帰らなければ良かった

jun

文字の大きさ
上 下
20 / 102

突然

しおりを挟む


ミッシェルが作成した調書を読み、問題ない事を確認した後、団長の執務室に戻った。

団長とブライアンが雑談しながら私を待っていてくれた。

「すみません、お待たせしました。」

「いや、俺達もさっき終わったところだ。
シシリーは問題なかったか?」

「はい。ミッシェルの調書に問題はありませんでした。
でも、ヤコブが今回の事で副リーダーを辞退したいと言ってきました。
なんとか納得させましたが、団長からも少しヤコブと話してもらってもいいですか?」

「分かった。後でヤコブと話してみよう。
ヤコブが今回の件に関わってなくて良かった。多少ナタリアに話してしまった事もあるが、問題ない程度だったようだし、副リーダーにしても問題はないだろう。」

「私もヤコブには問題ないと思います。
ですが、やっぱり気にしていて…。
カールの事も気にしていました…。」

「カールか・・・・。
カールの話しも聞きたいんだがな…。」

「カールはまだ意識は戻らないんですか?」

「まだだ。血を流しすぎた。体力があったからなんとか持っているが、いつ容体が急変してもおかしくないらしい。」

「そう…ですか…」


あの日、ブライアンと一緒に手を繋いで帰る途中、カールに会った。
カールを見たのはあの時が最後だ。

あの時、カールの態度は変だった。

カールがどんな顔をして話していたのか覚えていない。
どんな顔で私達を見ていたのだろう。
最近カールを飲みに誘っても断られることの方が多かった。
忙しいからという理由に、疑問も思わず、鵜呑みにしていた。
カールが忙しいなら私も忙しいはずなのに。

浮かれていた私を、カールはどんな顔で見ていたのだろう。
毎日カールは私と一緒に仕事をして、他愛のない会話をして笑っていた。

ランチや飲み会をどんな気持ちで断っていたんだろう…
なのに私はしつこく誘っていた…。

大事な友達を苦しめていたのは自分だった。



「シシー、大丈夫か?」
ブライアンが心配そうな顔で聞いてきた。

気を取り直し、

「大丈夫。それよりブライアンは大丈夫だった?気分悪くならなかった?」

「シシーも団長と同じ事を言うんだな、俺は大丈夫だよ。」
とブライアンは微笑んだ。

顔色も悪くない。
良かった。
改めて文章にされて今回の事を一から確認するのは正直辛かった。
でも、ミッシェルが言葉を選んでくれたおかげで、生々しい行為を想像する事はなかった。
きっと団長もそうしてくれたのだろう。
二人の優しさに感謝した。

「じゃあラルスの所に行こうか。」

「団長、俺も行って良いですか、挨拶しておきたいです。今回の事で俺が一番迷惑かけているので。」

「そうだな、ラルスもお前の事を気にしていた。
顔を見せておいた方がいいだろう。シシリーはそれでいいか?」

「私はブライアンが良いのであれば大丈夫です。」

「じゃあ三人で行こう」


三人が連なりイーグル騎士団へ向かった。

途中、団長やブライアンを見てコソコソ話している女性職員達。

ブライアンは美形なので分かるが、団長もブライアンとは違うタイプの美形なので、女性人気はブライアンの次にある。
独身なのも人気の理由だろう。
だから二人が並んで歩く姿は、一見の価値がある。
私ですら拝みたくなるほどだ。

後ろから二人を眺めていたら、急に背中に何かが当たった。
何?と思ったら、背中に痛みが広がった。

「キャーーーーーーー」

と悲鳴が聞こえた。

あまりの痛みに膝をついた。
「シシリー!」
ブライアンが駆け寄り、私を横向きに寝かせ、団長は私の横を走り抜けて行った。

「シシリー、シシリー、大丈夫か、今止血する!誰か、誰か医務室の先生を連れてきてくれ!シシリーが刺された!」

「ブライアン…誰が…」

「喋るな!刺したのは何処かの令嬢のようだが分からない。団長が取り押さえた!
早く、誰か、クソッ、シシリー、痛いだろうが我慢してくれ、俺が運ぶ!」

誰も足が動かないのか、医師を呼びに行かないので、ブライアンは私を抱き上げ走り出した。

「シシリー、シシリー、ごめん、痛いよな、もう少しだから我慢して!」

ブライアンが泣きそうな顔で話しかけていた。

「シシリー、シシリー、ダメだ、目を開けて!シシリー、お願い、目を開けてくれ!」


遠くでブライアンの声が聞こえていたが、何を言ってるのか分からなくなり、私は意識を失くした。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

身分を捨てて楽になりたい!婚約者はお譲りしますわね。

さこの
恋愛
 ライアン王子には婚約者がいる。  侯爵家の長女ヴィクトリアと言った。  しかしお忍びで街に出て平民の女性ベラと出あってしまった。  ベラと結婚すると国民から人気になるだろう。シンデレラストーリだ。  しかしライアンの婚約者は侯爵令嬢ヴィクトリア。この国で5本指に入るほどの名家だ。まずはヴィクトリアと結婚した後、ベラと籍を入れれば問題はない。  そして結婚式当日、侯爵家の令嬢ヴィクトリアが来るはずだった結婚式に現れたのは……  緩い設定です。  HOTランキング入り致しました‪.ᐟ‪.ᐟ ありがとうございます( .ˬ.)"2021/12/01

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】王子妃教育1日無料体験実施中!

杜野秋人
恋愛
「このような事件が明るみになった以上は私の婚約者のままにしておくことはできぬ!そなたと私の婚約は破棄されると思え!」 ルテティア国立学園の卒業記念パーティーで、第二王子シャルルから唐突に飛び出したその一言で、シャルルの婚約者である公爵家令嬢ブランディーヌは一気に窮地に立たされることになる。 シャルルによれば、学園で下級生に対する陰湿ないじめが繰り返され、その首謀者がブランディーヌだというのだ。 ブランディーヌは周囲を見渡す。その視線を避けて顔を背ける姿が何人もある。 シャルルの隣にはいじめられているとされる下級生の男爵家令嬢コリンヌの姿が。そのコリンヌが、ブランディーヌと目が合った瞬間、確かに勝ち誇った笑みを浮かべたのが分かった。 ああ、さすがに下位貴族までは盲点でしたわね。 ブランディーヌは敗けを認めるしかない。 だが彼女は、シャルルの次の言葉にさらなる衝撃を受けることになる。 「そして私の婚約は、新たにこのコリンヌと結ぶことになる!」 正式な場でもなく、おそらく父王の承諾さえも得ていないであろう段階で、独断で勝手なことを言い出すシャルル。それも大概だが、本当に男爵家の、下位貴族の娘に王子妃が務まると思っているのか。 これでもブランディーヌは彼の婚約者として10年費やしてきた。その彼の信頼を得られなかったのならば甘んじて婚約破棄も受け入れよう。 だがしかし、シャルルの王子としての立場は守らねばならない。男爵家の娘が立派に務めを果たせるならばいいが、もしも果たせなければ、回り回って婚約者の地位を守れなかったブランディーヌの責任さえも問われかねないのだ。 だから彼女はコリンヌに問うた。 「貴女、王子妃となる覚悟はお有りなのよね? では、一度お試しで受けてみられますか?“王子妃教育”を」 そしてコリンヌは、なぜそう問われたのか、その真意を思い知ることになる⸺! ◆拙作『熊男爵の押しかけ幼妻』と同じ国の同じ時代の物語です。直接の繋がりはありませんが登場人物の一部が被ります。 ◆全15話+番外編が前後編、続編(公爵家侍女編)が全25話+エピローグ、それに設定資料2編とおまけの閑話まで含めて6/2に無事完結! アルファ版は断罪シーンでセリフがひとつ追加されてます。大筋は変わりません。 小説家になろうでも公開しています。あちらは全6話+1話、続編が全13話+エピローグ。なろう版は続編含めて5/16に完結。 ◆小説家になろう4/26日間[異世界恋愛]ランキング1位!同[総合]ランキングも1位!5/22累計100万PV突破! アルファポリスHOTランキングはどうやら41位止まりのようです。(現在圏外)

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

処理中です...