を聞きたかったけど、お家に帰るまでがまんします。
おばあちゃまがビックリしたら大変だから。
前にかくれんぼでクローゼットの中に隠れていたら、おばあちゃまが知らないで開けちゃって、『キャーーーーーー』って言った後、後ろに転んでしまったの。
その後、コシをゴキってやってしまったとかで、大騒ぎになって、母さまにたくさん怒られて、たくさん泣いてしまったから…。
お家に帰って、母さまがご飯を作っている時に父さまが帰ってきた。
ご飯を食べている時に、
「父ちゃま母ちゃま、僕にはお兄ちゃんがいまちゅか?」
「「え⁉︎」」
「今日、お兄ちゃんとお話ち、ちまちた。父ちゃまにちょっくりのお兄ちゃまが、ぼくのお兄ちゃんだよって。」
僕はたまに姿が見えていた事、今日初めてお話しした事、父さまと母さまにお兄ちゃまの事を聞いてもいいか聞いたら良いよって言った事を父さまと母さまにお話ししました。
母さまの目からポロポロと涙をながしています、大変です!
「ごめんなちゃい、母ちゃま、泣かないで!」
父さまを見ると、父さまも泣きそうな顔です。
どうしよう、僕、母さまと父さまを悲しい顔にしてしまいました…
「お兄ちゃま…僕…どうちよ…」
『ごめんね、ライール。ライールは悪くないよ。ちゃんと僕がライールにお話ししてあげたら良かったね。』
「お兄ちゃま、母ちゃまが泣いていまちゅ…」
母さまを見ると、お兄ちゃまが母さまに抱きついていました。
さっきまで見えなかったのに、今は見えます。
「母ちゃま、お兄ちゃまが母ちゃまに抱きついていまちゅ。だから泣かないで。」
母さまと父さまがビックリした顔で僕を見ます。
「ライールは何か見えているのかい?」
「今は見えまちゅ。ちいちゃい父ちゃまみたいな顔のお兄ちゃまが今は父ちゃまに抱きついていまちゅ。」
そう言ったら今度は父さまが泣いてしまいました。
母さまもまた泣き出して、それを見た僕も泣いて、ご飯どころじゃなくなってしまいました。
お兄ちゃまはいつの間にかいなくなっていました。
108
お気に入りに追加
4,245
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」
先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。
「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。
だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。
そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる