帰らなければ良かった

jun

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閑話 コック長の楽しみ

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俺は騎士団の食堂のコック長だ。
騎士団の、と言っても王宮に勤めていれば誰でも食べに来れる。
だが、ほぼ騎士団の人間しか来ない。
その理由は、ファルコン騎士団のブライアンのせいだ。
ブライアンが入団してから、女性客が殺到し、騎士団の団員が入れなくなってしまってからは、女性職員は別の食堂のみの使用になった。

なので、この食堂は厳つい男どもが肉ばっかり食べている。
女性騎士もいるので、多少は肉以外の魚や野菜、パスタやサンドイッチもある。
そしてスイーツもある。

俺は甘い物が大好きだ。
だから、スイーツは真っ先に作れるようにと頑張った。
ついでに他の料理を作っていたらコック長になっていた。

なのに!

ここは肉ばっかり食べやがる男しかいない!

女性騎士のシシリーやミッシェルは、太るからとあまり食べない。

おいおい、お前らの運動量があれば甘い物は逆に食べろよ!と思うが、

「ヤーダー、コック長、乙女心が分からないとモテないよ!」とほざきやがる。

お前らのどこが乙女なんだよ!
お前らこそ、肉ばっか食ってるから彼氏出来ねえんだよ!美人のくせに!

その後、シシリーは彼氏出来たけど…。

そう、シシリーの彼氏は、有名な、あのブライアン。
それもブライアンがシシリーを溺愛している。
ま、お似合いなのだが。

そのブライアン、俺はコイツが好きだ。
かなり気に入っている。

何故なら、この男、甘い物好きなのだ。

必ずスイーツも頼む。

特に苺ショートケーキが大好きだ。

何か良い事や特別な日には必ず食べる。

お気に入りのそのケーキを食べている時のブライアンは、それはそれは可愛らしい。

周りも気付いている、“可愛い”と。

だが、男の友情なのか誰一人それを言ったことはない。
ブライアンと一緒に食事をしている、エドワードやガース、ラルス、シックス、ヤコブもニヤニヤして見ているだけだ。
ブライアン本人はそれに気付いていない。

苺を見つめては、ふわぁっと微笑み口に入れ、ケーキを一口入れては、ホゥーっと微笑む。
それを周りの男達はニヤニヤして見ている。

俺もその一人だが。
ブライアンは俺が欲しいリアクションをしてくれる。
あまりの美味しさに目を見開き、食べれば幸せそうに微笑む。

ナニアレ?少女なの?

全員が思っているだろう。

そして、ブライアンはとんでもなくおっちょこちょいだ。

カトラリーを間違えるのは、しょっちゅうだ。

この前、大好きなケーキを食べようとしているブライアンを見た。
ブライアンはスプーンを持っていた。
まあ、スプーンで食べられない事はない。
だが、最初に口に入れようと選んだのが苺だった。
ブライアンはフォークを持っているつもりだから躊躇うことなく苺を刺した・・つもりだったのだろう。
見事に苺はケーキに沈んだ。

その時のブライアンの顔を見た俺を含めた団員達は、悲壮感漂うブライアンに笑うに笑えなかった。

エドワード、ガースは肩が震えていたが。

あまりに可哀想なブライアンを見ていられず、俺は沈んだ場所に新しい苺をのせ、フォークを渡した。


そこで食堂は爆笑の渦になった。

たった一人ブライアンだけは、満面の笑みだったが。


俺はこの時間が大好きだ。












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