帰らなければ良かった

jun

文字の大きさ
上 下
60 / 102

復帰祝い

しおりを挟む


刺されたあの日から一週間後には、我慢すれば痛みも大した事はなかったのに、目を離すと素振りをしそうだと言われ、三週間後になってしまった。

見つからないように、腕立て、腹筋、素振りをしていたおかげで、フラフラする事もない。


休んでいた間にあったすべての案件の調書を少しずつ読んだ。

ブライアンが心配して、少ししか読ませないから。
でも、ブライアンがいない時に一気に読んだ。


私が休んでいる間の逮捕者の数に驚いた。
イザリス公爵家の使用人やパブロフ商会、だけでも相当数だ。
そして、フランシス様やイザリス公爵夫人、私を刺したファンハイド卿の御息女、キャシー・ファンハイド。
彼女は辺境伯、私の伯父の所に幽閉となった。

キャシー・ファンハイド。

私は覚えている。
入隊試験の時、会場で見かけた。
実技試験の前にはいなくなっていた。

彼女はファンハイド卿の娘で、剣の腕もなかなかと聞いていた。

合格していたら、ミッシェルのように同期として仲良くやれていたかもしれない。

彼女は合格出来なかったのか騎士団にはいなかった。

それっきり忘れていた。


それが今になって何故?と思った。


逆恨み…なんだろう。

許しはしない。

けど、騎士になりたかったという気持ちは分かる。
父親はあのファンハイド卿だ。
私も伯父の姿を見て、騎士になったのだ。
あのファンハイド様を見てきたのなら、何故こんな事を…と思ってしまう。


フランシス様は、母親とナタリア様に狂わされてしまった。

純粋にブライアンの事が好きだったんだろうが、幼い時からの母親からの歪んだ愛情や、父親からの愛情が貰えなかった事で、どう人を愛すればいいのか分からなくなってしまったのかもしれない。

ナタリア様のブライアンに対する執着は私の想像を遥かに超えていた。

思い出したくないあの日の張本人のベルは修道院に行った。

ハア~なんか暗くなっちゃうなぁ…。


でも、私が休んでる間、みんなはその暗い澱んだ空気の捜査をしていたのだ、私が暗くなっていては申し訳ない。

「シシー、どうしたの?ため息なんかついて。」

いつの間にか来ていたブライアンが、私を抱きしめて、聞いてきた。

「いつ来たの?分からなかったよ。」

「たった今。そしたらシシーがため息ついてた。」

「ちょっと調書読んでたから疲れちゃったかな。」

「そっか。無理しないでね。
さあ!みんな待ってるよ、行こう!」

「うん!」

そう、私の復帰祝いを食堂でやってくれるそうだ。


最近はちょこちょこと団員のみんながお見舞いに来てくれていたが、ブライアンに気をつかい、皆あまり来れなかったのだとか。

と、ヤコブが言っていた。

ガース先輩は、ブライアンがいる時によく来てくれていた。

ガース先輩は、ブライアンが唯一気楽に話せる先輩だ。

穏やかで、いつもニコニコしているが、剣を持っている時と、他人を貶めるような悪口を聞いた時は、団長並みに怖い。
裏表のない尊敬出来る先輩であり、お兄ちゃんのような人だ。

ガース先輩は、ブライアンの扱い方が雑でそれが面白い。
ブライアンもそれが良いのかもしれない。

早く早くと私の腕を引っ張るブライアンは、小さな子供のようだ。

普段は仏頂面なのに。

食堂に着くと、

「「「「「オオオオオオオオーーーーーーー」」」」」

と歓声が上がった。

イーグルの人達もいる。


「シシリーが今日から復帰となる。
色々大変だったが、なんとか乗り切った。
今日は無礼講だ!飲んで食べて、シシリーの復帰を祝おうーーー!」


「「「「「オオオオオオオオーーー」」」」」





こうして宴が始まった。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea
恋愛
侯爵令嬢のフィオナは、取り立てて目立つところの無い平凡令嬢。 仲の良い家族を見て育った事もあり、昔から素敵な恋に憧れていた。 そんなフィオナの元にある日舞い込んだのは、公爵令息ダーヴィットとの縁談話。 平凡令嬢の自分に一目惚れしたなどと彼は言っているけれど──…… (ちょっと胡散臭い気がするけど、もしかしたら、これが素敵な恋になるかもしれない) そう思って婚約することにしたフィオナ。 けれど、そんなある日、ダーヴィットが自分のことを『便利な女』だと仲間内で嘲笑っている所を聞いてしまう。 (違う! 私の素敵な恋の相手はこの人じゃない!) 色々と我慢出来なくなったフィオナは婚約解消を願い出ることにした。 しかし───…… ✿“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~ ──こちらの主人公の娘の話です。 ✿“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~ ──こちらの主人公の孫の話です。 ※過去二作は読まなくても、特別問題はありませんが、一読して頂けると、 この家系の血筋による最初の男運の悪さがよく分かります。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

身分を捨てて楽になりたい!婚約者はお譲りしますわね。

さこの
恋愛
 ライアン王子には婚約者がいる。  侯爵家の長女ヴィクトリアと言った。  しかしお忍びで街に出て平民の女性ベラと出あってしまった。  ベラと結婚すると国民から人気になるだろう。シンデレラストーリだ。  しかしライアンの婚約者は侯爵令嬢ヴィクトリア。この国で5本指に入るほどの名家だ。まずはヴィクトリアと結婚した後、ベラと籍を入れれば問題はない。  そして結婚式当日、侯爵家の令嬢ヴィクトリアが来るはずだった結婚式に現れたのは……  緩い設定です。  HOTランキング入り致しました‪.ᐟ‪.ᐟ ありがとうございます( .ˬ.)"2021/12/01

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

処理中です...