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不思議な感情
しおりを挟む今日も尋問の録音を聞いている。
団長とラルス団長が後ろに付いていてくれている。
最初にスーザンのを聞いた。
脅迫されていたとはいえ、私を殺そうとした。そして、死んでしまった。
寝ている間に起こった事だからか、この人に対しては怒りはない。
どうして?とは思う。
死んでしまうほど悔やむなら、やらなければ良かったのに…。
でも、その時は母親を助ける事しか頭になかったんだろう。
なんとか他の人に気付いてもらおうと短い時間に色々やったんだろうが、だったら先生に言えば良かったのにと思ってしまう自分は、冷たい人間なんだろうか…。
スーザンに対しては、誰かに相談さえすれば良かったのに、それだけだった。
次にキャシーの録音を聞いた。
最初はブライアンを好きなフリをしていたが、結局は騎士になれなかった事が原因だっただけだ。
妬みや僻みもあったんだろうが、それほど騎士になりたかったんだろう。
僻まずにはいられないほど、父親と同じ騎士になりたかったその人は、憧れの制服を着て、楽しそうに笑っている私を咄嗟に刺した。そして、私達の子供を殺した。
許せないが、彼女はそれほどまでに憧れた騎士に囲まれ、毎日その制服を洗濯させられている。気の毒に思えるほどの罰だ。
それも私の実家でだ。
少しでも、伯父様や兄様の姿を見て、騎士とは何かを感じ取ってくれたら良いなと思う。
何故か彼女を憎めない。
何故だろう。
彼女さえ刺さなければ私とブライアンの子供は今でもお腹の中にいてくれたのに、不思議とベルのように憎いとは思わない。
私も父とも言える伯父様の姿を見て育ち、騎士になろうと決めて、ここまでになった。
彼女の父親も、皆が憧れる近衛騎士だ。
自慢の父のようになりたかっただろう。
ならなければと思っただろう。
私は時間がかかっても、と思えたが、
彼女は最短でなりたかった、その違いだけだと思う。
だから、せめて辺境伯領の騎士を見て何処で間違えたのか気付いてやり直してほしい。
最後はフランシスだ。
この人はナタリアと同じで、熱狂的なブライアンのファンだ。
そして、母親はジュリアーナ、慕っていたのがナタリア。
あの人を母親に持ってしまった時点で詰んでいる。そして、懐いてしまった相手がナタリアだ。なるべくしてなった、それだけだ。
この人も私が邪魔だっただけだ。
媚薬を使ったのはどうかと思うが。
彼女は今、干ばつで苦しんでいる地域で、たった一人で井戸を掘っている。
だが、今は協力してくれる人がチラホラいるらしい。
あのお嬢様が穴を掘り続けているのが信じられないが、毎日一日中掘ってるらしい。
文句も言わず。
今回の事で何か思う所があったんだろう。
少しでも改心してくれたらと思う。
それだけだ。
全てを聞き終わって、団長達に言った。
「全て聞きました。
スーザンはただ誰かに相談すれば良かった。
キャシーの事は何故か憎めませんでした。
不思議ですが。
伯父様の所で少しでも騎士とは何かを分かってもらえたら良いなと思います。
フランシスは、あの母親からではなく別の人が母親なら良かったんだろうなとしか思いませんでした。
今、真面目に井戸を掘っているならこれ以上の罰は必要ないと思っています。
何か変わったのなら、真面目に勤め上げた後は平穏に暮らして欲しいです。
最終的にベル以上に憎んでいる人はいませんでした。」
「そうか。今だから冷静にそう思えるのだろう。」
「そうだと思います。」
「元凶のジュリアーナよりも、シシリーはベルが一番許せないって事だね。」
「はい。それは何年経っても変わらないと思います。
あまり良い感情ではないので持っていたくはありませんが、時間が経って、もう良いかな、なんて思いたくないので返すその時まで大事に持っています。
なんか不思議な感情ですが。」
「良いんじゃない?俺達もそうするよ、きっちり返済するまで大事に持ってよう。」
ラルス団長がそう言ってくれた。
あの吐き気がするほどの出来事は私の中にしっかり存在しているが、きちんとラッピングしていつでも渡せるよう準備が出来た。
もう溢れ出す事はないだろう。
そして、
「ねえ、シシリー、どうやって返品する?」
楽しそうにラルス団長が言った。
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