42 / 102
愛おしい
しおりを挟むブライアン視点
押収品を精査し、使用人達の聞き取りをしている時、医務室から連絡があった。
シシリーが目覚めたと。
一緒にいたミッシェルが、
「早く行ってあげて!」
と言われたと同時に走り出した。
シシリー、シシリー、
その名をずっと頭の中で呼び続け、医務室に飛び込んだ。
「何事だ!」
と先生が走ってきた。
「先生、シシリーが目を覚ましたって!」
「ブライアンか。一時間程前に目覚めた。」
「どうして、すぐに教えてくれなかったんですか!誰も側にいなかったのに!」
「落ち着け!」
「先生!」
「いいから、落ち着け。
シシリーは泣き疲れて眠ってる。」
「え…」
「わしがシシリーが寝ている間に合った事を話した。そして、子供の事を話した。」
「どうして⁉︎どうしてシシリー、一人の時に言ったんですか!俺に連絡してくれたら一人でなんて泣かせなかった!」
「お前がいたらシシリーは泣けないと思ったからだ。」
「なんで…」
「お前がいてもシシリーは泣いたとは思う。だが、お前の悲しむ姿を見たら、きっとシシリーは全部は吐き出さなかっただろう。
だから、お前が来る前に話した。
シシリーは泣いて、怒って、悲しんだ。
そして、お前に会いたいと言って眠った。
一番最後にお前を想って眠った。
だからきっと、シシリーは立ち直れる。
目覚める時、側にいてあげて欲しいが、今はそれどころではないのだろう?
だから今だけ側にいてやりなさい。
もし、目覚めたら、二人で泣きなさい。」
「先生…」
「さあ、行ってあげなさい。」
「はい、ありがとうございました…」
シシリーの眠る部屋に入る。
ベッド横の椅子に座り、シシリーの手を握る。
ホントだ…泣いた後がある…
シシリー、側にいてあげられなくてごめんな…
一人で泣かせてごめん…
でもきっと先生の言う通りだっただろう。
シシリーと一緒にただ泣くだけの俺を見て、シシリーは“自分は大丈夫だから”と、
“気付かなくてごめん”ときっと謝るだろう。
俺もたくさん泣いたよ。
ラルス団長に泣かされたんだ、ラルス団長も子供を亡くしたそうなんだ、その話しをしてくれた、辛い話しなのに。
ミッシェルは泣きすぎて人相変わってたよ。
シックス副団長が俺達の為に泣いてくれたそうだ。
シシリー、だからシシリーもたくさん泣いていいんだからね。
シシリーは何も悪くないから、謝らないでね。
眠るシシリーに話しかけていた。
すると、シシリーの目から涙が溢れていた。
「シシリー?」
「ライ…会いたかった…」
「シシリー、シシリー、シシリー!」
と怪我に触らないように抱きしめた。
「ライ、やっぱり謝っちゃう…ごめんね、赤ちゃん…死なせちゃった…」
「シシリー、違う、シシリーのせいじゃないよ、あんなに近くに居たのに助けられなかったのは俺だよ、だから俺達二人、親のせいって事にしたらいいよね…」
「うん、私達のせいだね…赤ちゃん…の…為に・・泣いて…いい…?」
「うん、いいよ、俺も泣いていい?」
「うん…一緒に・・・泣いて…」
そして二人で抱き合って泣いた。
先生の言う通りだ。
先生が先に話してくれたから、こうしてシシリーと赤ちゃんの為に泣けるのだ。
シシリー…俺の大切で愛しい人。
そしてシシリーのお腹からいなくなってしまった君、いつか二人の愛おしい子として戻っておいで。
118
お気に入りに追加
4,245
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」
先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。
「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。
だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。
そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる