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そろそろ俺の出番
しおりを挟むラルス視点
この数日のバタバタをなんとかしないとと思っていた矢先、シシリーが刺されたとの報告が入った。
なんなんだよ、一体!
とにかくファルコン騎士団のエドワードの所に行かないと!
アイツ多分キレまくってる!
急いでエドの執務室へ行けば、案の定殺気立っていた。
顔は悪鬼のようになってるし、ソファに座ってる女の子達は気絶しそうだ。
とにかく少し休ませようと思っても、エドの怒りは収まらない。
とにかく彼女達から話しを聞いて、シシリーに付いてるブライアンの様子を見に行けと言ったら、ようやく落ち着いた。
どんだけ可愛がってんだよ。
誰とも連まず、女性は敵だみたいに近付けないし、笑いもしない、休みもしないブライアンをエドが放って置けなかったのも分かる。
俺もエドに付いて歩くブライアンは、迷子の子供がやっと安心出来る大人に会えて、必死に離れないように付いて行ってるように見えて、可愛く思っていた。
本人に言ったら怒るだろうから言わないが。
だからエドがキレるのも分かる。
それに俺も実はキレている。
来月からは俺の下でバリバリ働く予定だったシシリーが刺されたのだから。
シシリーの噂はイーグルまで届いていた。
美人だという噂よりも、シシリーの強さに皆、興味津々だった。
こちらに慣れるためにイーグルに出向していた時は、みんなシシリーに一戦申し込んでいた。
シシリーは喜んで相手をしていて、驕る事もなく、謙遜し過ぎるでもないシシリーを、男女問わず好きになっていっていた。
その最中のコレだ。
イーグルの奴らも殺気立っているはずだ。
こんなバカな事をするのは誰だと思ったら、
ファンハイド卿の娘とは…。
キャシー・ファンハイドの尋問はエドがやったが、これが圧巻だった。
基本、エドは穏やかな男だ。
女性に対しても丁寧に対応する、いや、していたはずだ。
なのに目の前のエドとキャシーのやり取りは、チンピラ相手のやり方だ。
キャシーに反論を言わせないように、キャシーが答えるであろう事まで自分で言っている。それもブチギレながら。
一人語りのお芝居の如く、目の前で繰り広げられるキャシーの心の奥底にある感情や隠していた思いをズバズバ言って、暴いていく。
こぇ…。
そしてキャシーはすべて晒され、エドによって暗く汚い隠していたものを浄化されて、最後はお辞儀までさせて尋問を終わらせた。
そして今、そろそろ俺の出番かなと思い、フランシス・イザリス公爵令嬢の取調べの為、フランシス嬢の目の前に座っている。
キャシーの尋問をした日の午後、シシリーの容体が安定した報告をうけ、安心したが、いつ何があるか分からないからと、シシリーに媚薬を盛ったフランシス嬢の聴き取りをそろそろ始めようという事になった。
そこへブライアンの兄、ニール殿が今までナタリアがやってきた事の証拠になればと沢山の記録や音声、領収書等を提出してくれた。
いつかブライアンの役に立つと思って、だそうだ。
この兄はブライアンの為だけにナタリアと結婚したんだとか。
どんどけ弟、好きなんだよ。
ま、あんな美人な弟だったら赤ちゃんの時も尋常じゃないほど可愛かったんだろう。
メロメロだったんだろうな。
とにかく提出された沢山の証拠となりうる物を精査していった。
そして、フランシス嬢とナタリアの会話の録音を聞いて、三人が固まった。
“フランシス、そんなにブライアンが好きなら奪ってしまえば良いんじゃない?
シシリーにはカール副リーダーやエドワード様がいらっしゃるもの、ブライアンを貰っても気にしないわ。
なんなら既成事実を作ってしまったら?
それか、シシリーが他の人を選べば良いんじゃない?
例えば…媚薬でカール副リーダーかエドワード様に抱いてもらうとか、ね?”
“そんな…事…出来ません…”
“別に貴女がいいなら私は良いけど、もし気が変わって媚薬が欲しくなったら、ここに行ったらいいわ、ここなら私の名前を出せば買えるから”
“・・・・・・”
“応援してるわ、フランシス”
しばらく沈黙した後、
「ここってどこの事だ。」
「ナタリアの名前を出して媚薬が買える店…」
「もっと何か別の日に言ってるかもしれません。手分けして聞いてみましょう。」
俺とエドとミッシェルの三人で録音されたナタリアの声をひたすら聞いた。
この女、最悪だ。
こんな女に子供の時から付き纏われていたらそりゃ女嫌いにもなるわ。
ブライアンを心の底から気の毒に思った。
「これだ」
エドがそう言って、俺達にそれを聞かせた。
“エマ、パブロフ商会に行って、いつもの薬を買ってきて。きちんと領収書ももらってきなさいよ!ちゃんと頭痛薬って書いてもらいなさいよ!さあ、早く行ってきて!ユーリが帰ってきちゃうから”
“もう、使えない子ね!それにあれを使わないとユーリなんて私を抱かないんだから!”
そして三人で領収書の束の中からパブロフ商会の領収書を探した。
百枚以上の領収書を見つけた。全部“頭痛薬”。
金額からして一カ月に一度、一箱十本入りほどの物を買っている。
そして避妊薬も。
何枚か商会側が間違えたのか、“頭痛薬、避妊薬”と書いてあるものがあった。
夫に媚薬を飲ませる妻…ブライアンに執着してるわりには兄貴に抱いてもらいたい心境が分からない。
これでフランシスにどこの店を紹介したのかが分かった。
ミッシェルとイーグルの副団長、シックスの二人でパブロフ商会に行ってもらい、フランシスが買った日にちと買った商品の確認が取れたら、その足でイザリス公爵家に行き、フランシスに媚薬使用の容疑で騎士団まで同行してもらうよう指示を出した。
「二人が戻る前に、医務室に行かないか?」
とエドが言うので、二人で医務室に向かった。
「ブライアン、大丈夫か?」
エドがブライアンに声をかけると、寝ているシシリーの手を握りながら、
「俺は大丈夫です。取調べは終わったんですか?」
「ああ、とりあえず終わった。シシリーはどうだ?」
「今は安定しています。後少しで刃先が心臓に達していたそうです…。危なかった…。」
「そうか。シシリーを刺した女は、キャシー・ファンハイド、ファンハイド卿の娘だった。入隊試験でシシリーに下剤を飲ませようとして受験資格をなくして、シシリーを逆恨みしていたようだ。」
「シシリーは何もしてないじゃないですか!」
「そうだ、シシリーは何もしてないし、存在も知らなかったと思う。」
「そんな事で!絶対許さない…」
「ブライアン、とりあえずエドがきっちりその女を締めた。まだ尋問は終わってないから、まだまだあの女は寝られないだろうな、凄かったぞ、エドの尋問。後で録音したの聞いてみろ。俺でさえ、ちびりそうだったわ。」
「そう、なんですか?」
「俺は普通だったんだが、ミッシェルもラルスも怖い怖い言うんだ。
いつもは俺よりお前の方が尋問は怖いのにな。」
「フフ、なんとなく想像出来ます。ありがとうございます、団長」
ブライアンが優しく笑った。
エドとシシリーがこの男を普通の男にしたのだな…と思ったら、なんだか泣きそうになった。
歳を取ると涙腺が緩くなる。
「あれ?ラルス団長、大丈夫ですか?
あ、ラルス団長、今回、色々ご迷惑おかけし、申し訳ございませんでした。
副団長の俺が率先して動かなきゃいけないのに、本当に申し訳ありません。」
「いやいや、ブライアンは被害者でしょ?
謝る必要なんかないから。
それにファルコンと合同捜査してるみたいで嬉しいよ、俺は。
今まで合同捜査なんてした事なかったからね。」
「シシリーの目が覚めたら俺もやれる事をします。媚薬の件は関係者なので出来る事が少ないかもしれませんが、シシリーの事件は参加させて頂きたいです。」
「そうだ、ブライアン、シシリーに媚薬を盛ったフランシス・イザリスを連行する事になった。ニール殿がナタリアの悪事の証拠をごまんと持ってきてくれた。」
「兄さんが?」
「ああ、ナタリアが何かやった時に役に立つだろうって、結婚してからナタリアの日常の会話を録音してくれていた。」
「兄さん…」
「だからナタリアもこれで逃げられない。
フランシスも追い込まれた。一気に片をつけるぞ、ブライアン。」
「待て待て、俺もいるんだから参加させてよ。フランシス嬢の取調べ、俺にやらせてくれる?俺、エドに負けないよ。」
「俺は良いが、ブライアン、どうする?」
「同席させてくれるなら、構いません。
逆にラルス団長にご迷惑になるのでは?フランシス嬢は…「良いの良いの、俺、あの子嫌いだから。」」
そして、俺はフランシス・イザリスの目の前に座っている。
さて、フランシス、始めようか。
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